知らない世界へ帰りたい(日本探求)

自分の祖先はどんなことを考えていたのか・・・日本人の来し方、行く末を読み解く試み(本棚10)。

「そしてバスは暴走した」

2018年01月17日 08時49分13秒 | 日本人論
NHKスペシャル「そしてバスは暴走した」
2016年4月30日:NHK

 あの痛ましい事故から2年が経ちました。
 “忘れない”目的で録画してあった番組を再視聴しました。

 その後、バス業界の労働環境は改善したのでしょうか?
 規制緩和による素人業者の参入はどうなっているのでしょうか?
 検証番組を見てみたいですね。

<内容>
 13人の大学生の命を奪った、1月のスキーバス事故。遺族のひとりは、「事故は日本が抱えるひずみによって発生したように思えてなりません」と語った。これまでも、大阪や群馬で、乗客や乗員が死亡する事故が起き、その度に規制が強化されてきたはずだった。それにもかかわらず、事故はまた起きてしまった。NHKは今回、貸し切りバスの現場にカメラを入れ、業界の今をつぶさに記録した。そこから見えてきたのは、運転手不足から、高齢のドライバーが過酷な勤務を担っている現実、そして、利益優先で安全対策を怠る会社が跋扈する実態・・・。なぜ、こうした事態に至ったのか。業界の姿と私たちの社会のあり方を見つめる。



★ 放送を終えて(報道局ディレクター 多田篤司)
 学生時代はもとより、社会人になっても頻繁にバスを使っていた私にとって、1月に長野県軽井沢町で起きたスキーバスの事故は痛ましく、衝撃でもあり、「また大きなバス事故が起きてしまった」という思いを強く持ちました。4年前に関越自動車道の壁にバスが衝突した事故の印象が強く心に残っていたからです。なぜ、こうもバスの重大事故が繰り返されるのか、その背景に何があるのか。この3か月間、記者と共に、バス会社やドライバー、行政など関係者に取材を重ね、放送に至りました。
 取材を通して実感したのは、業界に蔓延する安全軽視の体質です。事故を起こしたバス会社は、「運行管理者」の資格を持つ人物が、ずさんな運営を繰り返していました。異業種から参入した経営陣は、運行管理者に任せきりで、その状態を是正しませんでした。深刻なのは、こうしたバス会社が少なくないことです。取材に応じた中小のバス会社は、法令を遵守した運行ができるのは体制的にも設備的にも一部の企業だけ、と現実を語りました。
 法令違反の有無をチェックするのは国の監査ですが、それを担う人員が不足しています。外国人観光客が急増し、バスの需要が高まる中、事業の許可取り消しやバスの使用停止などの処分をどこまで強化できるのか、懸念を示す関係者もいました。問題点の多くは、過去の事故でも指摘されていたのですが、業界の体質は根本的に改善されることはなく、その中で今回の事故は起きたのだと思います。
 事故から間もない中で、複数のご遺族と怪我をされた方々が撮影に応じて下さいました。「事故を繰り返してほしくない」という思いからでした。この思いをバス業界、そして社会がどう受け止め、対策を打っていけるのか。やらなければいけないことは山積しています。


 より詳しい番組内容をみつけました(下線は私が引きました)。
 数々の事故の要因が明るみに出てきて、よくもまあこれだけリスクを抱えられたものだと思いました。
 そしてバス業界のルールを熟知していたはずの“運行管理者”が確信犯として無謀な経営をしていたことが明らかに・・・彼は“犯罪者”ですね。
 しかし、乗客を殺した前科2犯のこの男は逮捕も謙虚もされることなく、他のバス会社からオファーがかかっていると番組の最後の方で紹介されました。
 まだ犠牲者が出る状況が野放しです。
 日本ってこんな国でしたっけ?

