Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

スパークペーパー小話「ホットドッグ」

2018-10-08 22:10:57 | 日記
ご無沙汰でした。
先日のスパークでは、相方のスペースに既刊と合同誌の委託をお願いしました。
大変お世話になり、ありがとうございました。
ペーパーに書き下ろしました小話です。後に、加筆してサイトにも収録する予定です。


 ホットドッグ
                 わふわふ

汽車を待ちながら見上げるイーストシティ駅の天窓からは、日光が眩しく降り注いでいた。
エルリック兄弟がどこかを目指して旅立つ時、エドワードの表情にはいつも、
これから何かに挑もうとする者特有の力強さが現れていた。  
鎧姿のアルフォンスでさえも、彼を見慣れた者なら、目の奥に希望の色を見ることができるほどだった。
しかし今日は違った。前回の旅では何の収穫もなかった上、次に確かめようと思っていた手がかりの
いくつかも眉唾であることが、ついでに判明してしまった。

それでも先程、義務である報告書は司令部に提出してきた。
ロイは、たまたま執務室にいなかった。エドワードは顔を合わせるのを避け、紙の束を大きな机に置いて、
逃げるように建物を出た。
そして時間を少しつぶし、駅に歩いてきた。

(あれこれ言われるのはごめんだ)

ここからどこを目指すのか。何となくのあてしかないのでは、やる気も出てこない。
アルフォンスは黙っている。今はそっとしておこうと思っているのだ。
何かのきっかけで、兄はまた顔を上げるはずだ。
運命共同体であるこの兄弟は、こうして一緒に試練を乗り越えてきている。

「鋼の」

エドワードはぎょっとした。その呼びかけ方をする、たった一人の心当たりに、今は会いたくない。
後ろで声がする。

「こちらの様子を見に来ていたら、偶然、君たちを見かけたものだから」
「そうなんですね」

アルフォンスが応じている。嫌々振り向くと、やはり軍服を着たロイがいた。
数名の護衛を連れている。その様子は相変わらずだが、エドワードの目には、ロイが微妙に疲れている
ようにも見えた。

そのロイが、何かの包みを手渡してくれた。

「時間が空いて、ふとまとめて作ったものだ。少し余ったから、持って行くといい」

袋はまだかすかに温かく、いい香りがした。

「……どうも」

受け取りながら、小言を言われずにすんで、エドワードはほっとする。

「君には、サンドイッチを作ってもらったからね――あれはうまかった」

 そのことは、エドワードもよく覚えている。

「何時の汽車なんだ」

 世間話をするように、ロイが尋ねてくる。

「もうすぐ来る」

そうかと、ロイは言った。それが合図であるかのようにベルが鳴り、ホームへと列車が入ってきた。

「気をつけて行きたまえ」

エドワードは頷いた。目の前でドアが開いた。
その時、ロイが言った。

「悔しい思いは、一生あるだろう――でも、それは必要なことなんだ」

一見大した脈絡もなく、不意に聞いたロイの言葉が、エドワードの胸に刺さった。
その心の棘をそのままにして、二人は列車に乗り込んだ。
ロイは見送りはせず、立ち去っていった。

ボックス席に落ち着いてエドワードが包みを開けると、手作りのホットドッグが二つ入っていた。

しっかりとした焦げ目のついた長いソーセージが、切り込みの入ったパンに挟まれている。
パンは生のままではなく、きちんとオーブンで炙られていた。ケチャップとマスタードも効いている。
フライパンでソーセージを焼き、空いているスペースで細く切ったキャベツを炒め、塩をする。
そうブレダが言っていたのを、聞いた記憶がある。恐らく、その作り方だ。

「美味しそうじゃない、兄さん」

アルフォンスがこう言うのは、「自分に遠慮せずに食べてくれ」という意味だ。
腹が鳴るのを感じ、エドワードは食べ始めた。

悔しいが、うまかった。噛んで一口飲み込むたびに、身体に力がついてくるのがわかる。
腹が減っては、いくさはできない。

ロイは、あの報告書を見たのだろう。司令部から追いかけてきてくれたのかもしれなかった。
だとするとこれは、ロイが自分で食べる分だったのではないだろうか。
作り過ぎたというのは方便だと、エドワードにはわかった。
こうして気を遣われることが、悔しい。

「悔しい思いは、必要なんだ」

そう言った当人から与えられるこの悔しさと温かさは、エドワードを包み込んだ。
きっと、ロイも数限りない悔しい思いを、今も抱えているのだろう。
それに癒しを感じる自分をどこか遠くから眺めながら、今までに感じたことのない悔しさを
――必要もないのに、ロイのことを考えてしまう悔しさを、エドワードは噛みしめていた。

                      おわり