たぬたんぐ准将とエドにゃんが暮らしている小さな家の近くの停留所から、
このたび、図書館に行けるバスが出ることになりました。
エドにゃんは大喜びです。
よく手伝いに行っているヨーダ・マルコー先生の診療所には、
医学や薬学についての本は数多くありますが、エドにゃんが最近気に入っている
物語や小説は、ほとんど置いてありません。
待合室やたぬき軍部にある本は、とっくの昔に読み尽くしてしまいました。
図書館に行けば、どんなジャンルの本も好きなだけ手に取ることができます。
「良かったな。今度の休みに一緒に行こうか」
たぬたんぐ准将も、錬金術についての本を探せるので、楽しみになりました。
そして数日後、十五分ほど「バス」という名のたぬ力車に揺られ、着いた図書館は
今まで見た中でも最大級のほら穴を利用して作られていました。
「わあ、すごい」
エドにゃんはびっくりしました。
「これは見事だな。元々はクマの持ち物だった穴だと聞いているが」
准将も目を丸くしました。
以前ここに住んでいた、人、じゃなくてクマのいいクマが引っ越ししていく時、
仲良くしていた隣近所の動物たちの役に立てばと、丹精込めたほら穴を譲ってくれたのだそうです。
そのためか、いろいろな種類の動物たちが利用していました。
見回すと、壁に穿たれたくぼみに本棚が作り付けられ、ぎっしりと本が並べられています。
所々に明るいランプがともされていて、机や椅子も置いてありました。
エドにゃんは喜びのあまり、目からビームが出ています。
受付で2匹分の図書館の会員証を作り、とりあえず1時間後にまた入り口で、と約束して、
たぬたんぐ准将とエドにゃんはそれぞれに読みたい本を探しに行きました。
1時間後、打ち合わせ通りにたぬたんぐ准将は入り口にやってきました。
が、まだエドにゃんは来ていません。
准将は苦笑しました。何かに熱中すると周囲が見えなくなるエドにゃんのことですから、
多少の遅刻は織り込み済みです。
准将に見とれて赤くなる雌の動物たちに会釈しながら、しばらく待つことにしました。
10分経ちました。
少し心配になってきた准将が、そろそろ探しに行った方がいいかと思い始めた時、
耳がぺしょんとなったエドにゃんが、本を抱えて歩いてきました。
「どうかしたのか」
准将が尋ねると、エドにゃんは下を向いて黙ったまま、准将と前足をつなぎました。
肉球をきゅっとにぎってきます。
「元気がないぞ。具合でも悪いのか」
エドにゃんはきっと目をキラキラさせて「准将、もっと見たい」と言うだろうと
予想していた准将は、心配になってきました。
ほら穴から1度出てよく聞くと、とても嫌な本を読んでしまったというのです。
書名を尋ねたところ、それは「かちかち山」でした。
カチカチホークアイ中尉の名前の語源(だかなんだか)ですが、原典の話には
世にも悪辣なたぬきが出て来る上、たきぎをしょわせて火をつけるという
残酷描写があるので、たぬき軍部では禁書扱いになっており、厳重に保管されていたので、
今初めてエドにゃんの目に触れたのでした。
「かわいそう」
エドにゃんはそれにショックを受けてしまったのです。
「よしよし、驚いただろう」
准将は逆に原因がわかってほっとし、エドにゃんの頭をなでてやりました。
「たぬきはみんな優しいのに…あんなことしないのに」
一般的にたぬきは人を化かすものであって、准将をはじめとしたたぬき軍部が例外なのですが
そのエドにゃんの気持ちは嬉しい准将でした。
しばらくしてエドにゃんの気分も落ち着き、選んだ本を借りて帰路につく頃には笑顔でした。
「また来ような」
「ん」
「今度は『ぶんぶく茶釜』にしておきなさい。それにもたぬきが出て来るが、明るい話だから」
「ちゃまが?」
「茶釜」
「ちゃがまだな。わかった」
バス停の方向へと歩きながら、准将はエドにゃんに話しかけます。
