<中国ブログ>中国サイコウ 元/上海駐在日本人が綴る日中経済の状況など

中国駐在時代の経験・知識をもとに、
最高(サイコウ)の日中関係の再構築を目指し、
日本と中国を再考(サイコウ)する

中国の産業構造の転換は容易じゃない?

2011-05-27 | 日記
前回記事の続きのような話になるが、中国におけるインフレの高まりに伴って、経済構造を高度化する必要が叫ばれている。
確かに理屈ではそのとおりだが、経済構造の転換って本当に目指して出来るものだろうか・・・?

日本の場合、まず戦後の焼け野原からいち早く経済を復興。
その後、所得倍増計画などの政策によって、経済成長と歩調を合わせる形で市民の暮らしが向上した。
ここでは完璧とは言えないまでも、ある程度適正な「富の配分」が行われた。

豊かになった市民は新たな商品、とりわけカラーテレビや家電製品などを求め、旺盛な購買意欲が爆発的に拡大。
これが日本の経済成長を支える「技術革新」の需要となる。

以上のように、日本は一旦味わったドン底の状況から、国全体が豊かになっていったため、技術革新もこれにあわせて進化していった。
もっと端的に言えば、低所得者が多いときには低価格・大量生産が主流、経済が発展し所得が増加するにつれて、高付加価値化が主流という具合に進化していったのである。
これは、メーカー側からみると、「人間の成長」と同じような形で、どんどん成長を志向すれば一定の成長が維持できるという分かりやすい構図だった(もっとも、今の状態は老化が進んでいるとも表現できるが・・・)。
つまり、古い技術に未練を抱く必要はあまりなかったのである。

このような成長の過程は、欧米でも似たようなものだろう。

では、中国の場合はどうか?
中国もドン底を味わったという意味では共通するが、決定的に違うのは「富の配分の不公平さ」にある。
いまの中国は「1%の富裕層が国全体の40%の富を支配している」と言われるほど貧富の差が甚だしい。
この状況をメーカー側からみると、巨万の富を有すると言えども1%のシェアしかない購買層に向かって、わざわざ手間のかかる技術革新に汗を流すべきか・・・?ということになる。
対照的に中国の場合、その下の中間層と言われる購買層の幅が非常に広い。
この中間層にも不動産物件を複数もっている世帯がたくさんあるのだ。
こうした中間層は圧倒的な人口を誇るため、まだまだ規模の原理が十分働く。
つまり、中国メーカーは高度な技術革新を伴わない大量生産でまだまだ十分儲けが出るのである。

海外企業との競争で考えても、この状況は更に分かりやすくなる。
多くの欧米企業は、低所得層向けの技術を淘汰してきたし、中国メーカーとの価格競争に巻き込まれるのを嫌うため、必然的に高価格帯の商品を投入してきた。
この戦略のほうが、母国と同じ手法で生産活動を行うことができるなど、都合がいいのである。
対する中国企業にとっても、高価格帯のゾーンには海外企業がひしめき合っており、簡単に参入できないとの逃げ口上を与えることができる。
両者が重なり合う中間的な製品群では多少の衝突が見受けられるが、概ねどの商品でも「暗黙のすみ分け」が形成されているのは、このためではないか?
その結果、中国企業が技術革新に邁進するといった状況になりにくい。

勿論、こうした状況は経済成長あってこそ成立するもの。
成長のペースが鈍化したときに初めて、中国企業の本格的な技術革新や海外進出が活発化し、これが産業構造の転換へと繋がっていくと筆者は睨んでいる。
それが何時になるのか・・・、今のところ誰にも分からない。
ただ、ひとつ言えるのは、今後は中国企業による大規模なM&Aが増加する可能性が極めて高いということ。

技術は開発するばかりではない。「技術を買う」という手段もあるということを肝に銘じておきたい。

中国における消費刺激策の終了に伴う経済への影響は・・・?

2011-05-25 | 中国経済
中国はリーマンショックに直面した際、いち早く4兆元(約50兆円)という巨額の景気対策を打ち出し、経済成長への影響を最小限に食い止めただけでなく、継続的な力強い成長までも勝ち取ることに成功した(かに見える)。

こうした刺激策の一環として挙げられるのが、①省エネ製品恵民プロジェクト、②家電下郷、③以旧換新などである。

①は、省エネ効果の高いエアコンの販売を支援するもので、2010年末までに115.4億元を支出、3,400万台の対象エアコンの販売を支援し、700億元(約8,800億円)の消費を喚起した。

②は、2007年12月に四川省など3省1都市で試行実施、2009年に全国展開された制度で、農業従事者への家電製品購入補助を目的としている。同制度の実施によって、2011年3月末時点で累計販売台数1.5億台、累計販売額3,200億元(約4兆円)超を記録している。

③は、都市住民向けの買換え促進策で、こちらも累計販売台数4,000台超、累計販売額1,600億元超(約2兆円:2010年1月~2011年3月末)と大きな成果を示している。

