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Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

こんな夢をみた【3】。

2006-04-18 | 夢十六夜
 テレビでは騒がしく娯楽番組をやっている。
このご時世であっても、動物ものは視聴率が取れるのだろうか、きくらげのような小さい耳をした白い実験マウスが乾いた水槽の中で所在なげにくるくると動いている。恐らくその習性にまつわるクイズでも出題されているようだ。パネラーが居並び、たかがクイズ番組にすぎないのにきゃあきゃあとこちらの心を軋ませる笑い声を上げている。
私は帰宅してテレビをつけたばかりだから、番組の内容と無関係に繰り広げられるお喋りを聞いたところで、その意味を理解するところまで至らない。テレビというのはいつからこんなに不便になったものだろうか。快適でないことを充分知りつつも、見るともなしに画面を見続ける。

マウスの入った水槽は、よく見ると二重構造になっている。金魚でも入れるような小さ目の水槽の中にマウスが居て、その水槽は入れ子のようにもう二まわりくらい大きな水槽の中に収まっており、外側の水槽には10cmほどの水が張ってある。そしてその水と水槽のガラスのほんの隙間に、子供のワニがぽうっとした半眼の瞳をして、起きているのか眠っているのか判らない様子で、居た。画面がズームしてくれなかったら、いつまでもその存在に気付かないであろう沈黙で。

 パネラーの回答が出揃って、アシスタントと思しきスタッフが、ごくごく威力の弱い爆竹のようなかんしゃく玉のような小さい紅い粒を、これ見よがしに指でこちらに示したあと、爽やかな笑顔で白い歯まで溢しながらマウスの水槽にぽいと投げ入れた。指からふたつみっつの紅い玉がスローモーションのように、ぱら、と散った。

紅い玉は果たして狭い水槽の中で傍若無人に弾ける。幼児でさえ驚かないであろうほんの僅かな衝撃波でも、マウスにとってはえらいこと。ガラスの檻の中でキィキィと哀れな悲鳴を上げながら残酷に透明な壁をその爪できりきりと引っ掻きながら、ついには水槽をよじ登り、つるりと重心を崩して外側の水槽にぼちゃんと落ちた。

カメラは更にズームする。
空気に溶けていたワニの子が、閃光を浴びたかのようにその尾を俊敏に翻らせて、くわっと白いマウスに歯を剥いた。画面の半分近くは、大きく開いたワニの口の中。それはどこまでも紅く、艶めいてきらきらと光った。そして白いマウスは身体半分をそのぎざぎざの口に収められつつ、なお前足をばたつかせながらガラスを掻いていた。苦しげに呼吸するマウスの口の中も、同じくらいに紅く。実験を見届けるスタッフとパネラーの笑顔は、比してどこまでも青白く。
私はテレビを消した。
 

妙に醒めた気分だ。
仕事で疲れて掃除が行き届かない部屋、テレビ脇の足元には、自分が描いたらしい鉛筆書きの絵が、画用紙からそれぞれ乱暴に切り離されて積み重なっている。海坊主のような影が壁の向こうから覗いている絵、手書きの精緻なチェッカー模様のひとつが、底なしの罠となってぽっかりと口を開けている絵、軽やかなリボンが絡まって出来ている樹木の絵。
ふん、と足先で踏み潰し、リビングに背を向けてベッドへ向かう。



 がさ、がさ。
 ぱらり。ぱらり。
 こと、こと。がさ。


姿の見えない足音だけが玄関からリビングを通り、部屋に響き渡る。
先程足蹴にした画用紙がめくられ、中空に取り上げられ、再び床に放られる音がする。一枚一枚、ゆっくりと、じっくりと、まるで受賞作品を吟味するような丁重さで、ひとつずつ。

私は扉を隔てただけのベッドの上で醒めたままその音を聞いている。
「掃除を怠けていないでちゃんと捨てておけば、こんなことにはならなかったのだろうな。」
ふぅと溜息をついた。
画用紙をめくる音が消え、足音が私の寝室へと向いた。

