残像モノクローム

遠い記憶の彼方にある故郷。
そして今、こころに渦巻く断片の想いを。
と、思い始めたのですが・・・。

豊和から飽和  1

2008年06月12日 17時46分21秒 | Weblog
なにもなくてよかった、そんな時代にうまれた。

2軒続きの平屋の木造炭住は、ふすましきりの6帖間2つを居間と寝室に使い、台所3帖とあと4帖半ひとつ。
土間の玄関、勝手口、そしてくみ取り式のトイレ。
子のプライバシーなんてつゆほどもない。

そして石炭小屋には1トンほどの家庭用の石炭が馬車に積まれやってくる。
うずたかく積まれた石炭を小屋へほうり入れ長い冬の準備に入る。

厳しい冬には窓をビニールで覆いすきま風を防ぐ。
石炭ストーブを一昼夜焚き続ける。
屋根の雪を下ろす。
凍り付く水道。
蛇口にタオルを巻きお湯をかけ続け
ようやく朝の支度が始まる。

見渡す限りぐるりと囲む山々。
山あいを抜けるように流れる石炭を洗った黒い川。

玄関のカギをかける家庭はごくわずかで、
近所の家には親戚の家にでも行くようにいつでも出入り自由だ。
晩ご飯のおかずもちょくちょくご近所からの頂き物が卓袱台に上がる。

外にでかければなに不自由なく遊べた。
あるもの全てが遊び道具に変化した。
木々の葉で囲まれた空間や下水の大きな土管は秘密基地に、
胞子を撒くキノコは爆弾に、芥子の花びらは変身に。
お腹がすいたら花の蜜を吸ったり、コクワの実をとった。
沢に行けばザリガニやドジョウを捕まえる。
夜になればクワガタや蛍を捕まえ、蛇の抜け殻は宝物に。

野球ゲーム盤や人生ゲーム、レコードプレーヤーを持っている友達もいたけれど
裕福ではなかったから
それほど欲しいと思ったことはなかった。

そんな厳しくつつましい環境の暮らしだけれど
こんなにもこころ豊かな暮らしは、他にないだろうと思える。