うーん、日本と比べると桁が違いますね。。。
私も家電下郷がスタートしたときに、日本のテレビで中国の農民が嬉しそうに洗濯機を使用している光景を見たのを記憶している。

こうした購入支援策は、①が5月末で終了するのを皮切りに、相次いで制度終了の時期を迎える。そのため現在は、終了に伴う駆け込み需要を狙ったキャンペーンなどが家電量販店で積極的に展開されている。

日本でも、エコカー補助金やエコカー減税、家電エコポイントなどで需要を喚起し、景気浮揚に一定の成果をもたらしてきたが、気になるのは政策終了後の反動である。
日本市場では既に反動減という結果が出ており、中国政府は欧米などの結果も慎重に分析しながら、次の一手を考えているものと思われる。

本当のところ、終了後の影響はどこまであるのだろうか・・・?
正直言って、誰も分かりませんね。
ただ、敢えて予想するならば、一時的な反動減で収まるだろうということ。
確かに政府の補助制度がなくなるのは痛いが、現在の家電メーカー、家電量販店の利益の伸びをみると、政策終了後に独自のキャンペーンに打って出る可能性は十分あると予想する。

もともと家電製品は、生産量が上がれば上がるほど生産コストは逓減していく傾向が強いので、こうしたメリットを販売促進に充当していくことも考えられる。

加えて、政府も全ての購入補助制度をなくすというのは考えにくい。
中国の産業界は、もっともっとレベルアップしていく必要があるため、もう少し高いハードルを設定して、その部分に補助制度を創設していくということは十分考えられるだろう。

こう考えてみると、日本と中国の決定的な違いは「次の一手を有しているか否か」の一点に尽きる。
東日本大震災の復興という難しい課題を抱えた状態で、もしも日本の景気浮揚策終了後の反動減が経済の長期低迷をもたらしたら・・・と考えると、ゾっとせずにはいられない。

iPhone普及にみる日本ガラパゴスの危機

2011-05-23 | 日記
日本の技術革新を「ガラパゴス島」の状況に重ね合わせることが多い。
確かに類似する部分が多く、素晴らしい例えと言えるだろう。

日本は携帯市場のコンテンツ分野でも、こうした強みを生かし、DoCoMoが独自の発想に基づく「i-mode」を開発し、市場を開拓してきた。その後、auが「EZ-web」、「リスモ」等を次々に投入する等、同分野での技術革新はピークを迎えた。
全世界で当たり前のようになっている3Gは、日本が主導してきた現象なのだ。

では、いまはどうだろうか?
「i-mode」をはじめとする携帯コンテンツは、iPhoneの登場によって、その地位さえ危うい状況を迎えていると言っていい。
両者の違いは何なのか・・・?

iPhoneを開発したアップル社の中心理念には、常に「PCの普遍化」がある。iPadやiPodも「PCの機能を身近にすることで生活を豊かに!」という思想が貫かれている。
この意味で、iPhoneはi-modeと比べものにならないスケールを有している。

無論、iPhoneの技術開発において、i-mode等の技術やコンセプトが大いに役立ったことは間違いない。そもそもアプリという考え方は、i-modeから生まれたものなのだから。

しかし、日本企業は世界規模のネット環境の進展、爆発的な3G携帯の普及を念頭に置いた技術開発に取り組むことができなかった。これだけの先行利得があったにもかかわらず、である。
これも、ガラパゴスゆえの悲劇なのか・・・。

現状では、iPhoneの対抗馬としてGoogleのAndroid等が注目を浴びているが、日本企業の名前は挙がってこない。日本企業は今までどおり、日本市場のみでの勝者を目指し、世界市場への対応は放棄したようにすら見える。

携帯市場に限らず、日本企業が強みとしてきた部分は、今後も伸ばしていくことができるのだろうか?
筆者は疑問を感じずにいられない。

日本がガラパゴスの状態でも成長できたのは、日本市場に活気があったからに他ならない。好調な経済情勢があってはじめて、技術革新が生まれるのだ。
しかし、いまの沈鬱な日本の状況をみていると、あっと驚くような開発が成し遂げられるような雰囲気ではない。言葉は悪いかも知れないが、「一発当ててやろう!」みたいな元気が感じられないのだ。

これからの数年間、もしくはそれ以上の期間、世界経済を牽引していくのは間違いなく中国市場であり、経済の基本的原則は、「最大の市場を制するものが、世界の市場を制する」である。この傾向は、インターネットで全世界がオンタイムで繋がる現代社会において、より加速していくことはもはや疑いようがない。

本物のガラパゴス島は、現在、経済開発や観光振興によって、本来のよさを失いつつある。
日本も同じ運命を辿らないよう、全力を挙げて知恵を絞っていく必要がありそうだ。

まだまだ向上しない中国国際航空のサービス

2011-05-17 | 日記
昨日、一時帰国するため、中国国際航空(CA)を利用した。
震災の影響もあるのか、チェックインカウンター前の待合室も人がまばらな状態。
「今日は乗客が少ないな」と思いつつ、自分の搭乗券を見ると、
んっ・・・・・・・
座席番号が36Aって・・・、たしか一番後ろのような・・・。

そして、搭乗案内を受けて機内に乗り込むと、やはり一番後ろの席。
でも、乗客はまばら。。。

と、そのとき前方を見て気が付いた!
そう、エコノミーの前方寄りの座席と後方寄りの座席とに乗客が集中的に座っており、中間部分の座席には乗客が座っていないではないか!

