Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

新刊出ます!!

2019-04-30 10:12:03 | 日記
5月4日(土・祝)SUPER GATHERING DAY2019
東京ビッグサイト西2ネ02a「3P2D」で参加です。
管理人は残念ながら行けませんが、相方のシンさんが直参です。

1年ぶりの新刊、おかげさまで入稿できました!
ロイエド小説「恋のはなし」です。


東方司令部の大佐のもとに立ち寄った、エドワードとアルフォンス。
まともな食事をとっていないエドワードを心配する大佐と、素直になれないエドワード。
何だかんだで一緒に食事をしたり、お互いに料理を作ってあげたりするうち、
だんだんと距離が縮まるのを感じて戸惑うふたり。
そんな時、パスタを食べたエドワードが倒れて……という話です。

イベントペーパーに連載していた話をまとめて、新しい話を書き下ろしてまとめました。
A5/表紙込み52P/全年齢、食べ物がテーマのほのぼのハッピーエンド話となっています。
お手にとっていただけたら嬉しいです。
後日、おしながきもアップします。

新刊の頒布は、イベント、荷物が自宅に戻ってきましたら自家通販とBOOTHを
考えています。K-BOOKS様に代わる書店委託も検討しています。
自家通販ご希望の方は、自宅に荷物が届いたらまたアナウンスしますので、
メールかツイッターのDMでお問い合わせください。

「恋のはなし」以下本文サンプル

ドーナツの話

東方司令部の廊下にある西向きの窓から、眩しい陽光が射し込んでいる。歩きながらそちらに目をやっているのは、青い軍服を着た男だ。
朝夕は今もかなり冷え込むが、季節はもうすぐ春なのだ。
男の黒い髪も、光を受け止めて少しだけ、明るく見えていた。
「忙しくなるな」
 春になると、テログループの動きが活発化する傾向がある。各種の祭りの警備も忙しい。
 これも毎年のことだった。

ロイ・マスタング大佐は、午後からの軍議を終え、情報部へと戻ってきた。
 ドアを開けると、いつものように部下たちが忙しく立ち働いている。
 緊急の様子はないか見るロイに、ホークアイ中尉が話しかけてきた。
「お疲れ様でした、大佐。そちらに面会です」
「わかった」
 ホークアイは少しだけ微笑んでいた。
受け取ってきた資料を手渡して、ロイは執務室のドアに向かった。朝の予定にはなかったが、そういえばそろそろ、彼が来る頃のはずだ。

執務室に置かれている革張りのソファーには、予想通り、赤いコートを着たエドワードが座っていた。
「やはり君だったか、鋼の」
金髪の頭がひょいと持ち上がる。隣には、大きな鎧姿も揃っている。
ホークアイの表情が明るかったのは、この兄弟が来たからだった。
彼らが司令部を訪れると、ホークアイだけではなく、部下たち皆がどこか安心するようで、情報部には歓迎ムードが漂う。
大人たちは彼らに好感を持っていて、同時に心配もしている。それなのにエドワードは、いつものようにふてくされて見せていた。
「悪いかよ」
 眉間に皺を寄せて、こちらに目を合わせようとしないのも、相変わらずだ。
 それを見たアルフォンスが、鎧の身体をきしませながら、礼儀正しく頭を下げた。
「おじゃましてます、大佐」
 いつも挨拶をきちんとする弟に構わず、その類い稀なる頭脳を持った金髪の少年は、紙袋を開けた。ロイが見れば、ごそごそと何かを取り出している。
「ちょっと、ここで食べてもいいかな」
「それは構わんが」
 執務室では、来客に茶を出すし、菓子があれば添えることもある。ロイも、ここで簡単な食事をする。エドワードもそれを知っていた。
「それじゃ」
エドワードは、取り出した小ぶりのドーナツを、早速食べ始めた。
グラニュー糖のまぶしてある、オーソドックスなものだ。たちまちそれは、少年の口の中へと姿を消した。
 ロイは尋ねた。
「まだ二時半だぞ。もう腹が減ったのか」
 二個目を頬張りながら、エドワードは答える。
「……昼、食いっぱぐれた」
 まさか、それが食事なのか。
ロイは、自分の不規則な食生活を棚に上げて、眉をひそめた。

