Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

ロイ・たぬたんぐ准将と勘違いしたエドにゃんのお話(1)

2015-10-12 19:54:54 | 小話
ある日のことです。
准将がいつものように仕事から帰宅すると、エドにゃんが、妙に気合いの入った目をして、
玄関に肩をいからせて出迎えにきました。

「ただいま、エドワード」
「おかえり…だぜ、准将」

かすかな違和感を、准将はおぼえました。

「今日の夕食はなんだい?」
「ハンバーグ、だぜ」

いつもならにっこにこの笑顔でそう答えるのに、今日の子猫ちゃん、いやもとい自称十七歳の
エドワードは、片眉を上げてフッと笑って答えました。

「それは楽しみだ」

准将は普段と同じように返事をしました。
何かまた新しいことを始めたらしいなと、准将の丸いお耳の後ろがくすぐったくなりました。

エドワードの様子をさりげなく観察しますが、准将の脱いだ青い軍服をハンガーにかけ、
ブラシでほこりを払ってくれる様子はいつもと変わりません。機嫌は良さそうです。


しばらくして、ご飯の時間になりました。
自分の部屋で明日の会議の書類に目を通していた准将が、エドワードに呼ばれて食卓につくと、
美味しそうなハンバーグが、付け合わせの野菜と一緒にお皿に盛られて湯気を立てています。
エドワードも赤いエプロンをはずし、向かい合って座りました。
いただきますをして、食べ始めました。

しばらくして、エドワードはもう我慢できないといった様子で、話しかけてきました。

「准将、オレ、何か、変わった感じしねえ?」

准将が改めてエドワードを見ると、髪型が違っています。
エドワードの前髪は、一筋だけ、アンテナのようにぴんと立っているのですが、それが増えています。
わっさわさという感じで、一筋を一本と数えれば、ちょうど十本くらい。
不覚にも、さっきまで見ていた書類がややこしい案件だったので、考え事をしていて
今まで気付かなかったのです。

珍妙なものを見せられた准将は一瞬固まりましたが、そこは百戦錬磨のけものたらしですから、

「髪型を変えたんだね」

と、まずは言いました。

「さすが准将、一目で気付いてくれたんだな!」

静電気や爆発によるものではなく、エドワードが自らの意思でやったことだと、これで准将は確信しました。

「で、どう?」
「…似合うと思うよ」

ほんとか嘘か、内心自分でも微妙でしたが、とにかくそうほめました。
エドワードはまんざらでもなさそうです。

「そうか?」

そして、若干言葉遣いも変わっています。朝までのエドワードなら「そう?」と言うでしょう。

「ああ。なかなか可愛いよ」

そう口にした途端、エドワードがふくれました。

「違うよ准将。もう、わかってねえな。そこは『カッコイイ』だろ」


………いろいろ話をしたところ、准将が昨日、エドワードのために借りてきてあげた本が原因でした。

「猫の風俗史~写真でたどるこれまでとこれから~」です。

それに、うん十年前に流行した「なめ猫」の写真が載っていて、背伸びしたいお年頃のエドワードの
心を直撃したらしいのです。

うん、確かに、エドワードの使う錬金術のデザインセンスは、もともとちょっとアウトローだな…
それから、一時期着ていた、丈の短い黒い上着、あれって短ランぽかったかもなー…
金ボタンはついてないけど…

そんな思い出に一瞬我を忘れた准将に、エドワードは言うのです。

「オレはこれから、可愛いは卒業して、カッコイイを目指すんだ!!」
「はあ」

ボーゼンとして准将はハンバーグをのみ込みました。
これも以前は確かハート型だったな…今日は普通の楕円形になってる…

「明日から、准将の弁当のウインナー、タコさんにするのやめるからな! カッコイイ弁当にするから」

別にそれはどっちでもいいのですが、カッコイイって何だろうと、准将は久しぶりに考えてしまいました。

(続く)

※※※※※※

バカっぽくてすみません(スライディング土下座
出てきた単語(例:なめ猫、短ラン等)の意味がおわかりにならない若い方は、検索してみてください。

10月3日に

2015-10-03 00:02:28 | 日常
兄弟の旅立ちの日ですね。

初めて鋼を読んだ時、いちばん印象的だったのはエドとアルの兄弟の間に交わされている
情愛の深さでした。自分はここまで自分の兄弟に対して一生懸命だろうかと自問するほどでした。

エドとアルの兄弟それぞれの性格は、いわゆるステロタイプ化された、漫画や小説によく出て来る
長男と次男の性格とは、若干異なっているかなという気がすることがあります。

どちらかというと長男は抑制的で次男のフォローに廻ることが多く、
次男は好きなことに対してもっと率直に、それをやりたい、欲しいという気持ちに対して
ストレートに従うイメージがあったのです。そういった意味でも鋼は新鮮でした。

年齢差の少ない年子であるために、兄弟構成という環境の影響よりも、
持って生まれた性格が色濃く出たのかもしれないと思ったりしています。

どちらかというとアルの性格は、末っ子というよりも、周囲に気を遣う中間子っぽいな、と
思うのですが、ウインリィと兄弟同然に育ったために、実質的に中間子の役回りだったのかもしれません。
などと考えていると、とても面白いです。

あっ、現実世界の方の性格とはあまり関係がありません!!私が今まで触れてきた創作の中で
描かれている傾向の話です。私も第一子ですけどあまり抑制的ではないので!

子どもが自ら生まれ育った家に、覚悟を示し退路を断つために火を放つこと、
可愛がってくれた母親はすでになく再生も失敗に終わり、自分たちの持てる力の限界が思ったよりも
低いと思い知らされたこと、望むようにこちらを向いてはくれなかった父親への反発心、
それらの意味は今後もずっと問い続けていくんだろうなと、自分で思っています。

鋼は家族愛の物語でもあり、兄弟愛がテーマでもあり、永遠の夫婦愛も謳われていて、
そして深く心に根ざす郷土と国を愛する心もまた、根底に流れているといつも思います。

人並みの幸せを得ることを放棄したたくさんの人々の生き様を描いた、切なくも美しい話でした。