昨年の3.11夜7時15分 すみだトリフォニーホールで新日本フィルの演奏会が決行された。
ダニエル・ハーディングのmusic partnerデビュー演奏会で、曲目はマーラーの5番。
その再現ドキュメントがNHKで放映された。
3月11日2時46分に大震災が起こったとき、楽団員の多くは楽屋に集まっていた。
すみだトリフォニーホールも大きな振動に見舞われてた。
ホールの安全確認ができ、4時過ぎには、
「一人でもお客様が来れば演奏しよう」と開催を決めた。
1800席以上あるチケットは完売していた。
この段階では指揮者は到着していなかった。
楽屋のテレビで、想像を越える被害が出ていることは団員も知った。
団員何人かの家族は被災地にいた。
「こんなときに開催するのか・・・」と思った楽団員も多かった。
指揮者のハーディングは日本橋で地震に遭遇していた。
ホルン奏者の一人は新橋駅からホルンを背負い会場に向け走り出していた。
(結局飲まず食わずで2時間以上を走り続け開演45分前に到着した)
演奏会前にゲネプロが開かれた。
コンマスはオケの音が萎縮していることを感じていた。
そこにハーディング登場した。
36歳の彼が動揺していないことを見て楽団員の気持ちは固まった。
(彼は『自分は一人ではなかった、音楽をする皆がいたから』という)
結局その日集まれた聴衆は105人。楽団員は90数人。
演奏開始段階では聴衆は全員到着していなかった。
2時間半歩いてきたおばあさんは第3楽章に間に合った。
こうして3.11のコンサートは始まった。
第一楽章は葬送行進曲。数奇な邂逅といえる。
トランペットのソロから普段ではない力により奇跡の演奏が実現した。
ハーディングは語る
「みな信じられない集中力を示した。オーケストラは命を懸けて演奏していた。
全員が100%音楽に入り込んでいた。生涯忘れられない演奏となった」
その夜、帰宅困難者となった聴衆と楽団員はホールに泊まった。
この放送を見ていて気付いた。
この日集まれなかった聴衆に呼びかけ、
6月20日にハーディングによるチャリティーコンサートが行われた。
その日僕はこんな背景も知らぬまま、彼らが演奏するマーラーの5番を聴いた。
知っていればもっと違った感想を持ったかもしれないが、素晴らしい演奏だった。
まだ36才のハーディング、大御所が居並ぶ指揮界においては駆け出しの年齢だけれど、すでに風格が漂ってる。
「3.11の演奏会を実現させたのは私が力強いのではなく、その逆。いろんなこと(曲-演奏家-聴衆-)が繋がってこそ力が湧いてくる。」
数少ない聴衆なのだからみんな客席真ん中に集まってくればいいのにそれぞれの指定席に座ってる日本人に驚きながらも、いろんなところに聴衆が散らばっているので会場全体に聴衆がいる気分にさせられたという話しもありましたね。
ハーディングの凄さだけでなく、プレーヤー一人ひとりや当日の聴衆の方々からもいい話を聞き出していたのには「さすがNHK」と思わせるものがありました。
それがあっていいドキュメントになったんだと感じました。
僕が聞いた6.11で冒頭のトランペットが始まる前に指揮者は何もしなかったのに気付いていたのですが、そのことを主席Tpの方が語っていたのでちょっと嬉しい気分でした。
冒頭のトランペットだけでなく、終楽章冒頭のホルンのA音、オケ全体の音色について演奏者達が祈るような気持ちだったと言ってましたね。
百戦錬磨のプロであっても、本番のその一瞬に最高の音が出せるかどうか不安なんですね。「いい音」それはプレーヤーの実力だけでなく天からの贈り物でもあるんだと感じました。
ボク達アマチュアであっても本番演奏できることを神に感謝しながら弾かねばと感じた次第です。