そこに、ホークアイが書類を持って入ってきた。
「大佐、こちらのチェックをお願いします」
「わかった。置いておいてくれ」
 ホークアイは、エドワードに目を留めた。
「あら、ドーナツね」
「ん」
 口の中がいっぱいのエドワードが頷く。
「飲み物なしでは、食べにくいだろう。茶を出してやってくれるか」
 ホークアイは「はい」と頷き、給湯室に向かった。エドワードは、続けて三つ目を食べ始めた。
 ロイが見ると、ドーナツの袋は結構大きく、かなりの数のドーナツが入っているらしい。
ロイは、二度目のまさかを思いついた。
今日の夕食と、明日の朝食あたりも、それで終わるつもりではないか。
大佐となって多忙を極める現在のことは置いておいて、エドワードと同じ年齢の頃は、ロイはもう少し、しっかりした食事をとっていた。
成長期の子どもが、ドーナツのような、油と糖分でできた菓子に近いものだけで、食事を済ませている。
 たまにというならともかく、日常的にそれはまずい。
世話を焼く大人がそばにいないというのは、こういう結果を招くのだ。
 
野菜も食え。
タンパク質をちゃんととれ。
 と、真面目に言ってみたところで、エドワードは素直に聞く相手ではない。ロイはそれをよく知っていた。
栄養学の知識も当然あるはずのエドワードだ。理屈は百も承知なのに、おそらく時間の節約のためにこうしている。体調はわずかずつ落ちていくが、若いときは気付きにくいものだ。
理詰めで説得しようとしても、効果はないだろう。その上、ロイの注意はうっとうしがる。
「そういう食生活をしていると、背が伸びないぞ」
 こういった物言いを、ロイはわざとする。この手強い子ども相手には、意図的に怒らせることで刺激し、反応を引き出すやり方しか、ロイは思いつかなかった。
「だーれーが、豆粒ドチビだって!」
 エドワードは勿論怒る。ロイが数え間違えていなければ五つ目のドーナツをテーブルに置いて(彼は食べ物を粗末にすることはない)腕をまくってこちらに凄んでみせる。
「君が小さいなどとは言っていない」
「言っただろ!」
 珍しい金色の目だ。睨まれても怖くはない。本気で怒っているのではなく、「怒って見せて」いるのだ。
金色の目が、こちらを見据えている。少し乱れた金髪の三つ編みが、少し近くに見える。

やがて茶が届き、エドワードは礼を言ってカップを取り上げた。
ロイは言った。
「ここには茶しかないが、ドーナツを食事代わりにするならせめて、一緒に牛乳でも飲んだらどうだ」
「は? 何でオレが牛乳なんて飲まなきゃなんねえんだよ」
 エドワードは心底嫌な顔をした。
「やめてよ、兄さん」
 アルフォンスが止める。
「すみません大佐。兄さん、昔から牛乳は嫌いなんです」
「そうなのか」
 ロイは驚いた。
「ふんっ」
 エドワードはそっぽを向いた。
 こうした態度をとっても大丈夫だという、信頼のような甘え。甘えのような信頼。
 やれやれとため息をつきながら、ロイは口の中だけで、かすかに笑った。
 何度、こういう会話をしただろう。
「いや、気を悪くしないでくれ。これでも心配しているんだ」
「ウソつけ!」
 エドワードは、自分の大佐としての能力はわかってくれていても、こういう点では信用されていないのもまた、ロイは知っている。

「そのくらいにしてください、大佐」
そこに、ホークアイが茶を運んでくる。
「元気そうね、エドワード君、アルフォンス君」
「お久しぶりです、中尉」
 場が和み、ロイは少しほっとする。
ホークアイに対しては、エドワードも普通に会話をする。彼女がいれば、自分は「兄弟の後見人として見守る」という、丁度良い距離を保てるのだった。
「報告書は、来週中だ。忘れないようにな」
「いちいち言われなくても、わかってる!」
 エドワードは、どすどすと足を踏みならして、執務室を出て行った。
 それを見送ったホークアイが、今度ははっきりと笑いながら言った。
「そろそろ、仕事にお戻りを。決裁待ちの書類がたまっていますから」
「ああ」
 ロイはペンを取った。

 ドーナツなど、しばらく食べていない。
 あの歯ごたえと、油の香りと甘さが、何かとても懐かしく思えた。
「元気そうで、良かったですね」
「そうだな」
 まずは、危険な旅をしている彼らが無事であることを、喜ぶべきだろう。
『誰が、豆粒ドチビだって』
 その場の誰一人として、そんなことを言っていないというのに。
 ロイは思わず、独りでふっと笑った。
 あれも、半ば無意識にでも、場を和ませるために言ってくれているのかもしれない。
「牛乳が嫌いとはな」
 こうした会話がもたらしてくれる、ひとときの安らぎの余韻を味わって、ロイは書類に目を落とした。
「そういえば、ちょっと変わったドーナツのお店が、向こうの通りにできたそうですよ」