Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(4)

2011-12-10 00:32:25 | 小話

ぽてぽてちょろり、ぽてぽてちょろりと、二匹は歩いていきました。

「大佐」

「何だい」

「大佐は、手から火出す他に何ができるんだ?」

エドワードに見上げられ、たぬたんぐ大佐は説明しました。

「私は、物を別な姿に作り変えることができる」

「たとえば?」

「そうだな、こんな感じだ」

ぽてちょろと二匹は立ち止まりました。大して急ぐ用事もありませんし、ただ見せるだけなら

大佐の化かし技、おっと間違い、錬金術はなかなかのものなのです。

大佐は近くにある草花を一本摘み取りました。つぼみがいくつかついています。

そして、荷物から取り出した手帳のページを一枚切り取って、錬成陣を描いてみせます。

白い紙の上をさらさらとペンが走る様子を、猫のエドワードは初めてなのでしょう、

食い入るように見ています。

出来た錬成陣の上に草花を横に置き、大佐が両前足を、とんと陣の輪郭につけると、

ふわりとした静かな錬成光が、つぼみを包み込んで消えました。その後には、大輪の

花がひとつ咲いていました。

「へええ…!なんでもできるんだな、大佐って」

エドワードの尊敬のこもったまなざしに、たぬたんぐ大佐はちょっと得意な気分です。

「この花、もらっていい?」

「いいぞ」

エドワードは花をはさんで持ち、ふんふんと匂いをかぎます。

二匹は再び、のんびりと歩き始めました。

たぬきのブレダ少尉が土煙をあげて現れ、また書類を持ってきました。

※※※※※※※

それから二匹は、夜は空いているほら穴を見つけて中で休み、日中は時折道草を

食いながら隣村を目指しました。

幸いあたたかい季節なので風邪をひく気遣いもなく、凶暴な動物とも出会いませんでした。

大佐はたぬきですが、どんな動物も怖がる焔を自在に操れるために、危険はありません。

エドワードを連れての旅は、意外に楽しいものでした。

それなのに、いいえ、むしろそのために、たぬたんぐ大佐は、ちょっと困ったと思い始めて

いました。

エドワードは意外に聞き分けが良く、勝手に荷物をいじるなど、大佐がダメだと言った

ことはしませんでしたし、ごみはちゃんとまとめて、大佐がたき火を起こして燃やすのを

手伝いました。

大佐がありがとうと言うと、エドワードはにこにこと答えます。

「だって、れんきんじゅつ教えてもらうんだから、言うとおりにするんだ」

そして隣村に着いても、自分の家や家族をもたないエドワードは、大佐のそばを

離れようとはしませんでした。

「大佐、そろそろ、ちょっとずつでいいから教えて。れんきんじゅつ」

行儀良く座られ、大佐は査定の時とはまた違ったピンチに陥りました。

ついいきがかり上、教えると言ってしまいましたが、大佐の使う錬金術はたぬき専用に

開発されたものでして、猫に使えるとは聞いたことがありません。しかし今更、君には

たぶん無理だとは言えません。いたいけな子どもに君をだましていたんだと白状し、

夢をぶちこわすのは、どうしても抵抗がありました。

「…錬金術を使うには、免許がいるんだ。十八歳以上にならないと取れない」

苦しまぎれに即興で考えた言い訳をしながら、大佐は「一つ嘘をつくと、たくさんの嘘を

つかなければならなくなる」ということを実感しました。

「俺、十五歳だから、もうすぐだな!」

たぬたんぐ大佐はあぜんとしました。このなりで十五とは、数の数え方を間違って

いるのではないでしょうか。

しかしついにごまかしきれず、大佐は自称十五歳の猫に、とりあえず「理解」「分解」

「再構築」の、理解の初歩を教え始めました。錬金術の第一関門で、退屈で難解な、

挫折者の出やすい部分です。

それがどうでしょう。エドワードは真面目に話を聞き、順調に内容を覚えていくでは

ありませんか。できればここで飽きてしまってくれたらという大佐の期待をよそに、

「面白い!」

と、エドワードの目がきらきらしてきました。

一匹暮らしの捨て猫のエドワードは、学校に通ったことはないはずでしたが、出会った

動物たちから聞いたことを忘れずに自分の知識にしていたのでしょう。社会的な常識

には欠ける部分もありましたが、数や言葉もひととおり知っているようでした。

エドワードは、たぬたんぐ大佐の手帳を見て、自分も欲しいと言いました。偶然予備の

ものがあったので、大佐はそれをエドワードに渡しました。猫は大層喜んで、大佐が

錬成したあの花をそっと手帳に挟み、押し花にしました。

大佐は驚きました。とっくに捨てられたものと思っていたからです。花はすっかり

しおれていましたが、エドワードは大事にしていたのでした。

「俺、免許とれるかな?大佐」

大佐はあいまいにうなずきました。

あとで思えば、断るならこの時だったのかもしれません。でも、エドワードを失望させるには

忍びなかったのです。

そして、自分を慕ってくれるエドワードが可愛かったのです。

しかし、この旅は長くても一年間。いつまでも気分転換をしている場合ではありません。

化かし方を極めて、自分はまたたぬき軍部に戻らなければなりません。

そのための旅なのです。

今だけのことと自分に言い聞かせて、たぬたんぐ大佐は、毛づくろいをするエドワードを

見つめました。

………続く………

管理人の住んでいる地域近くでも、インフルエンザの波が来そうな気配です。

皆様お身体大切に…

ご来訪、拍手、メッセージありがとうございます!

12/9  りんこさま

いらっしゃいませ!コメント嬉しいですありがとうございますー!

笑って頂けてすごく良かったです。一応大佐とエドのおてては肉球をイメージして

います(笑)ペンも持てる、器用な肉球です。大佐が書類にはんこを押す時は、肉球で

梅の花みたいなはんこになるといいかな!などと、コメントを拝見して考えました。

手を叩いてもパチン!というよりはおっしゃるとおり、「ぽすん」みたいな音に

なりそうですね。エドにゃんの「今から本気出す」お気に召してくださってほっとしました!

今日、今後の展開のアイデアがだいぶ固まったので、また頑張って書きたいと思います!