<中国ブログ>中国サイコウ 元/上海駐在日本人が綴る日中経済の状況など

中国駐在時代の経験・知識をもとに、
最高(サイコウ)の日中関係の再構築を目指し、
日本と中国を再考(サイコウ)する

大震災が与える日中経済への影響④

2011-04-15 | 東日本大震災
今回は、大震災が与える日中経済への影響を物産振興の面から考えた
い。

前回記事で言及したとおり、中国では日本全体が放射能に汚染されているかのような報道が繰り返されており、日本製品が売りとしていた「安全・安心」という武器は、日増しに競争力を失いつつある。

これは食品において最も顕著で、日本食スーパーや高級日本料理店は苦しい立場に立たされている。輸入に当たっても、中国政府から放射能に関する証明書の添付義務づけが新たに通達されるなど、実質的に輸入が制限されるような状況にある。
ただ現状を考えると、こうした動きを過剰だと一方的に非難するのは、少し的外れなようにも感じる。例えば、同じようなことが中国で発生した場合、日本の消費者が中国製品を購入するだろうか?以前、餃子事件が発生した際に中国からの食品輸入が激減したことや日本国内でも風評被害が発生し
ていること等を考えると、一定程度こうした動きが起こってくるのは想定の範囲内とも言える。

最も大きな問題は、こうした想定内の課題に対して有効な手段を打てない日本政府の体制にある。震災復興、原発対応に追われている現状は理解できるが、もう少し広い視野に立って、同時並行的に施策を展開すべきである。これができないのであれば、政権を運営する能力に欠けているとの批判を受けても仕方ないだろう。

ただ筆者は、中国での日本製品プロモーションに関して、以前から違和感を感じていた。日本各地が「物産」という名目で食品を中心にイベント等を開催しているが、日本の真の強みは「一般食品」なのだろうか・・・?
ご承知のとおり、日本と中国では当然ながら食文化が異なる。好みとなる味付けも異なれば、使用する調味料や食材も変わってくる。日本人は「淡い旨み」にこだわるが、中国人は「ストレートな味」を求める傾向にある。中国大陸で日本の食文化を浸透させるのが目的であるならば、ある程度長期的な視野に立ったプロモーションが必要となるが、現状では「単発的な物産展」が多いように思えてならない。
加えて、日本食品は「安全・安心」を武器としているため、基本的には「輸入」が前提となる。必然的に中国製品よりもかなり割高ということになる。ただ、食品は毎日口にするものだから、単発的に安心食材を摂取しても意味がない。よって、継続的に日本食材を使用し続けるには、相当な財力が必要となってくる。つまり、市場のパイは大きくないという結論に達する。

勿論、筆者はこうした活動が不要と言っているわけではない。これと並行して、本当に優れた日本製品を輸出する動きを強めるべきだと考えている。
キーワードは、「中国企業が真似できない技術・特徴を有するニッチな製品」と考える。
中国製品には無い技術や特徴を有していれば、多少高くても中国の消費者は購入していくのである。例えば、中国人訪日観光客が購入するお土産品のランキングをみると、その現状が垣間見えてくる。「切れ味抜群の爪切り」や「伝線しにくいストッキング」など、意外なものがランクインしている状況をよく分析すべきである。
ただ、ここでもうひとつ大事なのは、価格と品質のバランスを日本での販売と同様に考えるということを忘れないことだ。とかく日本企業は、コスト積み上げで製品の価格を決める傾向にあるが、どの国の消費者も結局のところ「価格に見合う価値」を判断して購入に至るのだ。俗に言う「上から目線の製品投入」では、中国での成功は見込めない。

物産振興についても、今回の大震災を機に、そのあり方を再考すべきではないか。
これは、一過性の災害に左右されない産業振興という視点からも、無視できない課題であることは間違いない。

