Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(6)

2011-12-18 22:29:08 | 小話

「ではエドワード。錬金術というのは、魔法とは違う。何でも出せる訳じゃないという話を

この前したね」

「うん」

「難しいかもしれないが、科学の法則にのっとったことしかできないんだ。それはよく覚えて

おくんだぞ」

ちょこんとお座りしたエドワードに向かい、大佐はかしこまってせきばらいを一つしました。

錬金術を身につけるというのは、まずは何ができて、何ができないかを知ることから

始まります。

このもってまわったくどい話をきけば、幼い(かもしれない)エドワードの頭の中が

オーバーヒートして、「大佐ーわかんないよー」と投げ出してくれはしないかと思ったのです。

「では、錬金術の大切な法則を、二つ言ってごらん」

テストをすると、エドワードは、質量一の物からは同じく質量一の物しか錬成できない

ことと、同じ属性を持つ物しか錬成できないことをすらすらと答えました。

これは「よくできました」と言わざるを得ません。

大佐は、教えたことをエドワードがちゃんと覚えていたため、一瞬嬉しくなりかけました。

しかし落ち着いて考えると、それでは困るのです。

すると、エドワードは質問をしてきました。

「大佐、錬金術で、こういうことはできるの?」

「何だ」

「家の壁に穴をあけて、またふさぐことは?」

「まあ…できなくはない。多少錬成の跡は残るだろうが」

「じゃあ、鎖を切って、またつなぐことは?」

「それも、できると思う」

こういうピンポイントな質問には、比較的答えやすいのです。何を目的にこんなことを

尋ねてくるのかとは思いましたが、うかつに聞くとやぶ蛇になりそうなので、大佐は

黙っていました。

「じゃあ、じゃあだよ大佐。誰かが隠れている場所を探すことはできる?」

「は?」

これには驚き、たぬたんぐ大佐の頭の中ははてなマークでいっぱいになりました。

考えたこともなかったのです。

「…エドワード、それはつまり、例えばかくれんぼで、見えない遠い場所に隠れている人を、

見つけるというようなことか?」

「そうそうそう!大佐ありがとうわかってくれて!」

いやそのと、もうエドワードの倍生きてしまい、一般には心に夢をなくしている年代の

大佐は言葉に詰まりました。エドワードの言っているのは、錬金術を遠く離れた、

透視だの千里眼だのテレパシーだのという、証明不可能なうさんくさい「超能力」の

分野です。それらに比べると、一応科学で説明可能な範囲のことを、地中のエネルギーを

利用して行う錬金術は「ちょい能力」とでも言うべきで、まあつまり次元が全く違うのです。

どう考えても無理だと大佐は答えました。

「ええーっ、どうして」

エドワードが口をとがらせました。大佐が説明しようとした時、エドワードが突然顔色を

変えたのです。

「…大佐。あっちに、なんか困ってる人がいるような気がする」

驚いてエドワードが指し示す方を向きますが、何も聞こえません。

「行こう!」

エドワードは走り出しました。大佐はあわてて追いかけました。

エドワードの後足の肉球がぴこぴこと見えます。

しばらく走ると、白黒模様のクマのようなまるっこい生き物が二匹、草むらに倒れています。

小さいのと中くらいのとが、同じポーズで横たわっていました。

エドワードが駆け寄って起こすと、中くらいの方が目を開けました。

「おなか…すきましタ」

もう一匹の小さい方も口をぱくぱくさせています。

「大佐、何か食べさせてあげようよ」

たぬたんぐ大佐は正直、気が進みませんでした。これははるか遠いシン国産の、

中華パンダだとわかったのです。しばしば空腹を訴え、情け深い人がうっかりご馳走

しようとすると、財布が空になるほど食べまくるという噂がありました。そして小型の

中華パンダは体格に似合わず凶暴でいまいち可愛げがなく、やたらと牙をむくと

いわれているのです。大佐は情報通なので、そんなのは常識です。

しかしエドワードがそう言うので、仕方なく大佐は持っていたサンドイッチを取り出し

ました。差し入れてもらったものの残りです。二匹のパンダは大喜びで食べ始めました。

大佐の小さな風呂敷包みは四次元ポケットのように、たくさんの物が入るのです。

あっという間にサンドイッチは二匹のお腹の中におさまりました。中くらいのパンダは

深々と頭を下げました。

「ありがとうございましタ。このご恩は忘れませン」

そのパンダは雌のようで、メイちゃんと名乗りました。自分に「ちゃん」をつけるというのは

どんなものだろうと、口には出さずに大佐は思いました。それは実は名字なんですけど。

それにしても行き倒ればかり拾っているような気がしてきます。

何をしにシン国から来たのかを尋ねましたが、はっきり言おうとしないので、話は

そこまでで終わりました。また旅に出るという中華パンダ二匹を見送り、大佐と

エドワードも歩き始めました。

「でもエドワード、どうしてさっき、あの二匹が困っているのがわかったんだ?」

大佐が尋ねると、エドワードは首をかしげました。

「わかんない。なんか、そんな気がしただけ」

たぬたんぐ大佐も、とても不思議でした。エドワードがそれに気付いた場所と、二匹が

倒れていた場所はかなり離れていて、匂いが届くとも思えませんでした。

考え込んでいる大佐をよそに、エドワードは言いました。

「大佐、隠れてる人を探す錬金術、俺が十八になるまでに考えるよ。そしたら大佐にも

特別に教えてあげるからな。錬金術教えてくれるんだし、礼には及ばないからな!」

大佐の内心に無意識にクリティカルヒットをくらわし、また大佐の立場を厳しくした

エドワードは、にゃん!と笑いました。

………続く………

ご来訪、拍手、メッセージありがとうございます!

12/18  メグさま

いらっしゃいませ!こちらこそいつも温かいお言葉をありがとうございます!

学園パラレル、片思いでも三角関係でもなく、お互い思っているのに切ない話に

なってしまってます。でも必ずハッピーエンドになりますので、見守っていただければと

思います。続けて読んで下さって、本当に嬉しいです。

たぬたんぐ話はちょうどいい気分転換になってまして、シリアスな話と、軽く読めて

笑える話を並行して書くことで楽しんでいます。仰るとおり、書く日は自然と分かれます。

これから毎回新しいキャラクターが登場してくるので、よろしかったらお付き合い下さい。

なごんでいただけて、書いた甲斐がありました!