ある日のことです。
准将がいつものように仕事から帰宅すると、エドにゃんが、妙に気合いの入った目をして、
玄関に肩をいからせて出迎えにきました。
「ただいま、エドワード」
「おかえり…だぜ、准将」
かすかな違和感を、准将はおぼえました。
「今日の夕食はなんだい?」
「ハンバーグ、だぜ」
いつもならにっこにこの笑顔でそう答えるのに、今日の子猫ちゃん、いやもとい自称十七歳の
エドワードは、片眉を上げてフッと笑って答えました。
「それは楽しみだ」
准将は普段と同じように返事をしました。
何かまた新しいことを始めたらしいなと、准将の丸いお耳の後ろがくすぐったくなりました。
エドワードの様子をさりげなく観察しますが、准将の脱いだ青い軍服をハンガーにかけ、
ブラシでほこりを払ってくれる様子はいつもと変わりません。機嫌は良さそうです。
しばらくして、ご飯の時間になりました。
自分の部屋で明日の会議の書類に目を通していた准将が、エドワードに呼ばれて食卓につくと、
美味しそうなハンバーグが、付け合わせの野菜と一緒にお皿に盛られて湯気を立てています。
エドワードも赤いエプロンをはずし、向かい合って座りました。
いただきますをして、食べ始めました。
しばらくして、エドワードはもう我慢できないといった様子で、話しかけてきました。
「准将、オレ、何か、変わった感じしねえ?」
准将が改めてエドワードを見ると、髪型が違っています。
エドワードの前髪は、一筋だけ、アンテナのようにぴんと立っているのですが、それが増えています。
わっさわさという感じで、一筋を一本と数えれば、ちょうど十本くらい。
不覚にも、さっきまで見ていた書類がややこしい案件だったので、考え事をしていて
今まで気付かなかったのです。
珍妙なものを見せられた准将は一瞬固まりましたが、そこは百戦錬磨のけものたらしですから、
「髪型を変えたんだね」
と、まずは言いました。
「さすが准将、一目で気付いてくれたんだな!」
静電気や爆発によるものではなく、エドワードが自らの意思でやったことだと、これで准将は確信しました。
「で、どう?」
「…似合うと思うよ」
ほんとか嘘か、内心自分でも微妙でしたが、とにかくそうほめました。
エドワードはまんざらでもなさそうです。
「そうか?」
そして、若干言葉遣いも変わっています。朝までのエドワードなら「そう?」と言うでしょう。
「ああ。なかなか可愛いよ」
そう口にした途端、エドワードがふくれました。
「違うよ准将。もう、わかってねえな。そこは『カッコイイ』だろ」
………いろいろ話をしたところ、准将が昨日、エドワードのために借りてきてあげた本が原因でした。
「猫の風俗史~写真でたどるこれまでとこれから~」です。
それに、うん十年前に流行した「なめ猫」の写真が載っていて、背伸びしたいお年頃のエドワードの
心を直撃したらしいのです。
うん、確かに、エドワードの使う錬金術のデザインセンスは、もともとちょっとアウトローだな…
それから、一時期着ていた、丈の短い黒い上着、あれって短ランぽかったかもなー…
金ボタンはついてないけど…
そんな思い出に一瞬我を忘れた准将に、エドワードは言うのです。
「オレはこれから、可愛いは卒業して、カッコイイを目指すんだ!!」
「はあ」
ボーゼンとして准将はハンバーグをのみ込みました。
これも以前は確かハート型だったな…今日は普通の楕円形になってる…
「明日から、准将の弁当のウインナー、タコさんにするのやめるからな! カッコイイ弁当にするから」
別にそれはどっちでもいいのですが、カッコイイって何だろうと、准将は久しぶりに考えてしまいました。
(続く)
※※※※※※
バカっぽくてすみません(スライディング土下座
出てきた単語(例:なめ猫、短ラン等)の意味がおわかりにならない若い方は、検索してみてください。
准将がいつものように仕事から帰宅すると、エドにゃんが、妙に気合いの入った目をして、
玄関に肩をいからせて出迎えにきました。
「ただいま、エドワード」
「おかえり…だぜ、准将」
かすかな違和感を、准将はおぼえました。
「今日の夕食はなんだい?」
「ハンバーグ、だぜ」
いつもならにっこにこの笑顔でそう答えるのに、今日の子猫ちゃん、いやもとい自称十七歳の
エドワードは、片眉を上げてフッと笑って答えました。
「それは楽しみだ」
准将は普段と同じように返事をしました。
何かまた新しいことを始めたらしいなと、准将の丸いお耳の後ろがくすぐったくなりました。
エドワードの様子をさりげなく観察しますが、准将の脱いだ青い軍服をハンガーにかけ、
ブラシでほこりを払ってくれる様子はいつもと変わりません。機嫌は良さそうです。
しばらくして、ご飯の時間になりました。
自分の部屋で明日の会議の書類に目を通していた准将が、エドワードに呼ばれて食卓につくと、
美味しそうなハンバーグが、付け合わせの野菜と一緒にお皿に盛られて湯気を立てています。
エドワードも赤いエプロンをはずし、向かい合って座りました。
いただきますをして、食べ始めました。
しばらくして、エドワードはもう我慢できないといった様子で、話しかけてきました。
「准将、オレ、何か、変わった感じしねえ?」
准将が改めてエドワードを見ると、髪型が違っています。
エドワードの前髪は、一筋だけ、アンテナのようにぴんと立っているのですが、それが増えています。
わっさわさという感じで、一筋を一本と数えれば、ちょうど十本くらい。
不覚にも、さっきまで見ていた書類がややこしい案件だったので、考え事をしていて
今まで気付かなかったのです。
珍妙なものを見せられた准将は一瞬固まりましたが、そこは百戦錬磨のけものたらしですから、
「髪型を変えたんだね」
と、まずは言いました。
「さすが准将、一目で気付いてくれたんだな!」
静電気や爆発によるものではなく、エドワードが自らの意思でやったことだと、これで准将は確信しました。
「で、どう?」
「…似合うと思うよ」
ほんとか嘘か、内心自分でも微妙でしたが、とにかくそうほめました。
エドワードはまんざらでもなさそうです。
「そうか?」
そして、若干言葉遣いも変わっています。朝までのエドワードなら「そう?」と言うでしょう。
「ああ。なかなか可愛いよ」
そう口にした途端、エドワードがふくれました。
「違うよ准将。もう、わかってねえな。そこは『カッコイイ』だろ」
………いろいろ話をしたところ、准将が昨日、エドワードのために借りてきてあげた本が原因でした。
「猫の風俗史~写真でたどるこれまでとこれから~」です。
それに、うん十年前に流行した「なめ猫」の写真が載っていて、背伸びしたいお年頃のエドワードの
心を直撃したらしいのです。
うん、確かに、エドワードの使う錬金術のデザインセンスは、もともとちょっとアウトローだな…
それから、一時期着ていた、丈の短い黒い上着、あれって短ランぽかったかもなー…
金ボタンはついてないけど…
そんな思い出に一瞬我を忘れた准将に、エドワードは言うのです。
「オレはこれから、可愛いは卒業して、カッコイイを目指すんだ!!」
「はあ」
ボーゼンとして准将はハンバーグをのみ込みました。
これも以前は確かハート型だったな…今日は普通の楕円形になってる…
「明日から、准将の弁当のウインナー、タコさんにするのやめるからな! カッコイイ弁当にするから」
別にそれはどっちでもいいのですが、カッコイイって何だろうと、准将は久しぶりに考えてしまいました。
(続く)
※※※※※※
バカっぽくてすみません(スライディング土下座
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