理由は明白。乗務員がサービスを行う上で、非常に効率がいいからなんですね。。。

通常、機内食を提供する際に、前方と後方の二手に分かれてサービスを開始する。
このように2か所に集中させておけば、2回のサイクルで「はいっ、仕事が終わり!」って感じ。
まぁ、頭がいいと言えばそれまでだが、それなりのお金を払ってるんだから、そこまで露骨にやる必要もないんじゃないかなぁ。。。
日本だったら間違いなくクレームの対象でしょうね。
フツーの人が考えても、「お金を頂いているお客様に出来るだけリラックスできるように」と配慮するものだが・・・。
やっぱりフツーじゃないんですね、まだまだ。
こういったところにも、豊かになったはずの中国社会に相変わらず欠けているものが浮き彫りになってくる。

中国国際航空は、かつての日本におけるJALと同じく、中国のナショナルフラッグシップ。
「お国を代表する翼」なんですね。
それだけに、とかくサービスが悪いとの評判も受けがちだ。

現在、中国の航空業界は「ビッグ3+その他」の構図が出来上がっている。
ビッグ3とは、上記のCA、南方航空(CZ)、東方航空(MU)の3社のことで、その他とは三十数社の中小航空会社のこと。
日本の航空会社数と比べれば、その産業の大きさが分かるというもの。

ビッグ3は総じてサービス水準が低いと言われている。
全社とも国有企業という面が影響しているのだろう。
対照的に、海南航空や吉祥航空などの新興勢力はサービス面での評価が高い。
今後さらに差別化が進めば、各社ともサービス水準を向上させてくる可能性もないとは言えない。

折しも7月には「上海-北京」間の新幹線が開業する予定だ。
中国も本格的に高速鉄道と飛行機が競い合う時代に突入しつつある。

「競争がサービスを向上させる」という当たり前の理屈に今更ながら注目していきたい。


中国ビジネス お薦め書籍

2011-05-13 | 中国ビジネス
今回は、中国ビジネス関連の書籍のご紹介。

まず1冊目は、サーチナ総合研究所の「中国の言い分」。



日本人は総体的に中国人・中国社会に対して「上から目線」だと言われることが多い。
筆者も、同感することが少なくない。
しかし、それは急激な変化を続ける中国を断片的にしか見ていないこと、偏った中国社会像がマスコミによって流布されていること等が背景にあるのだろう。
ただ、国家間の関係も人間関係と同じで、お互いの言い分があるのだ。
この本を読むと、改めて「そうだったのか」と思い返すことができる。

続いて、岩波新書の「中国は、いま」。



中国通の論者9人が、それぞれテーマを絞って、独自の思考で中国観を表現している。
多少、難解な部分もあるが、あまり拘らずに読み進んでもいいだろう。
巷には「中国は破滅する!」とか「中国が世界を侵略する」といった、俗に言う「こうなる本」が溢れている中、客観的な視点で中国の情勢を伝える良書のひとつである。
筆者は最近、「日本人は自分で思考する機会を減らしているのではないか?」と思うことがしばしばある。マスコミから流されるニュースを十分に吟味せず、憶測や噂に基づいて行動している例を見受けることが少なくないからだ。
ただ、「こうなる本」がその後、本当にそうなっているかを検証すれば分かること。
間違ってもいいので、客観的な事実に基づいて自分で判断するクセを身につけたいものだ。

三冊目は、中国限定ではないが、ライフサイエンスのよくニュースがわかる「世界の情勢」地図帳。



飛行機で移動する際、何気なく空港で拾い買いしたものだが、なかなかの内容。
とにかく多岐に亘る世界情勢を非常にコンパクトにまとめている。
2冊目同様、客観的な視点で記述されている点も素晴らしい。
現代社会はニュースが溢れているだけに、コンパクト化する作業は難しい。
こうした書の助けを借りることも一手ではないだろうか。

最後に、少し古いが、別冊宝島の日本vs中国。



私は2010年の分しか読んでいないが、2011年モノは出版されているのだろうか・・・?
右から左まで様々な論者が持論を展開する様相は、いかにも別冊宝島らしいが、混沌とした中国観を実感するには良い書だと感じた。

こうした書を1年後、数年後に改めて読み返すと、当時の予測と歴史の結果との対比ができて面白かったりもする。

中国は国土が広いし、変化も物凄く早い。
ただ、だからこそ面白みがあるというもの。
皆さんも、偏見をもたず、楽しみながら中国観を磨いていきませんか?