夏コミに続きましてインテでも、たくさんの方々にお世話になり、本当にありがとうございました。
同人界を取り巻く環境も変化し、今後の活動のあり方について色々と考えつつ、これからも
精進して参りますので、よろしくお願いいたします。
夏コミペーパーの小話の続きを、インテペーパーに載せています。
以下再掲しましたので、よかったらご覧ください。
「サンドイッチの話 続き」
ロイは、いつも執務室で見ているのとは違って、くつろいだ表情だった。
おはようと言えば良いのかもしれない。でも、それはどうしてか言葉にならない。
「勝手に材料使わせてもらってる。あと、台所も」
「構わんよ。あるものは何でもどうぞ」
エドワードは頷いて、トマトを薄切りにした。よく切れるナイフだった。
「何か手伝おうか」
「じゃ、このバゲットに切り込みを頼むぜ。完全に切り離さないで、片側はつなげて」
「わかった」
ロイはナイフを手に取り、エドワードの言う通りに一つずつ切り分けていった。
「これにトマトをのせてから、チーズとハムを挟むんだ」
「それはいいな」
「トマトに少し塩をふるのがコツなんだ」
「ほう」
「この前、うまい店を見つけて、それで教えてもらった」
ロイが渡してくれた塩をトマト一つ一つに振りかけて、パンにはさんで閉じていく。
なじむまで待てばできあがりだ。トマトの赤とチーズの薄黄色、ハムの桃色が、しっかりした固さのある
パンの間から覗いている。
大きな皿を一度取り出したが、思い直してそれに盛るのはやめる。エドワードは、できたサンドイッチを
それぞれ紙にくるんでいった。
ここにはいないホークアイの分もある。誰かに持って行ってもらって、彼女に渡し、昼食にでも
してもらえばいい。
がさがさという音を聞いて、皆が目覚めて動き出した。
「うまそうだな」
最後に顔を洗って着替えたブレダと、毛布を片付け終わったフュリーが言った。
ファルマンは、慣れた手つきでコーヒーの準備にかかっている。
時刻を見ればまだ、司令部が動き出すにはだいぶ早いが、すでに酒の残ったぼんやり顔は見当たらない。
――頼もしいよな、この人たち。
エドワードはかつて、その優れた頭脳で、ともすれば大人たちをも自分の尺度で測ろうとしていた。
錬金術にのめり込んでいた頃は、学校の授業もろくに聞かなかった。わかっている内容だから
聞く必要はないと思い決めて、構築式ばかり考えていた自分が、果たして教師にはどう見えていたのか。
苦々しく思いながら、大目に見てくれていたことだろう。
それがわかる今となっては、自分がこうした大人たちの素晴らしさを知らないままで終わらずに済んだ
ことを感じ、何かに感謝したいような気持ちになっている。
「大将のサンドイッチか。貴重だな」
「大佐も手伝ったぜ。パンを切るのをな」
ほうろうのカップに入ったコーヒーが配られ、めいめいが食べ始める。
エドワードはその様子を、まずは見守った。
「旨いな、これ」
「トマトでパンが柔らかくなって、食べやすいよ」
フュリーの笑顔が、エドワードはとても嬉しい。
ロイも食べているのを見て、エドワードはひそかにほっとする。
「今度、機会があったら私が作ってやる。ホットドッグでどうだ。ブレダ直伝の作り方がある」
「いいっすね」
ロイの言葉に皆が応じるのを聞いて、エドワードは思う。
そんな時が本当に来ればいい。
こうしていることは楽しい。心が、兄弟でいる時とは違った満たされ方をするのがわかる。
アルフォンスといると――それが鎧姿であっても――自分が本来の自分に還るような気がする。
濃い血のつながりのもたらす心地よく、懐かしく、落ち着いた感覚だ。
でも、東方司令部の皆と過ごしていると、自分が空に向かって伸びていく木になったように、
どこまでも青いはるか遠くに、ぐいと運ばれていくような気がするのだった。
知らない世界を追いかけて、成長を遂げたいという心が、身体の奥底からわき出てくる。
誰が、自分をこんな気持ちにさせるのだろうか。
エドワードはふと、窓のそばの椅子に座っている黒髪の男を見た。
軍服のワイシャツを着込んで、サンドイッチを手に持っている男だ。そのバゲットを切り分けて、
塩を探してくれた。
ひどく厳しかったり、そうかと思えばからかったり。時には人を食った態度を取る。
確かにいけ好かないけれど、この妙に気になる感じは何だろう。
俺は忙しいんだ。
思い出せ、旅の目的を。
このまま見ていれば、きっと大佐は気付いて「どうした」と話しかけてくる。
期待している訳じゃない。
気にしていると思われるのもしゃくにさわる。
面倒はごめんだ。
面倒なのはロイという存在ではなく、自分自身の心が動いてしまうことなのだと、エドワードは
薄々気付いている。
今はとりあえず食べるのだ。
