conparu blog

ささやかな身の回りの日常を書き綴ります。
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時を駆ける魔

2015-09-13 14:11:52 | 随想

アドルフ・ヒトラーの『わが闘争』を読んでいないけれど、彼がいかにして民衆の心を引き寄せて行ったのか、その概論を読んだことがある。もともと虚弱な体質だった彼は、パリに留学して画家を志望していたことは知られている。
だがパリでの入学試験に失敗した挙句、食うや食わずの生活に落ち込んでしまった彼は、生半可な絵を売って一日の糧を得たそうだが、買ってくれたのはユダヤ人だった。

生活の窮状を救ってくれたのはユダヤ人だったということ。
若い時の生活体験が、後々の人生にも少なからず影響しているはずなのだが、そうならないところに時代の悪魔が潜んでいた。
大一次大戦に伍長として出兵するも、負傷して入院している間に敗戦となる。ドイツは莫大な戦後補償を抱え、ワイマール憲法の制定の下、民主主義を世界に先駆けて掲げた国である。第二次大戦後の日本の平和憲法のようなものだ。
経済は疲弊して国民の不満が募り、追いかけるように大恐慌の時代が世界を覆った。
こうなると世界は萎縮し、各国が内向きなナショナリズムを露呈して、自国優先の旗を振るようになる。こんな時にアドルフは政界におどりでて、得意の弁舌で民衆を煽った。「この国を何とかしたい」当初はそんな思いだったのだろうが、力をつけて来ると悪魔が余計な知恵をつけて来るものだ。

ナチス党の総統となった『伍長殿』は、敵対する人物や政党を排除し、見えない坂道を転げるように突っ走った。
その最たるものがアウシュビッツだろう。
時代の悪魔は、かつてのドイツから世界の隅々へ、所を得たように繁殖する時代へと変移した。
しかも武力で立ち向かうとすれば、悪魔の力は倍増する。一歩間違えれば世界の終焉が待っているのだ。
私たちも足元を見なければならない。



墓標

2013-11-21 23:07:07 | 詩歌 (再録)

雪崩のように一気に押し寄せようとしているのは何だ?
かつて息絶え絶えの悶絶する地下牢の中で
夢はただ一つ、陽の光を浴びることだった

或る日、伍長殿は墓場から出てきて
持ち前の弁舌で民衆の心の中に胃酸を打ちこんだ
みるみるうちに街の中心は墓場で一杯になり
いつの間にか原形もなくドロドロになった躯(むくろ)が
20世紀の墓標となったのだった

悪夢である
寝汗が枕を濡らした
アルフォンス・カポネも民衆を引きつける粘着力があった
そして、ごっそりと民衆を地底の穴に落としこんで行ったのだ

奇しくも時代の色が似てきた



眠れる「時」


2015-02-26  詩歌(再録)

どこかで遠雷のような空気を震わせて
21世紀の神話が作られている

懐かしくも恐ろしい皮膚感覚が
電光石火のように時を飛び超えて
歴史の井戸水を汲みあげているのだ

氷河は溶けて流れ
霊峰の法師は山に戻らない

何時からか神泉は枯れたまま
野獣の棲家となった

「時」が眠りから覚めるまで
荒野はお前のなすがままだ

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