秋のメインイベント、運動会がやってきた。
ロイの勤務する小学校は学年三クラス編成になっているので、赤白青の三チームに
分かれて競技し合うことになっている。
校長であるキング・ブラッドレイは晴れ男の誉れが高い。反面ロイは、教師となってまだ
三年目にもかかわらず、雨男ではないかという評判をとっていた。
今回は二人の要素が丁度良くかみ合ったものか、薄曇りで時折そよ風が吹くという
絶好のコンディションだった。青空は絵的には美しいが、過剰な日焼けや熱中症の危険を
伴うので、雨が降らない程度の曇りが実は最も望ましい。前日の朝までは雨模様だったのが
逆にグランドの土埃が飛ばないように抑えてくれた。
一年生たちは練習の成果で、四列に並んで元気に入場行進を終えた。まだ音楽に合わせて
腕を振り歩くだけで精一杯だが、みんなの一生懸命な姿にロイは感動してしまった。
整列するだけで長時間かかった入学当時を思うと、まるで夢を見ているようである。
徒競走では、エドワードとリンがそれぞれ一番になって帰ってきた。
ロイはゴール近くで子どもたちが走ってくるのを出迎えて、間違いの無いように
順位ごとに並ばせていた。それにもかかわらず、自分たちの席に戻ったときに
「先生、俺一位!一位!見た!?聞いた!?」
頑張ったな、すごいなと声をかけてやると、「俺、し・あ・わ・せー」などと言い出すので
可愛かった。その直後、玉入れで惜しいところで負けると身も世もなく悔しがり、
それでも涙をこらえているので、思わずもらい泣きしそうになる。
基本的に一年生の担任は座席で子どもたちの様子を見ているのだが、当番の六年生も
二名ほどそばについてくれていて、一年生が出場する競技が迫ってくると、整列させる手伝い
をする。そんなわけで、ロイの近くにハボックがやってきた。
「おう、ご苦労様。調子はどうだ」
「なんとか一位とれました。あとはリレーです」
「そうか」
「俺本当は体育委員長になりたかったんすよねー」
「そうなのか?それはまた、どうしてだ」
販売委員長としてまじめに仕事をしている彼としては意外な言葉に、ロイは聞き返した。
「運動会でラジオ体操やりたくて」
プログラム二番のラジオ体操第一で(一番は開会式)、体育委員長の六年生が指揮台に
あがり、ラジオ体操の模範演技をする。スポーツの得意なハボックはそれに憧れていた
らしい。なるほど。
「あれ、全部反対向きにやらないといけないから大変らしいぞ」
はいと言いながらハボックは伸びをした。
「俺、運動会の日って、一年で一番楽しい日なんですよ」
それは良かったとロイは頷く。
「じゃあ、二番目に楽しいのは何の日なんだ?」
「そりゃもう、運動会の予行っす」
ロイは爆笑した。よく遊んで貰ってなついているエドワードがハボックの首っ玉に
「じゃんー」と言いながら抱きついてきた。
万国旗が上空で風にはためいている。
一年生の小学校生活初めての運動会と、六年生の最後の運動会。
多分成功だ。
……………
ちなみに、ロイが「修学旅行はどうなんだ」と聞いてみたところ、それは
「小学校六年間で一番楽しい日」なんだとハボックは言いましたとさ。
サイトを見てもおわかり頂けると思いますが、管理人は相当なハボック好きでもあります。
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