雨の日にはJAZZを聴きながら

FC2 に引越しました。http://jazzlab.blog67.fc2.com/

The DRJO with Eliane Elias 『 Impulsive ! 』

2007年10月01日 21時55分52秒 | Large Jazz Ensemble
デンマーク放送ビッグバンド( Danish Radio Big Band )が世界初の政府支援のジャズ・ビッグバンドとして旗揚げされたのは1964年のこと。現在までに同楽団で指揮ならびにソリストとして客演したミュージシャンは100人を超え、誰もが認めるヨーッロッパを代表する名門バンドとして、ビッグバンド界に君臨しています。

そんな同楽団の歴史の中で、ビッグバンド・ファンならずとも思い出される出来事が2つあります。ひとつはサド=メル・オーケストラを辞めたサド・ジョーンズがその活動拠点をコペンハーゲンに移し、そこで同楽団のバンド・リーダーとして活躍したこと。そしてもうひとつは、1985年、コペンハーゲンのレオニ・ソンング音楽賞を受賞したマイルス・デイビスを招いて開催されたDRビッグバンド20周年記念コンサートの模様が、『 Aura 』という作品としてリリースされ、2つのグラミー賞を受賞したことです。

ところで、同楽団をDanish Radio Big Band ( DRBB ) と呼んだり、また、Danish Radio Jazz Orchestra ( DRJO ) と呼んだりと、統一されていないのを不思議に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。実はこれは、バンド・マネージャーの交代に伴い2回、名称変更がなされたためなのです。

64年の発足当初は ビッグバンド ( DBBB ) という名称でした。しかし、92年にピーター・H・ハーセンがプロデュサー兼バンド・マネージャーに就任した際、それまでのメインストリーム系の既存の曲を演奏するビッグバンドから、今後は自己のオリジナル曲を演奏することに主眼を置くオーケストラとして活動していくことを強調するため、ジャズ・オーケストラ ( DRJO ) という名称に変更したのでした。

しかし、01年にロックやポップス業界での業績を高く評価されマネージャーに抜擢されたモルテン・ヴィルヘルムが、再び DRJO から DRBB に名称を戻したのでした。その裏には公的なバンドであってもある程度の収益を上げなければ経営存続できないという台所事情が関係していたようです。高踏的でアーティスティックなサウンドでは客が呼び込めない。より大衆にアピールする、分かりやすいビッグバンド・サウンドを奏でることが同楽団に課せられた課題だったのです。そのため、“ Jazz Orchestra ”ではなく“ Big Band ”と変更し、冬になるとせっせとクリスマス・コンサートの巡業を行い、往年のスイング・ジャズも演奏し、普段はジャズを聴かない人々にもホールに足を運んでもらうことに成功したのでした。それでも03年には同楽団への政府予算は削減されたようです。ますます営業に精を出さなければ存続が危うい、そんな苦境に立たされているのが現状のようです。

さて、今日聴いているのは、95年に同楽団の首席コンダクターに迎えられたボブ・ブルックマイヤーが、イリアーヌ・イリアスをソリストとして制作した作品『 Impulsive ! 』( 96年 stunt records ) です。この作品はホント、素晴らしい出来です。手元には10枚以上の同楽団のアルバムがありますが、もちろんその中ではベスト。さらに欧州ビッグバンドの作品群の中でも、ベスト5に入るくらいの出来の良さだと思っています。何が素晴らしいかというと、兎に角、彼女のピアノがイイのです。イリアーヌ・イリアスというと、≪ 美貌 ≫、≪ ランディ・ブレッカーの元妻 ≫、≪ ボサノヴァ・ピアニスト ≫ などと言った言葉で括られることが多いように思いますが、意外に硬派なピアノを弾かせても凄く巧い人なんですよね。本作のM-2 ≪ So In Love ≫ でもピアノ・ソロなど浮き立つような華麗さを秘めた叙情的なフレーズを連発し、もう鳥肌が立つほど感動的です。

そして彼女の持ち込んだオリジナル曲を上品に優雅にアレンジしたボブ・ブルックマイヤーの手腕もお見事です。もともとDRBB はトランペット×5、トロンボーン×5、サックス×5、リズム×5 の総勢20名の通常のフルバンよりも大編成である所が売りなのですが、本作はブルックマイヤーの気品に満ちたアレンジのために、tutti の場面でも全然高圧的でなく、聴き疲れしないのです。ですからコンボ系のジャズ・ファンでもすんなり馴染めるビッグバンド・サウンドだと思います。

本作は01年のグラミー賞にノミネートされた実績がある秀作です。DRBB でとりあえず一枚、という時にはぜひ本作を手にとってみてはいかがでしょうか。

P.S. 本作と似た企画で、ジム・マクニーリー(彼は98年から02年まで、同楽団の首席指揮者でした)指揮、リニー・ロスネス客演、作曲の『 Renee Rosnes and The Danish Radio Big Band 』 ( 03年 Blue Note ) という作品がありますが、このリニーの作品は本作とは対照的に硬質で迫力のあるサウンドで、よりコンテンポラリー度が高めな作品です。