<番組概要>gooテレビ番組
 この春、早稲田大学を卒業する予定だった女性。就職も決まり、社会に出て活躍する日を楽しみにしていた。女性は3カ月前、長野・軽井沢で起きた事故に巻き込まれた。事故を起こしたバス会社は2年前に新規参入したばかり。事業を急拡大させる中で、安全を軽視していた実態があった。事故を起こしたバスは底に穴が開き、メーカーに注意されていたほか、ドライバーは適性検査で事後を起こしやすいともされていた。未来ある13名が巻き込まれたバスの暴走までの軌跡を追った。
 全国にある貸切バスは約4万9000台。利用者は増え続け、年間3億人を超えている。旅行会社では外国人観光客が殺到しているため、バスを確保するのが難しい状況が続いている。国は環境立国を掲げ、日本を訪れる外国人の数を2020年に年間4000万人までに増やそうとしている。バス業界が大きく変わるきっかけは規制緩和だった。バス会社の数はそれまでの倍ちかい4477社まで急増した。競争が激しくなり、格安ツアーも次々と生まれた。一方、各地で多くの人が死傷する重大な事故が繰り返され、その度に運転手の労働環境の改善や安値競争に歯止めをかける対策が強化されてきたはずだった。
 今年1月、原宿を深夜に出発し、長野・斑尾高原に向かうスキーツアーに乗っていたのは若者ばかり、39人だった。バスは高速道路を降り、一般道の峠道に入った。峠を超えた下り坂でバスが暴走し、道路脇の林に突っ込んだ。事故で命を取り留めた人たちも、目の前で友人を亡くし、心と身体に深い傷を追っている。
 事故を起こした「イーエスピー」を取材。貸切バス業の許可を取り消され、社長は今は事業の整理にあたっていた。社長は「改めて本当に謝罪の気持ちと、申し訳ないなという気持ちでいっぱいになります」と語った。もともとは畑違いの中古車販売の会社からスタートした。バブル景気の波に乗り、中古車の売り上げは一時は100億円近くに達した。しかしその後の景気の低迷で業績が悪化。多額の負債を抱えた。2年前に新たな収益の柱として、活況に湧いていたバス事業に目をつけた。社長は「東京オリンピックまでは右肩上がりで行くんじゃないのかと思っていた」「需要は換気されるだろうと」と語った。事業を始めるのは簡単だったという。国の規制緩和で参入のハードルは大幅に下がっていた。かつては年式が5年以内の新しいバス、7台の保有が参入の要件だったが、現在は古いバスでも3台あれば事業が始められる。16年前の規制緩和以来、バス会社はそれまでの2倍近い4500社に増えた。9割以上が中小のバス会社で、イーエスピーのように異業種からの参入も少なくない。新規参入したイーエスピーは、仕事獲得のため国のルールを無視した安い運賃で運転を請け負っていった。国は旅行会社がバス会社に払う運賃の下限を定めている。安全のために不可欠としてかつての事故を教訓にしたルールだが、イーエスピーはこの下限額を大幅に下回る安値で仕事を請け負っていた。事故が起きたスキーツアーは業界最安値をうたっていた
 会社の幹部は下限額のルールがあることすら知らなかったことが、今回の取材で明らかになった。営業部長は「大変お恥ずかしい話、私なんかは下限額があることさえ知らなかった」と語った。旅行会社との間で運賃を決めていた運行管理者の資格を持っていた人物だが、この人物はかつて別のバス会社でも運行管理者をつとめ、40人以上が重軽傷を負った事故を引き起こしていた。事故後に社内で行われた運行管理者に対する聞き取り調査では、運行管理者は契約書も交わさないずさんな取引を行なっていたことを認めた。ルールを無視した運営を続けながら仕事を獲得していた。バスはわずか2年で3台から12台まで増えた。営業部長は「正しい仕事の流れは、ドライバーをまず雇う、教える、走れるようになったら仕事を取りに行く、仕事が取れたらバスを買う」「なのにうちは先に仕事を取っちゃう。それでバスを用意する。ドライバーは慌てて用意する。その流れがそもそもおかしい」と語った
 事故を起こしたバスは、イーエスピーが次々と購入していた中古バスのうちの1台だった。点検の際、その車両の底にはサビが広がり、至る所に穴が開いていることが見つかった。腐食が進むとハンドルが効かなくなるおそれがあるとして、メーカーは当時の所有会社に使用は危険だと警告していた。イーエスピーはこの車両を相場価格の1400万円で購入した。バスの元所有者は「サビの広がりは聞いていたが危険だとは認識していなかった」としている。
 3カ月前、39人の若者たちを乗せ暴走したバスのハンドルを握っていたのは事故で死亡した高齢のドライバー。ドライバー適性検査では、注意力や動作の正確さが極端に低いという結果だった。都内のアパートで一人暮らしをしていたドライバーは、ここ数年、周囲に金を借りるなど、苦しい生活を送っていたという。かつては、和菓子を製造する会社に務め、妻子もいたが、離婚後借金を抱えていた。大型二種免許保有者の半数近くが65際以上。定年後、別のバス会社に非正規の運転手として雇われ、賃金は日払いで少ない時には月6万円程だった。当時、ドライバーは大型バスを避け、運転のしやすい比較的小さいバスにしか乗っていなかった。去年の末、家賃を支払えないほど追いつめられていたドライバーはかつての同僚に「いい仕事はないか」と尋ねていた。去年生活に困窮していたドライバーがたどり着いたのが、運転手を募集していたイーエスピーだった。大型バスの運転を嫌がっていたはずだが、面接では運転できると話したという。賃金は日払いで1万円程だった。採用を決めたのは運行管理社だった。
 事故原因の捜査は続いている。ドライバーの遺品に残されたのは、スキーツアーの仕事で得た1万678円だった。遺骨は引き取り手のないまま、都内の寺の無縁供養塔に納められている。ずさんな安全管理の末に暴走したバスで命を奪われた13人。19~22歳の、それぞれに夢を持った若者たちだった。犠牲者を悼む家族は、バスは安全だと信じていた。「本当にもう二度とこのような事故が起こらないように対策を考えていって欲しい」と述べた。
 今回の事故を受け、国は新たに有識者会議を設け、新たな規制を検討している。会議ではチェック体制を強化し、悪質な業者を排除すべきだという意見があがった。繰り返される事故の後も、現場は何も変わっていない。ドライバーからは懸念の声があがっている。安全が軽視されている実態を伝えたいと解雇覚悟で取材に応じたドライバーがいた。去年、運転手の健康管理や労働時間の違反で警告を受けた。取材中に会社から連絡が入った。15日間連続で働いて欲しいという内容だった。ドライバーは亡くなった兄の葬儀に参列するため、休暇を求めたが認められなかった。先月ドライバーは会社に退職を申し入れた。しかし人出が足りないから辞めないで欲しいと頼まれ、やむなく仕事を続けている。
 事故の犠牲者の父の元に、事故後、警察から遺品が届けられた。遺族たちは、国やバス業界に声を上げていこうと決意している。
 事故後、バス事業許可を取り消されたイーエスピー。所有していたバスは全て売却した。事故を2度起こした運行管理者は現場を去ったが、既に別の運行会社から誘いを受けているという。事故は命の重みを顧みずにきた、社会の姿を映し出している。
 事故から3カ月。今度こそ暴走を止められるのでしょうか、と投げかけた。

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