大震災が与える日中経済への影響③

2011-04-14 | 東日本大震災
引き続き、大震災が与える日中経済への影響を観光振興の面から考えたい。

大震災の発生直後、「日本人経営者が中国人研修生を救った」、「四川大地震のお返しをするときだ」等、日本への支援の輪が拡がったが、1ヶ月経ったいま、中国で話題に上がるのは専ら放射能汚染の話題ばかりである。
「塩の大量買占め事件」が発生したことは有名だが、福島周辺の食品に基準値を超える放射性物質が検出されたことや、低濃度汚染水を放出したことなどから、一気に日本の食品への検査強化、輸入制限の動きが拡がっている。

観光においても同様の動きが拡大しており、訪日観光は少なくとも6月まで持ち直しの兆しがないだろうとの悲観的な見方が見受けられる。実際、活況を呈していた九州向けクルーズの旅は6月いっぱいの運行停止を予定しているし、どの中国旅行社に聞いても「いまはどうしようもない」との回答ばかりである。

もともと広大な中国大陸で生活する中国人にとって、日本は小さな島国との認識が強い。そのため、原発事故のあった福島から1,000km以上離れている九州であっても、その距離感の認識がなく、日本全体が汚染されていると勘違いしている中国人が大半である。
加えて、中国メディアが「汚染大国/日本」というような特集記事を組んでいるケースも多く、一般市民の誤解に拍車をかけている面は否定できない。

こうした状況において、現地駐在員は何をすべきか?
大いに悩まされるところである。
筆者は、訪日観光に関して言うと、以前から若干の違和感をもっていた。
訪日観光の7割以上がゴールデンルート(関西~関東)への観光と言われているが、中国に住んでいる立場からみると、上海や北京などは都市の規模やショッピングセンターの数などの面で東京・大阪と遜色ないレベルにある。むしろ、規模だけで比べれば、中国主要都市のほうが上と言えるかもしれない。
これだけ豊かになった中国人が、買い物を中心に訪日観光を行う理由は何か・・・?
これは、単純に言うと日本製品の内外価格差にしかないと言える。
要は、デジカメなどに代表される優れた日本製品は、日本で買ったほうが圧倒的に安く、品揃えも豊富だから、日本に行くときに大量買いしているだけなのだ。

ただ、今後を考えるとどうか・・・。
既に報道されているとおり、楽天やyahooが中国進出を本格化させている。
日本のメーカーも、大消費地であり、かつ一大生産拠点である中国での価格戦略を見直す時期に来ている。
こうした状況が進めば、現在のように日本に行ったほうが圧倒的に安いという構図は生まれにくい。
つまり、買い物に頼った訪日観光誘致では早晩行き詰る危険性が高いと言える。

では、どうすべきなのか・・・?
筆者は、日本観光の真の魅力を徹底的に検証することが最も重要と考えている。
日本観光の魅力は言うまでもなく、狭い国土にも関わらず多様な観光資源を有している点にある。都会から田舎、古い歴史から最新技術まで楽しめるのが日本の良いところなのだ。
各国からの訪日観光客が訪問したい都市として、常に上位にランクインする京都の存在を考えれば、その可能性を垣間見ることができる。

今回の大震災は、現状追認で展開してきた訪日観光促進のあり方を根本的に見直す機会をもたらしたとも言える。
日本の復興に向けて、海外からの誘客を止めるわけにはいかない。
訪日観光の火を絶やさないためにも、北海道や西日本の頑張りが求められている。

大震災が与える日中経済への影響②

2011-03-28 | 東日本大震災
前回に続いて、大震災が与える日中経済への影響を考えてみたい。

震災から2週間が経過し、一部企業で生産再開などの動きが見受けられるが、基本的には大手企業中心である。
日本経済の担い手である多数の中小企業は、復旧のメドすら立っていないところも多い。

元来、中小企業はコツコツ努力を積み重ねながら、設備を増強していった企業が多い。
近年ではアジアの新興国からの追い上げにも苦しんでいたし、以前のように親会社の支援を得られなくなってきていた。

こうした状況下での被災。
建物の再建や生産設備の復旧には多額の資金が必要となり、事業収入が激減した中で従業員を抱えることも大きな負担となることから、最悪の場合、廃業を考える企業も出てくると予想される。

