Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(9)

2011-12-29 23:51:20 | 小話

泣かせた私が泣かせてしまったなんてことだと、さっきまでパニック寸前だったたぬたんぐ

大佐は、エドワードがおててで涙を拭いたのを見て、どんなにほっとしたことでしょう。

急いでティッシュを出し、はなをかんでやりました。

エドワードはまだすんすんとしゃくり上げていましたが、大佐の真剣さに心をうたれたのか、

歯を食いしばって嗚咽をおさめると、はっきりと言いました。

「大佐、俺、弟に会いたいんだ」

たぬたんぐ大佐にとっては初めて聞く話でした。エドワードは全くの天涯孤独だと思い

込んでいたからです。

「エドワード、君には弟がいたのか」

「…うん」

「今、どこにいるんだ?」

「わかんねえんだ。小さい時に離ればなれになって、ずっと会ってないから」

「そうか。覚えていることを、できるだけ詳しく話してごらん。探す方法があるかもしれない」

たぬたんぐ大佐が優しく言うと、エドワードは頷いて、今まであまりしようとしなかった身の上

話を始めました。

エドワードは二匹兄弟で、同じ毛と目の色をした弟がいたというのです。弟の名は、

アルフォンスといいました。

親はなく気付いた時には二匹だけで、助け合って暮らしていました。

そんなある冬の日、アルフォンスは風邪気味でした。外はひどく冷え込んでいて、雪も

ちらつきはじめています。いつも寝床にしている小屋に早く戻ろうとして、兄弟が急ぎ足で

歩いていると、何か全くかいだことのない、肉食獣らしい匂いを感じました。

異変を察知したエドワードが、風邪で鼻の効かないアルフォンスに、遠回りをしようと

言いかけたその時に、突然目の前に巨大な生き物の影が立ちふさがったのです。

とにかく怖くて、兄弟は震え上がり、必死でその場から逃げ出しました。じきにはぐれて

しまい、エドワードはその大きな生き物の気配がなくなってから、アルフォンスがいそうな

場所を探して廻りましたが、どこにも弟の姿はなかったのです。知り合いの動物たちに

尋ねましたが、全く手がかりはありませんでした。

「それは一体、何だったんだ」

「今でもわからない…でも、前が全然見えなくなるくらいだった。俺、子どもだったから

正確じゃないけど、二メートルじゃきかないと思う」

アルフォンスとはぐれた場所は、たぬたんぐ大佐が以前暮らしていたたぬき軍部のある

村よりも北に位置していて、エドワードはその周辺で生活しながら、弟を探していたのだ

そうです。近場の村にはもう行き尽くし、別な場所にも当たろうと行動範囲を広げて

みたら、道に迷ってしまったのでした。空腹で困っていたところを、大佐に出会ったという

訳なのです。

今まで大佐にこのことを話さなかったのは、エドワードを見て大佐が「初めて見る目の

色だ」と言ったので、大佐はアルフォンスのことは知らないと判断したからだと、エドワード

は話しました。

たぬたんぐ大佐は、先ほどから、まるでどこかの忍びのように気配を消して控えていた

ブレダを手招きしました。

たぬたんぐ大佐は大佐ですから、こういう時にどうしたらいいかはよく知っています。

「エドワードと同じ毛皮と目の色をした雄の猫を探せ。至急だ」

「はっ」

「別の名前になっている可能性もある。似た特徴の猫はすべて、年齢は問わず、

居場所を把握して私に報告しろ。念のため『巨大な生き物』の方の情報も集めるんだ」

「わかりました。たぬき軍部の総力を挙げて調査します」

「そうだな、この際だからあなぐま軍部とあらいぐま軍部と、いたち軍部にも協力を要請

しろ。必要なら私の名前を出すんだ」

「フェレット軍部にも頼みますか」

「あの新興勢力か…いいだろう。とにかく情報が必要だからな」

「了解です」

ブレダは走り去りました。他ならぬエドワードのためですから、大佐は可能な限りの人脈、

ではなくてたぬき脈を、ここぞとばかりに奥の手として使いました。結果的にエドワードを

だますことになってしまったおわびの意味合いもありましたが、てきぱきと部下に指示する

たぬたんぐ大佐の姿を、エドワードが感嘆して見つめているので、はりきりまくったのです。

「大佐ってすごいんだな」

「なに、このくらいは大したことではないさ」

「ありがとう、大佐」

「礼を言うのはまだ早いぞ、エドワード。それよりも」

たぬたんぐ大佐は改まって、エドワードの前に跪きました。ふさふさしっぽを横に従える

ようにして、黒い目に力をこめて見上げます。

「エドワード、君を傷つけるのがつらくて、今まで本当のことを言わなくてすまなかった。

君の弟を探し出すために努力すると約束する。だから、許してくれるか」

「うん」

エドワードが元気よく頷いたので、大佐はほっとしました。

あのピナコ・ミー・ロックベルの言っていた『チャームの魔法』の効き目なのでしょうか、

エドワードは機嫌を直し、たぬたんぐ大佐と前足をつないできました。

大佐はとても嬉しかったのです。

そして大佐は、アルフォンスがどこかで元気でいることをひたすら願いました。エドワードを

不安にさせるのを避けるため、口には出しませんでしたが、寒い冬の夜、子猫が一匹で

生き抜くのはなかなかに厳しいものがあります。それに大きな動物がうろうろしていたの

なら、襲われた可能性も否定できません。誰かに拾われていればいいのですが…

「エドワード、弟のアルフォンスくんが」

「アルでいいよ」

「そうか。では、アルくんがもしも見つかったら、エドワードはどうしたいんだ?」

そう尋ねると、エドワードはちょっと口ごもりました。

「…俺、アルと暮らしたい」

その言葉を聞いて、たぬたんぐ大佐は少しだけですが、寂しい気持ちになりました。

兄弟がもしも一緒に暮らせる日が来たら、大佐とエドワードの二匹の旅は、終わることに

なるからです。

………続く………

明日のコミケで、先日小説を寄稿させて頂いた新刊が初売りになります。

サイトのHOMEから情報をご覧になれますので、よろしかったらどうぞ。

管理人はコミケには行けないので、皆さんにとって楽しいイベントでありますように

お祈りしております。暖かいといいですね。

たぬたんぐ話も佳境(第一部の)に入ってきました。ハクビシン軍部も出そうかと思ったん

ですが、マイナー過ぎるかな?と思って止めておきました。

ご来訪、拍手ありがとうございます!