途中でご飯を食べて帰ろうか、エドワード。
おしまい。
このたび、図書館に行けるバスが出ることになりました。
エドにゃんは大喜びです。
よく手伝いに行っているヨーダ・マルコー先生の診療所には、
医学や薬学についての本は数多くありますが、エドにゃんが最近気に入っている
物語や小説は、ほとんど置いてありません。
待合室やたぬき軍部にある本は、とっくの昔に読み尽くしてしまいました。
図書館に行けば、どんなジャンルの本も好きなだけ手に取ることができます。
「良かったな。今度の休みに一緒に行こうか」
たぬたんぐ准将も、錬金術についての本を探せるので、楽しみになりました。
そして数日後、十五分ほど「バス」という名のたぬ力車に揺られ、着いた図書館は
今まで見た中でも最大級のほら穴を利用して作られていました。
「わあ、すごい」
エドにゃんはびっくりしました。
「これは見事だな。元々はクマの持ち物だった穴だと聞いているが」
准将も目を丸くしました。
以前ここに住んでいた、人、じゃなくてクマのいいクマが引っ越ししていく時、
仲良くしていた隣近所の動物たちの役に立てばと、丹精込めたほら穴を譲ってくれたのだそうです。
そのためか、いろいろな種類の動物たちが利用していました。
見回すと、壁に穿たれたくぼみに本棚が作り付けられ、ぎっしりと本が並べられています。
所々に明るいランプがともされていて、机や椅子も置いてありました。
エドにゃんは喜びのあまり、目からビームが出ています。
受付で2匹分の図書館の会員証を作り、とりあえず1時間後にまた入り口で、と約束して、
たぬたんぐ准将とエドにゃんはそれぞれに読みたい本を探しに行きました。
1時間後、打ち合わせ通りにたぬたんぐ准将は入り口にやってきました。
が、まだエドにゃんは来ていません。
准将は苦笑しました。何かに熱中すると周囲が見えなくなるエドにゃんのことですから、
多少の遅刻は織り込み済みです。
准将に見とれて赤くなる雌の動物たちに会釈しながら、しばらく待つことにしました。
10分経ちました。
少し心配になってきた准将が、そろそろ探しに行った方がいいかと思い始めた時、
耳がぺしょんとなったエドにゃんが、本を抱えて歩いてきました。
「どうかしたのか」
准将が尋ねると、エドにゃんは下を向いて黙ったまま、准将と前足をつなぎました。
肉球をきゅっとにぎってきます。
「元気がないぞ。具合でも悪いのか」
エドにゃんはきっと目をキラキラさせて「准将、もっと見たい」と言うだろうと
予想していた准将は、心配になってきました。
ほら穴から1度出てよく聞くと、とても嫌な本を読んでしまったというのです。
書名を尋ねたところ、それは「かちかち山」でした。
カチカチホークアイ中尉の名前の語源(だかなんだか)ですが、原典の話には
世にも悪辣なたぬきが出て来る上、たきぎをしょわせて火をつけるという
残酷描写があるので、たぬき軍部では禁書扱いになっており、厳重に保管されていたので、
今初めてエドにゃんの目に触れたのでした。
「かわいそう」
エドにゃんはそれにショックを受けてしまったのです。
「よしよし、驚いただろう」
准将は逆に原因がわかってほっとし、エドにゃんの頭をなでてやりました。
「たぬきはみんな優しいのに…あんなことしないのに」
一般的にたぬきは人を化かすものであって、准将をはじめとしたたぬき軍部が例外なのですが
そのエドにゃんの気持ちは嬉しい准将でした。
しばらくしてエドにゃんの気分も落ち着き、選んだ本を借りて帰路につく頃には笑顔でした。
「また来ような」
「ん」
「今度は『ぶんぶく茶釜』にしておきなさい。それにもたぬきが出て来るが、明るい話だから」
「ちゃまが?」
「茶釜」
「ちゃがまだな。わかった」
バス停の方向へと歩きながら、准将はエドにゃんに話しかけます。
途中でご飯を食べて帰ろうか、エドワード。
おしまい。