目を閉じた私の目蓋の裏に、白いマウスの紅い紅い口が映った。



こんな夢をみた【2】。

2005-10-25 | 夢十六夜
 わたしは自分の部屋で男と一緒にいた。完全プライベートの一日、なはずだった。
 そこに、いかにも当然ですワタクシ仕事ですから、と云わんばかりの顔をした一見アナウンサー風の化粧をした若い女性が入ってきた。私はテリトリー意識がとても強いからただでさえ部屋の中に他人を入れることを嫌うというのに、いくらなんでも室内をあからさまに物色するその態度は余りある。腕を組んで眺めていたら、しまいには部屋のレイアウトを変更するよう指示まで出し始めるではないか!

「この飾り、ここの壁にないほうがいいと思うので、外します。」
と云うが早いか画鋲を外して本棚の開いたスペースに置こうとするからこっちはたまったものではない。
「恐縮ですが、わたし度近眼なので、無闇矢鱈な所に画鋲とか置かれると困るのですけれど。」
と精一杯嫌味を込めて云ってやる。あなたも何か云ってやりなさいよ、という想いを込めて男のほうをちらりと見ると、私と女を遠くからまるでサスペンスドラマを見るような目で交互に見ている。
・・はぁ。
溜息が漏れた。この男には心を許しかけていたというのに、私の見立て違いだったのかしら。

女はそうこうしている間にも、ベッドの位置を変えたり置物を抱えてうろうろしたりとせわしない。忌々しげに女がくるくると回っている様子をを見詰めていると、酔ったような激烈な嘔吐感が私を襲った。うわ、きつい。

 目に涙が滲むくらいの横隔膜の痙攣があるのにも拘わらず、喉のところで硬いものが引っかかってしまってうまく吐き出せない。涙がぼろぼろ流れてきて辛いばっかりだ。背に腹は変えられないので、机の上にティッシュをばさっと大量に敷いて、右手を丸めて指先を喉に差し入れる。明らかに喉に引っかかっているらしいものを指先で摘んで引きずり出す作業は意外とせいせいする感じだ。

 とはいえ。

ビニールに保護されてご丁寧にも30cm程度に切り揃えられた銅線がそれぞれ途中から絡まって、何本も出てくる。なんなの、これ。私はそんな趣味ないわ。大過なく取り出されたそれらをティッシュの上にばさばさと置いてゆくと、私は目を丸くした。喉に銅線が引っかかってでもいなかったら、どんな叫び声を上げたかしれない。
いや、叫び声を上げることがもしもできたなら、どれだけ助かったか。

絡まった銅線の間に所々混じる小さなものは、虫。
小さな甲虫のようなもの、カメムシに似たもの、羽虫のようなもの・・
私の涙はその意味を変えて流れ続け、次いで怒りに変わろうとし、私は泣きながら女を睨み付けた。
「何が愉しくてこっち見ているの。そもそもあなた誰なのよ。いい加減にして。」
女は肩をすくめて口を歪め、半分笑うような調子で。
「あぁ、おぞましい。見ている者の身にもなって欲しいわ。」

カチンときた。
「それというのも、あなたが突然私の家になんて来るからよ!」
女もカチンときたようだ。それまで憮然としながらも平静を保っていた目がきっと大きく見開かれた。そのとき、初めて男が女に向かって口を開いた。
「悪いけど、やめてくれないか。彼女は何も気付いてないんだ。悪気はないんだから。」

「なんですって。」
 その言葉は喉の異物に邪魔されて声にならない。
私は凍りついた。
私が何に気付いていないというの。
私の胃から大量に吐き出される異形のおぞましい物体にどんな意味があって、あなたたち二人はその意味を知っているというの。そもそも、これらがなぜ私の胃の中から出てくるのか少なくとも私にはさっぱり判らない。えぇ、見事に混乱してしまっているわ。見苦しいでしょう、笑いなさいよ。なのにあなたたち二人はどうしてそんなに驚かないの。遠くからただじっと私を見ているだけなの。

