Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(7)

2011-12-24 14:35:46 | 小話

それから二匹は行く先々で、なぜか困っている動物に出くわし、それを大佐が錬金術で

助けたり、持っていた物を役立てて解決したりするということが続きました。

不思議なことに、エドワードが指さした方向にいる誰かが、見ただけではそれとわから

ないのに、尋ねてみると困りごとを抱えているということがよくありました。実際に、

手の届かない場所にある落とし物を拾ったり、壊れた物を修理したり、たき火に火を

付けてあげたりするのは、大抵はたぬたんぐ大佐でしたが。

そうすると、助けた動物からお礼を何度も言われ、場合によっては「ほんの気持ちです」

と、持っていた食べ物を分けてもらうことも、一度や二度ではありませんでした。大佐は、

エドワードを連れているにもかかわらず、予想していたよりも財布の中のお金が減って

いかないのが少し意外でした。

何より大佐にとって、錬金術をはじめとする自分の力で、人助けをして感謝されると

いうのは、とても心が安まりました。腹黒いたぬきの習性として動物界で悪役を演じて

きましたが、大佐にとってそれは心の負担で、神経がすり減るのです。それにひきかえ、

心からありがとうと言われ、こちらは化かしていないのでそれを言葉通りに受け取れるのは、

気楽で充実感がありました。

この猫と二匹でこうやって暮らしていくのも、いいかもしれない。

大佐はいつしか、そんな考えまでが浮かんでくるのに驚いて、あわてて思い直しました。

何のための旅なのか、エドワードと二匹で過ごしているために、忘れそうになったのです。

それにしてもと、たぬたんぐ大佐は考えました。

エドワードには、困っている人の存在を感じ取る、特別な能力があるようなのです。

この世にそんな力を持つ者がいる。そんな話は全く聞いたことがありませんが、

エドワードが視線を向ける方向に、まるであらかじめ計画していたかのように、ピンチに

陥っている動物が出現するのです。その頻度に、大佐は消防か警察にでもなったような

気がしました。

「ねえねえ、大佐大佐。あそこで誰か困ってる」

「よしきた、行くぞエドワード。それぴーぽーぴーぽー」

かつてはクールで鳴らした大佐なのに、このごろではこんなのにまですっかり慣れて

しまいました。試しに一度ふざけてみたらエドワードにバカ受けしたため、大佐はそれから

毎回、サイレンの口まねをするようになったのです。これではほとんど救急車の出動か、

全国を漫遊した水戸黄門です。世直しはしちゃいませんが。

困っている人を見つけるのはエドワードですが、その相手の異常なまでの雌率の高さは、

いったいどうした訳でしょう。

そっと近寄っていって「お嬢さん。もしや何かお困りですか」と声をかけるのは、これでも

雌たぬきに絶大な人気を誇った甘いマスクの持ち主、たぬたんぐ大佐ですから得意中の

得意、思わず腰の砕ける美声にも隙なし。相手がぽっと顔を赤らめ、熱のこもった目で

見つめてくることも決してまれではありません。幼い子どもからよぼよぼのおばあちゃん

まで、守備範囲も万全です。いや、もちろん雄の動物も助けるけどさ。

今日もまた、ベビーカーの車輪が片方壊れてしまい立ち往生していた若い母親アライグマと

赤ちゃん(これがまた女の子だったりする)を道ばたで助け、お礼にお菓子と尊敬の

まなざしを貰ったのでした。

「どうして、困っている人がいるのがわかるんだ?」

大佐はまた尋ねましたが、エドワードの返事はいつもと同じでした。

「なんか、そんな気がしたから」

ふうんと、大佐は腕組みをしました。

「おや」

見ると、エドワードの様子が、少し変でした。最近は整っていた毛並みが良くなく、

いつものつやを失っています。金色の目も潤んで、とろんとしています。普段なら

エドワードはすぐに貰ったお菓子を食べたがるのに、前足を出そうとしません。そういえば、

朝も起きるのがいつもより遅かったようです。

「疲れたのか?」

「…ううん、大丈夫」

「具合は悪くないか?」

「うん」

「ならいいが。元気がないような気がして」

エドワードは歩きながら、また進行方向を指さしました。

「ねえ大佐」

「どうした、またぴーぽーか」

ずっと遠くで、困ったように橋から下を見下ろしている生き物の影が見えます。

ぽてぽてぽてと大佐は足を速め、そちらへと近寄っていきました。

………

小柄な女の子のようでした。どこかで見覚えがあります。

「どうしましたか」

紳士らしく尋ねると、振り向いたのはおばあちゃんでした。

「連れが、登って来られなくなってしまって」

一緒に見下ろすと、犬が崖下の川岸でもがいています。

怪我はないようですが、土が崩れやすく、登ろうとしても滑り落ちてしまうのでした。

「では、お待ちください」

大佐が錬金術で、手早く土を固めて階段状にしてあげると、犬はそばにあったなにやら

光る物をくわえて、すぐに上がって来ました。

見るとそれはスパナで、下に降りたのはこれを落としたためだったようです。

「ありがとうございました、助かりました」

犬は金色の長毛種で、まん丸のきれいな目と、顔の両脇の長い垂れ耳が特徴でした。

名前を聞くと、ウインリィ・ダックスフント・ロックベルと名乗りました。機械いじりが好きで、

スパナは宝物なんだそうです。どうやって握るんだ。

変わってるなあと大佐は率直に思いましたが、そんなことはおくびにも出しゃしません。

一緒にいた老女は、珍しい妖精の、ピナコ・ミー・ロックベルという名前でした。

伝説のムーミン谷から特別出演、種族が全然違うのになぜ同じ名字なのかは謎でした。

「錬金術師なのかい」

「そうです」

大佐は名前と階級を名乗ろうとしました。

「あっ、大変!どうしたの!?」

ウインリィが叫びました。何事かと振り向くと、エドワードがそこに倒れていたのです。

………続く………

ご来訪、拍手ありがとうございます!

買い物に行って、家に在庫があるのを忘れて買ってしまうことがあるのですが

今日ついにケチャップ三本目をやらかし、動揺を隠しきれません。おバカじゃのう。


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