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Pat Metheny 『 Day Trip 』

2008年02月03日 17時25分50秒 | JAZZ
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パット・メセニーの実に8年ぶりとなるトリオ作品。今回はベースにクリスチャン・マクブライド、ドラムスにアントニオ・サンチェスという最強リズム陣を擁しての作品です。

本トリオが結成されたのは2002年で、アメリカやカナダ全土はもちろんのこと、欧州、アジア、オーストラリアなどで不定期にツアーを興行してきました。本作は2005年のアメリカ・ツアー中に、たった一日とれたオフの時間を利用してニューヨークのスタジオで録音された記録です。『 Day Trio 』(日帰り旅行)というタイトルの由来は“たった一日で大急ぎで終えた仕事”という意味合いがあるようです。昨年秋には、このメンバーを再招集し、数か所の大学やコンサート・ホールで予備公演を終え、今回のアルバム発売に合わせて2月初めよりアメリカ・ツアーを行っており、各地で話題をふりまいています。( source は jazzreview.comhmv.com です。)

周知の通り、パット・メセニーはデビューの初期からパット・メセニー・グループ(以下PMG)とソロの両方の活動を並列で行ってきました。PMGではパット・メセニーとライル・メイズの2人が思い描く音の桃源郷を具現化する場であり、細部まで緻密にアレンジされたスコアを大編成でライブ演奏することに主眼が置かれています。したがってアドリブ・パートはあるにせよ、極めて即興性は低いサウンドです。つまりはサウンド・クリエーターとしてのパットの力量が発揮されたコンセプト作品であるわけです。

それに対して、ソロ名義の作品では本来のジャズの持つ即興性を重要視した作風が多く、現在まで様々なプロジェクトが組まれてきました。特にパットのギター+ベース+ドラムからなる“トリオ”物では、パット・メセニーのジャズ・ギタリストとしての素養を最も如実に表現できるフォーマットとして重要な位置を占めています。

僕はどちらかと言えばPMG贔屓派です。アメリカの広大な自然に恵まれた田舎町。あるいは南米の賑わう港町や市場。そんな情景を連想させ、聴き手を夢心地にしてくれるあの音世界は、他のアーティストでは味わえません。

さて、現在までに制作されたトリオ作品は、最新作『 Day Trio 』を含め以下の6枚です。

『 Bright Size Life 』 (1976 ECM)[Jaco Pastrius, Bob Moses]
『 Rejoicing 』 (1983 ECM)[Charlie Haden, Billy Higgins]
『 Question and Answer 』 (1990 Geffen)[Dave Holland, Roy Haynes]
『 Pat Metheny Trio 99→00 』 (2000 Warner)[Larry Grenadier, Bill Stewart]
『 Pat Metheny Trio 99→Live 』(2000 Warner)[L.Grenadier, B.Stewart]
『 Day Trio 』 (2008 Nonesuch)[Christian Mcbride, Antonio Sanchez]

では、時系列に沿って久しぶりに聴き直してみましょうか。


『 Bright Size Life 』 (1976 ECM)
パット・メセニーのデビュー作。録音された75年当時はパット21歳、ジャコ23歳という若さ。ジャコは『ジャコ・パストリウスの肖像』を録音した直後で、全くの無名時代でした。パットは既に現在のスタイルがほぼ確立されており、はじめから天才であったことがうかがえます。フォーク、カントリー、ジャズなど、何でも飲み込んだ変幻自在の卓越した演奏です。また、個人的にはここで聴かれるジャコの演奏は、彼の生涯中、ベスト・パフォーマンスだと思っています。ジャコの精神的に健全であった頃の数少ない演奏が収められていて、ジャコ・ファンにはマスト・アイテムでしょう。タイトル曲≪Bright Size Life ≫はその後もたびたびステージで演奏された名曲で、近年にリチャード・ボナ、アントニオ・サンチェスでのトリオで演奏された映像がYoutubeで観ることができます。(ジャコよりボナの方がはるかに巧いのね。)
37分の短い作品ですが、密度が非常に高く、パット・メセニーのトリオ作品中、2番目に好きな作品です。


『 Rejoicing 』 (1983 ECM)
チャーリー・ヘイデン、ビリー・ヒギンズという、個人的にはあまり好きでないメンバーのため、所有していてもほとんど聴いたことがなかった作品です。パットが尊敬するオーネット・コールマンの曲を3曲取り上げています。一曲目のホレス・シルバーのオリジナル≪Lonely Woman≫でのアコースティック・ギターの音色は素晴らしいと思いますが、全体にあまり余韻が残らない地味な印象を受けてしまう作品です。


『 Question and Answer 』 (1990 Geffen)
これはトリオ作品の中でも最もジャズっぽい作品です。デイヴ・ホランド、ロイ・ヘインズと、メンバー的にも最高です。僕の一番のお気に入り作品です。ドラムの音がオン・マイクでしかもデカイ音で生々しく記録されているので、ロイの音だけ聴いていても興奮してきます。英文ライナーノーツによると、PMGとしてのレコーディングとツアーが終了した1989年12月に、パットは気分転換に何かシンプルな演奏をしてみたいと思い立ち、クリスマス直前の数日間とれたオフを利用して、旧友であるデイヴ・ホランド、ロイ・ヘインズに声をかけ、録音目的でなく、ただ楽しむためにリハーサル・スタジオを押さえたそうです。しかし、たまたまパワー・ステーションが一日だけ空いたため、そこに移動して演奏したといいます。みんな小さなクラブでギグっているような雰囲気での演奏でしたが、偶然にテープが回っていたため、こうして記録物として残すことができたようです。それにしてもエキサイティングでテンション高い名演です。特に≪All The Things You Are≫でのソロは圧巻です。残念ながらこのメンバーでの映像は残されておりませんが、スティーブ・スワロー、ボブ・モーゼスとのトリオで≪All The Things You Are≫を演奏している映像がYoutubeにアップされています。ここでもパットのソロは神がかり的で凄いです。


『 Pat Metheny Trio 99→00 』
1999年当時、ニューヨークで最先端を突き進む最強のリズム隊を従えてのトリオ盤。同時に発売になった『 Pat Metheny Trio 99→Live 』 もレパートリーに往年の名曲を取り上げるなど、若干内容が違いますが基本的には同様の作品です。ラリー・グレナディアはブラッド・メルドーのレギュラー・メンバーでしたが、スケジュールの空きを見て、パットのトリオに参加するという超多忙スケジュールでした。
この二人がリズムを刻めば兎に角、斬新で躍動感のあるジャズになっていきます。たとえパットがいつもと変わらないスタイルで演奏しても、出来上がった音楽はとっても新しく感じるから不思議です。『 Question and Answer 』 や『 Bright Size Life 』 に比べるとやや衝撃度は低めですが、これはこれで素晴らしい出来だと思います。

ということで、本題の『 Day Trip 』ですが、反論を恐れず言ってしまうと、まあ、それほど印象は良くなかったです。いまひとつ元気がないような。サンチェスはいいとして、マクブライドはパットのスタイルに迎合するだけで、あまり自己主張をしていないように聴こえてしまうのです。マクブライドは演奏技術も完璧で、演奏のレンジも非常に広く、汎用性に優れた素晴らしいベーシストではありますが、優等生すぎてお行儀がイイのですね、少なくともこの作品では。もう少し捻じれてブレて暴れてもいいのではないでしょうかね。

せめてリチャード・ボナ(フレット・レスで)か、スコット・コリーで組んでもらえれば.....と思うのは僕だけではないでしょう。