Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(3)

2011-12-07 00:44:48 | 小話

ホットドッグ五個を詰め込んだぽっこりおなかで「あんた誰」とは、あきれたものです。

「人に名前を聞くときは、まず自分が名乗るものじゃないかい?」

たぬたんぐ大佐が言うと、子猫はぐっとつまりました。

「…エドワード」

大佐も自分の名前を言いました。

「そうか。私は、軍のたぬき、ロイ・たぬたんぐ。地位は大佐だ」

「ふうん」

無心は無敵、こうあっさりと納得されると、次の言葉が続きません。大佐は話題を転換

することにしました。

「こんな暗い森の中を、一匹で歩いていたら危ないだろう」

すると、子猫は言うのです。

「だって俺、一匹暮らしだから」

「お父さんお母さんはどうした」

尋ねても、子猫は首をかしげるだけでした。どうやら捨て猫のようでした。だから名字が

ないのです。

それなら空腹で行き倒れかけていたのも、無理もないというものです。なおも尋ねると、

村境にあるこの森に、隣村から迷い込んだとわかりました。

そして大佐は、その子猫は実は子猫ではなく、小柄な若い雄の猫であることに気がつき

ました。

曲線の美を尽くしている長いしっぽの先はみかん色で、毛並みは手入れが不十分な

ためにあまりよくありませんが、整った顔立ちをしています。

どっちみち隣村を目指していくつもりなのですから、この猫、エドワードを送っていったら

どうだろうと、たぬたんぐ大佐は考えました。

放っておけば、最近あちこちに出没するバッテン傷の野犬、スカー辺りに見つかるか、

さもなければたぬきも恐れる悪徳商人のヨキに捕まって、三味線の材料にされてしまう

かもしれません。隣村まではまる一日はかかるのです。

いやいや待て、と大佐の中のもう一つの声が止めます。突然わき起こる理屈に合わない

同情心、これまでのたぬき人生、いっつもこれに振り回されてきただろうと。

しかし財布の中には葉っぱじゃないお金がそれなりに入っているし、この猫一匹くらいなら

面倒を見られないことはありません。

とかそんなことを大佐が思っているとは知らずに、エドワードは立ち上がり、前足で

毛皮についたパンくずをはらっています。

「んじゃ」

「んじゃって君ねえ」

「お腹いっぱいになったし、帰る」

待て待て待てと大佐はエドワードを引き留めました。

「帰るって言っても、道がわからないだろう」

「わかる」

「わからないから、迷ったんだろう」

「今から本気出す」

「…」

こういう問答に慣れていないたぬたんぐ大佐は、軽く頭痛がしてきました。

「俺だってちょっと本気出せば強いんだ。もう大人だからな」

そう言って、エドワードはひげをぴんと立ててみせました。

ひげの先にまだケチャップがついたままなのには、気付いていません。この猫、

マスタードは辛いからつけるななどとさっきは言いよってからに。

大佐もついついむきになりました。

「私も強いぞ」

「じゃあ、大佐、何か強いとこ見せてみろよ」

へへん、と猫のしっぽが揺れました。

「わかった。見ていてごらん」

大佐は肉球の形に合わせた特注の手袋をつけて、ぱちんと両前足をすり合わせました。

そのときです。昼なお暗い森の中を、輝く焔が照らし出しました。

たぬたんぐ大佐の得意技です。

焔は赤く燃えて、また何事もなかったように消えました。

「…わあ!!すげえ!」

エドワードは目を丸くしています。大佐は内心「勝った」と思いました。

「ちょとちょと、これ貸して」

猫に手袋を奪い取られました。どうも油断すると、この猫のペースに巻き込まれてしまい

ます。これは心してかからなければなりません。一体何に。

エドワードはいささか大きい手袋を前足にはめて、ぽちん、ぽちんと見よう見まねで

すり合わせてみます。しかし、何事も起こりません。

当たり前です。錬金術を学んだ、選ばれしたぬきだけができる技だからです。

「大佐!俺にも、さっきの教えて!」

エドワードが前足を合わせておがんできます。  これは悪くない気分でした。

たぬたんぐ大佐はわざと勿体をつけて、重々しく言い渡しました。

「教えてもいいが、条件が二つある」

「何?何?」

「つらい修行があるが、がまんすること」

エドワードは、うんうんとうなずいています。

「それから、私の言うことをちゃんと聞くこと」

「わかった!」

かくして、エドワードとたぬたんぐ大佐は、なぜか一緒に旅をすることになってしまいました。

どうしても大佐は、この猫を放っておけなかったのです。

さっき二つの条件を出した時、エドワードが「そんなの簡単簡単~」と言っていたのには

一抹の不安を覚えましたが。

たぬたんぐ大佐が歩く周りを、エドワードがちょろちょろします。

「大佐ー大佐ー早く教えて」

「その前に、まずはそのひげをこれで拭きなさい。ケチャップがついてるぞ」

たぬき印の紙ナプキンを渡され、エドワードは顔を拭き、大佐を見上げました。

「取れた?」

「取れた」

再び歩き出した彼らは、隣村に向かいました。

二匹の前途に幸あれ。

………続く………

ご来訪、拍手、メッセージありがとうございます!

そろそろ眠気が限界なので、拍手コメントお返事は明日にさせてくださいませ。

あとひとつ、サイトに大層間抜けな英単語のスペルミスがありました。

「ENDLESS」が正しいです!「ENDRESS」ってなぜだか思い込んでました。

さきほど修正しました。こっそり教えてくださった方、助かりました。ありがとうございました!