エドワードは一本に縛った金髪を一振りして、サンドイッチにかみついた。
おわり
同人界を取り巻く環境も変化し、今後の活動のあり方について色々と考えつつ、これからも
精進して参りますので、よろしくお願いいたします。
夏コミペーパーの小話の続きを、インテペーパーに載せています。
以下再掲しましたので、よかったらご覧ください。
「サンドイッチの話 続き」
ロイは、いつも執務室で見ているのとは違って、くつろいだ表情だった。
おはようと言えば良いのかもしれない。でも、それはどうしてか言葉にならない。
「勝手に材料使わせてもらってる。あと、台所も」
「構わんよ。あるものは何でもどうぞ」
エドワードは頷いて、トマトを薄切りにした。よく切れるナイフだった。
「何か手伝おうか」
「じゃ、このバゲットに切り込みを頼むぜ。完全に切り離さないで、片側はつなげて」
「わかった」
ロイはナイフを手に取り、エドワードの言う通りに一つずつ切り分けていった。
「これにトマトをのせてから、チーズとハムを挟むんだ」
「それはいいな」
「トマトに少し塩をふるのがコツなんだ」
「ほう」
「この前、うまい店を見つけて、それで教えてもらった」
ロイが渡してくれた塩をトマト一つ一つに振りかけて、パンにはさんで閉じていく。
なじむまで待てばできあがりだ。トマトの赤とチーズの薄黄色、ハムの桃色が、しっかりした固さのある
パンの間から覗いている。
大きな皿を一度取り出したが、思い直してそれに盛るのはやめる。エドワードは、できたサンドイッチを
それぞれ紙にくるんでいった。
ここにはいないホークアイの分もある。誰かに持って行ってもらって、彼女に渡し、昼食にでも
してもらえばいい。
がさがさという音を聞いて、皆が目覚めて動き出した。
「うまそうだな」
最後に顔を洗って着替えたブレダと、毛布を片付け終わったフュリーが言った。
ファルマンは、慣れた手つきでコーヒーの準備にかかっている。
時刻を見ればまだ、司令部が動き出すにはだいぶ早いが、すでに酒の残ったぼんやり顔は見当たらない。
――頼もしいよな、この人たち。
エドワードはかつて、その優れた頭脳で、ともすれば大人たちをも自分の尺度で測ろうとしていた。
錬金術にのめり込んでいた頃は、学校の授業もろくに聞かなかった。わかっている内容だから
聞く必要はないと思い決めて、構築式ばかり考えていた自分が、果たして教師にはどう見えていたのか。
苦々しく思いながら、大目に見てくれていたことだろう。
それがわかる今となっては、自分がこうした大人たちの素晴らしさを知らないままで終わらずに済んだ
ことを感じ、何かに感謝したいような気持ちになっている。
「大将のサンドイッチか。貴重だな」
「大佐も手伝ったぜ。パンを切るのをな」
ほうろうのカップに入ったコーヒーが配られ、めいめいが食べ始める。
エドワードはその様子を、まずは見守った。
「旨いな、これ」
「トマトでパンが柔らかくなって、食べやすいよ」
フュリーの笑顔が、エドワードはとても嬉しい。
ロイも食べているのを見て、エドワードはひそかにほっとする。
「今度、機会があったら私が作ってやる。ホットドッグでどうだ。ブレダ直伝の作り方がある」
「いいっすね」
ロイの言葉に皆が応じるのを聞いて、エドワードは思う。
そんな時が本当に来ればいい。
こうしていることは楽しい。心が、兄弟でいる時とは違った満たされ方をするのがわかる。
アルフォンスといると――それが鎧姿であっても――自分が本来の自分に還るような気がする。
濃い血のつながりのもたらす心地よく、懐かしく、落ち着いた感覚だ。
でも、東方司令部の皆と過ごしていると、自分が空に向かって伸びていく木になったように、
どこまでも青いはるか遠くに、ぐいと運ばれていくような気がするのだった。
知らない世界を追いかけて、成長を遂げたいという心が、身体の奥底からわき出てくる。
誰が、自分をこんな気持ちにさせるのだろうか。
エドワードはふと、窓のそばの椅子に座っている黒髪の男を見た。
軍服のワイシャツを着込んで、サンドイッチを手に持っている男だ。そのバゲットを切り分けて、
塩を探してくれた。
ひどく厳しかったり、そうかと思えばからかったり。時には人を食った態度を取る。
確かにいけ好かないけれど、この妙に気になる感じは何だろう。
俺は忙しいんだ。
思い出せ、旅の目的を。
このまま見ていれば、きっと大佐は気付いて「どうした」と話しかけてくる。
期待している訳じゃない。
気にしていると思われるのもしゃくにさわる。
面倒はごめんだ。
面倒なのはロイという存在ではなく、自分自身の心が動いてしまうことなのだと、エドワードは
薄々気付いている。
今はとりあえず食べるのだ。
エドワードは一本に縛った金髪を一振りして、サンドイッチにかみついた。
おわり