Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(8)

2011-12-25 11:19:50 | 小話

「エドワード!!」

たぬたんぐ大佐は駆け寄りました。こんなにうろたえたのは記憶にありませんでした。

「大丈夫か!?」

エドワードを抱き起こすと、赤い顔をしてはあはあと浅い息をしています。明らかに

相当な熱が出ています。

「なんてことだ…」

エドワードの身体はとても熱く、大佐はどうしていいかわかりません。病気の猫の世話など

したことがないのです。何よりずっと元気だったエドワードのぐったりした姿が、

心配で心配でたまりません。

「しっかりしろ」

エドワードを抱えたまま途方に暮れる大佐に、ピナコが言いました。

「あんたの家はどっちなんだい」

「旅の途中なので、家はないんです」

うつむいて答えると、ピナコが親切な言葉をかけてくれました。

「よかったら、家はこの近くだから、休んでいかないかい。薬草も揃ってるよ」

「助かりますが…いいんですか!?」

「勿論さ、最初に世話になったのはこっちだ」

「そうよ、困った時はお互い様だもの」

ウインリィもしっぽを一振りして、先に立って案内してくれました。

エドワードを抱いたまま、大佐は後に付いていきました。エドワードは小さく軽くて、

苦しそうなのが可哀相でなりませんでした。

木で出来た小さな小屋の中の、清潔な藁が敷かれている所にエドワードを寝かせました。

熱に良く効くという薬草をピナコが煎じてくれ、蜂蜜で甘くしたものを大佐が口元に持って

行くと、エドワードは半分寝ながらそれを飲み、むにゃむにゃとまた横になりました。

「疲れたんだろうね。風邪をひきやすい季節だし。二、三日ここで寝ていくといいよ」

「本当に、ありがとうございます」

たぬたんぐ大佐は深く頭を下げました。

しばらくすると薬草が効いたらしく、エドワードは肉球に汗をかきはじめました。大佐は

それをこまめに拭き、時々水を飲ませ、果物をむいてやり、合間にはうちわでそよそよと

風を送ってあげました。

「さっき拾ったんだけど、これはこの子のものかな」

ピナコが差し出した手帳は、以前大佐がエドワードにあげた物でした。

「そうです、すみません」

受け取ろうとした時、ページの間から紙切れが何枚か落ちました。

拾ってたぬたんぐ大佐は驚きました。それには、小さな錬成陣が描かれていたのです。

エドワードが考えたもののようでした。

「…」

大佐はその紙と、エドワードの寝顔を見比べて、困り果てました。

猫には、いくら勉強しても、たぬきの錬金術は使えないと思われるからです。それを知らず、

未来を夢見て描いたのでしょう。

自分のしたことが、残酷な結果を生んでしまいそうで、大佐はまたうつむきました。

「この子も錬金術師なのかい?」

「いえ」

大佐は、小声で打ち明けました。ひょんなことから一緒に旅をすることになって、無理と

知りつつ、錬金術を教える約束をしてしまったと。

「…それは、この子を傷つけたくないなら、むしろなるべく早めに打ち明けた方がいいね」

「そうですね」

「でも、辛いところだね」

「はい」

昏々と眠るエドワードを見守りながら、妖精とたぬきは悲しい気持ちになりました。

大佐は、一緒に旅をして一ヶ月、自分がこれほどエドワードを大切に思っているとは、

今まで自覚していなかったのです。そしてピナコは大佐の献身的な看病ぶりに、ただただ

感心していたのでした。

「でも、この子には不思議な力があるね」

「…はい」

口に出しませんでしたが、エドワードが困っている人を見つけられることを指していると、

お互いわかりました。

「それから、あんたにもね」

「はい?」

たぬたんぐ大佐はきょとんとしました。

「我々妖精の世界では『チャームの魔法』というけれど、その気になって見つめれば、

相手の心を惹きつけることができるのさ」

これは、大佐が雌の動物にやたらともてることを意味しているのでしょうか。軍部でも

雌たぬきに人気はありましたが、このごろではさらにその傾向が強いので、大佐自身も

ちょっと不思議だったのです。

「いや、以前黒豹のグループに出会った時に、似た力を持っている豹がいたんだよ」

「はあ」

「あんたは大佐だったね。その豹は確か、少佐だったよ。知り合いではないかい」

確かバンコランとかいったよ、とピナコは言いました。大佐にとっては初耳でした。

………

三日後にはエドワードの熱も下がり、食欲も戻ってきて、また旅に出ることができるように

なりました。時折エドワードはウインリィとも遊び、友達ができて嬉しそうでした。大佐は

お礼にと、家の中の用事を引き受けたり、力仕事を手伝ったりしました。

情けは他たぬきのためならず。

「近くに来ることがあったら、また寄っていってね」

「ありがとうございました」

エドワードと大佐は前足を振って、また歩き始めました。

「親切な人たちだったな、エドワード」

「…ん」

「まだ本調子ではないだろう。時々休もうな」

「ん」

大佐は、こちらを見ようとしないエドワードの方を、じっとうかがいました。エドワードはもう

健康体のはずなのですが、態度がちょっと変なのです。

たぬたんぐ大佐はここ三日、たいへん熱心にエドワードの看病をしていました。

それなのに、大佐に対してだけ、どうも拗ねた様子なのです。当然、大佐はちょっと面白く

ありませんでした。

「それからなエドワード。具合が悪いときはちゃんと言うんだ。でないと余計にひどくなる

から、本当のことを話さないといけないぞ」

そう言った時です。突然、エドワードがキッと睨んできました。

「大佐の方こそ、俺に嘘ついてるじゃないか!」

涙のたまった金色の目に、大佐は内心ぎくりとしました。

「…何だ」

「俺、猫だから大佐の錬金術使えないんだろ。だったら最初に教えてくれよ。ひどいじゃ

ないか」

そう叫んで、エドワードはぽろぽろと涙をこぼしました。

エドワードが完全に眠っていると思い込んで、近くでピナコと話した内容を、実は聞かれて

しまっていたのです。

これにはもう、弁解のしようがありません。大佐はエドワードに謝りました。

「すまない。だますつもりではなかった」

「…俺には不思議な力があるって、何の話なんだよ」

大佐は説明しました。しかし、それはエドワードを元気づける話ではありませんでした。

エドワードは顔を両前足で覆い、しくしくと泣きました。

「困ってる人を探せるのはいいけど…俺が欲しかったのは、そんな力じゃないんだ」

あとはなかなか言葉になりませんでしたが、良く聞くと、それじゃだめなんだと繰り返して

います。

たぬたんぐ大佐は尋ねました。

「エドワード、君は何か、したいことがあるのか」

エドワードはしゃくり上げながら、首を縦に振りました。

「なら、それを話してくれないか。私が何か役に立てるかもしれない」

これまでのエドワードの熱心な修行ぶりを思い起こすと、何らかの大切な目的があり、

それが原動力だったとしか考えられません。

「大佐、俺の話聞いてくれる?」

「当たり前だ、エドワード。私でできることなら何でもする」

………続く………

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