知らない世界へ帰りたい(日本探求)

自分の祖先はどんなことを考えていたのか・・・日本人の来し方、行く末を読み解く試み(本棚10)。

「この子を残して」

2009年08月30日 09時35分39秒 | 戦争
1983年松竹作品
原作:永井隆「この子を残して」、監督:木下惠介、脚本:山田太一、音楽:木下忠司
出演:加藤剛(永井隆)、十朱幸代、淡島千景、大竹しのぶ、麻丘めぐみ他

原作者である永井医師(長崎医科大学放射線医学教授)の目を通して長崎の原爆を扱った映画です。
戦時下の窮屈な生活の中に慎ましい生活を営んでいた人々。
そこに落とされた原爆は、家族・親族を一瞬のうちに奪い去ってしまう。
残された人が恐怖体験を忘れられず、苦しみの日々を送る様を淡々と描いています。

印象に残ったシーンの一つ。
永井親子が焼け跡の片付けをしているときに米兵が通りかかり、無遠慮に家族の写真を撮り始めます。
言われるままにカメラに顔を向けていた永井が最後に米兵に向かって英語で語りかけます。
驚く米兵達。
「この土地には東洋一大きな教会があり、あなたたちと同じ神を信仰し幸せに暮らしていた1万人以上の民がいた。あなた方が使った原子爆弾はそのうち8000人の命を一瞬にして奪った。そのことを国に帰ったら多くの人に伝えて欲しい。」
その言葉に米兵は敬礼をして去っていきました。
長崎はクリスチャンが多い土地であることに気づかせてくれました。

最後の原爆投下直後の被災シーンはあまりにリアルで言葉を失いました。
焼けた屍体が散乱し、煙り立つ焼け野原のあちこちで怪我を負って動けない人々がうめき声を上げる阿鼻叫喚の地獄のような世界が映し出されています。
解説によると、広島の原爆写真を元に忠実に再現したとのこと。

現在でも世界のあちこちで戦争が進行しており、TVニュースで戦闘シーンや被害者の映像が映し出されますが、所詮人事と感じている日本人(私もその一人)。でもこの映画は「過去に日本そのものが戦場になり、焼け野原となり、多くの一般人も犠牲になった」という確かな事実を「忘れてはならない」と突きつけているような気がしました。

このDVDを入手するきっかけは約30年前の木下監督のインタビューです。
さだまさしの昔々のラジオ番組(セイヤング等)がユーキャンで16枚CDセットで発売されており、大ファンである私の幼なじみに勧められて購入し、その中でゲストとして木下監督が登場したのでした。
広島には原爆ドームがあり人々の記憶に残るが、長崎には何もないと嘆いていました。
彼は被災シーンを正確に再現することを最低限の条件と考え、中途半端なセットでは映画を撮らないとこだわったそうです。
その執念は歴史に残る映画として、制作後30年以上経って観た私の目に焼き付きました。

中学3年生の長男と一緒に観ました。
夏休みに公開されたハリーポッター最新作を映画館へ見に行く予定でしたが、新型インフルエンザの感染を恐れて自宅で映画を観ることに。いつか子どもに見せようと温めておいたこの映画の出番です。

観終えた彼は無言でした。
何か感じるところがあったようです。