こうした企業の中に、技術力を有する企業があれば、中国企業が食指を伸ばしてくることが考えられる。既に日本不動産の買い漁りが報道されているが、その次は「日本企業の買収」である。

中国の企業は、以前から日本の中小企業の技術に注目してきた。
日本では、中小企業でも「ある特定の分野では世界でもトップクラス」という企業がたくさんある。こうした企業のブランド力は、なかなかのものである。
筆者が中国で仕事をしている中でも、日本の中小企業と交流して、積極的に技術を導入したいという話がよく寄せられる。極端な例では、明日にでも技術供与の契約書にサインしたいといった話もある。要は、お金には困っていないのである。

中国はここ20年くらいで凄まじい経済発展を遂げてきた。
おかげで資金力は大幅に増強されたが、日本の経済成長のように技術力を向上させながら資金力を向上させたわけではないため、技術者のレベルも含め、圧倒的に技術力が不足している。要は、てっとり早く技術力を向上できれば、それに越したことはないのである。

仮にこうした買収話が中小企業の経営者に寄せられた場合、その経営者が大きく悩む事態になることは想像に難くない。事業継続さえできれば、従業員の暮らしは守られるわけだし、豊富な資金力をうまく活用できれば挽回の可能性もあるからである。
ただ、相手は中国企業である。日本人が想像しているほど楽な相手ではない。

こうした経営者の苦労を避けるためにも、日本政府は大胆な中小企業支援策を展開すべきである。当面は「無利子融資」ということになろうが、返済猶予期間を通常よりも長く設定するとか、信用保証料を大幅に引き下げるなど、経営者の負担軽減に最大限配慮する必要があるだろう。

前回の結びでも書いたが、世界のライバル企業群は虎視眈々とビジネスチャンスを狙っているということを忘れてはいけない。

大震災が与える日中経済への影響

2011-03-26 | 東日本大震災
日本政府が3月11日に発生した東日本大地震から2週間が経過した。
日々送られてくるニュースを見るたびに、被災地の皆様の苦難を思うと本当に心が痛む。
同じ日本人としてできることがないか・・・、積極的に考えていきたい。

今回の記事から、この大地震が与える日中経済への影響を考えてみたい。

既に地震による製造拠点の被災や計画停電の影響を受けて、広い産業分野で操業停止や生産自粛の動きが拡がっている。一部産業では、海外企業の経済活動にも影響が及びつつある。被災地域が電子部品の生産拠点だったこともあり、今後も影響は拡大しそうな勢いである。

こうした状況下でも、世界経済はその歩みを止めるわけにはいかない。
これから新興国への生産拠点の移転などが進むのは避けられない情勢にある。

以前、神戸で大震災が起きた当時のことが脳裏をよぎる。
あの当時、神戸はアジア向けの貨物積替え拠点として栄えていたが、震災の発生を受けて一時避難的にアジアの港を利用したところ、さほど問題がないということで、一気にアジア地域の港への貨物流出が進んだ。
現在、日本の港は貨物取扱量でアジア各国の港に遠く及ばない。

今回のケースでも、同じように「とりあえずアジアの新興企業に作らせてみる」という動きが拡がりそうな気配である(現に台湾系の企業を中心に、積極的な営業を展開しているとの情報がある)。その後、どのような事態が起こるのか・・・、考えるだけでも恐ろしい気がする。

しかも、アジアの新興企業の資金力は、いまや日本企業を大きく凌いでいる。
こうした企業群が、今回の事態を「大きなチャンス」と捉えている可能性は十分考えられる。

技術の優位性というのは、言うまでもなく安定的に供給し続けることで保たれる。
そして現代社会はsupply-chain management が重視されており、ひとつの歯車が狂うと国全体の経済に影響を及ぼすことにも繋がりかねない。
日本政府が震災への対応に奔走している状況は十分理解できるが、世界経済への対処も忘れずに行う必要があるのではないか?
世界のライバル企業群は、虎視眈々とマーケットの奪取を狙っている。