ねぇ、最初に壁の画鋲を外したのには何か別の意味があったの。
あなたたちは何を知っているの。
私は何を知らないでいるの。

泣きながら銅線と格闘し続ける私に、ひとつだけはっきりとわかることがあった。

 
 
 今日からわたしは、ひとりぼっちになるんだ。



こんな夢を見た。【千鳥唐草】

2005-09-06 | 夢十六夜
潮の香りがする。
私は何をしにここに来たのだっけ。そうだ、友人たちと合宿を兼ねた旅行にきていたのだ。だけど、何の合宿だったっけ、忘れてしまった。

今日は自由行動の日のようだ。適当に散歩をしてみることにした。高校の同級生Aが私と一緒についてきた。海沿いにおんぼろの天守閣があるから、それに登ってみようとのことだ。勿論土足のまま上がり込むのだが、管理も手入れもされていない城の中は真っ暗で、湿気とカビと古い木材の匂いが充満している風通しの悪い廊下を、手探りで進んでいく。適当な破れ目から上がりこんで、一階の廊下を15メートルばかり進んだところで行き止まり、左に向かってまるで梯子段のような急な階段が真っ暗な闇に続いていた。頭に蜘蛛の巣をまとわりつかせながら、私が先頭にたってその階段を登ってゆく。

本当なら怖がりの私だから、真っ暗なうえに安全性も覚束ないこんな場所を積極的に探検する趣味は持ち合わせていない。だけど、確かに私は「この場所を知っていた」。友人を道案内する気分で、階段を登り、明確な意思を持って三階へと向かった、ような気がする。

三階には、恐らく金襴のふすまでそれぞれ隔たれていたと思われる大広間がみっつ繋がっていた。それぞれの部屋は十畳くらいで、ふすまは既に跡形もなく、畳は残っているものの色あせてススキのような色になっているうえ、風雨を凌ぐ雨戸や壁が崩れ落ちているためにしっとりと水を含み、体重をかけるとじわっと足裏に染みる水が気持ち悪かった。今日は快晴だが、数日前に激しい雨が降ったに違いない。
それぞれの間のゆかの高さは同じだけれど、突き当たりの間には床(とこ)があって、僅かに螺鈿細工のきらめきが残るテーブルのようなものがあった。床にはひとつの軸が下がっていた。この城内で見かけた家財のようなものは、そのふたつだけだった。

この奥の間のテーブルを挟んで友人Aと私は斜めに向かい合うように座った。互いが洋装をしていることに違和感を感じた、ように思ったのは気のせいか。
言葉はあまり交わさなかったけれど、二人にとってここが懐かしい場所であり、ようやく帰ってこれた場所であることに違いはなかった。窓の柵や戸だったものは全てなく、海風に揃って傾いた赤松が並ぶのと、その向こう、恐らく崖のようになっている向こうに広がる海と白波がきらきらと、本当にきらきらと目を射抜いて、泣きそうになった。

床にかかる軸は、金糸を混ぜた、生成り色をベースに3センチくらいの赤い尾をした千鳥が並び、間を唐草紋様が少しばかり埋める織物だった。織物の一部分、丁度着物の袖の長さ程度を切り取って、タペストリを和風解釈したのだろうか、軸にしているものだった。細工が特に凝っているわけでもなし、軸装が豪華な訳でもなし、それでも奥の間の床に描けるということは、誰か私や関係する人々にとって大切な人から頂いたものであるに相違ない。だって、先に海を眺めた折にこらえたはずの涙が、この軸を見た途端にもう我慢できずに溢れてしまったのだから。そして、心の中で「お久しぶりです」と呟いてしまったのであるから。


 
 目を覚ましたとき、こんなにも「こちらに帰ってきてしまった」ことを嘆いたことはない。ふたたび、あの場所に戻りたくて、こんなにもあっさりと放り出されてしまったことが悔しくて淋しくて、私は仰向けに寝たまま、涙をとうとうと流した。
そして残念なことに、私は記憶にある限りこんな場所に行ったことがない。だけれど何となく、南のほうの土地だという感覚が残っている。
更に加えるなら、4年近くも音沙汰なかった友人Aから、この夢の数日後に電話を貰った。