今日の総練は、来年2月の定期演奏会の客演指揮者を迎えての初練習が行われた。
指揮を執るのは松元宏康氏。愛称マツゲンさん。
各地の一流ウィンドオケやプロオケで指揮を重ねた後、沖縄で新設されたプロ・オケ
「琉球フィル」の常任指揮者に就任するなど、今注目される若手指揮者の一人。
事前にブログなどで写真を拝見すると、ダウンタウンの「浜田 雅功」に似ている。
だからちょっと面白いんじゃないかな~と思っていたら・・・
ブラームス「ハイドンバリエーション」から始まった練習では
全く甘えさせるようなところはなく、いきなり
「コンミスが先に出てどうするのよ」
「あなたコンマスなんだからしっかりしてくれないと・・・」
てなタッチで我が愛すべきコンミスに対して一発かましてくれた!
管楽器出身の指揮者だと思い込んでいたけど、
その後も弦楽器への注文が立て続けに出された。
「バイオリン、指揮を見てない。全体練習では全体でしか出来ないことをやりましょう」
「指揮を見られるレベルまでやってくること、それが個人練習です」
「ビオラ、今日は一人かも知れないけど、本番は8人? 音でか過ぎ、一人分で弾いて下さい」
「弦楽器の皆さん、呼吸をしていないでしょ、ちゃんと吸って吐いて、呼吸してください」
初顔合わせで、コンミスも、頼れるビオラ嬢も、つつきまわされている感じでハラハラした。
誇り高き我が楽団との緊張関係が、次第に高まってきているのではないか・・・
この先どうなんだろう・・・全体にピリピリだよな~・・
さて次は・・・と思っていると・・・あろうことか・・・
「チャン チャラ チャラチャ チャッン・・」
と誰かの携帯から着メロが鳴りだした。
紛れも無く「のだめカンタービレ」のテーマソングではないか!
カバンの中にでも入っているのか、なかなか鳴り止まない・・・
「誰だ~携帯鳴らしているのは!非常識だ!」
”バキッ!”と指揮棒が折られ、投げつけられる・・・と思いきや
指揮者殿は、メロディーにあわせて楽しそうに歌ってるではないか
「ひょっとしたら、この人いい人かも・・・」と感じた瞬間だった。
鳴らしたのはクラ爺。「おなら体操」でなくてよかった ( ̄▽ ̄;)
その後も指導は続き
「やっぱり、このオケの弦の問題は、呼吸をしてないこと。みんな息を詰めて演奏している!」
ときつい指摘があり、指示通りに呼吸を合わせて(息を吐きながら)ボーイングをすると
「ほら全然違ったでしょ。」
「え?反応が無いのは、分からないからなのかな~。」
「もしこの違いが分からないなら いくらやっても音楽で上手くなるのはあきらめたほうがいい!」
というやり取りもあったっけ。(う”ぇ~、おいら分からなかった・・・やっぱ才能なし・・)
ちょっとハラハラしたけど、前半が終わって休憩に入ったとき、仲間に聞いてみると
「結構面白いよね~」という人も、「いや~・・○△□」と首をかしげる人もあった。
最初の”クローズエンカウンター”は、お互いの品定めなのかもね。
休憩後は大曲「ブルックナー第4番」に取り組むことになった。
いよいよ、本命が始まるぞ~・・・と思ったら、
ブルックナーの楽譜についての調整会議になった。
ブルックナーはハース版とノーヴァク版があることは知っていた。
現在オケに配布されているのはハース版。
マツゲンさんは両者を比較検討した結果、ノーヴァク版が優れていると判断したとの説明があった。
指揮者と楽譜担当との行き違いがあったのか、あるいはブルックナーだからなのか、
なかなか珍しい光景を見ることができた。
指揮者から各パート譜の違いを説明したり、全体で拍子が違っている場所を書き込んだり、
オーボエやトランペットの担当からの質問に答えたり、
逆に指揮者がパートまでに出向いていって、譜面を確認したりの時間があった。
ちなみに僕の手元にある朝比奈隆のCDには大きく「ハース版」と書かれている。
巨匠・朝比奈隆はハース版にこだわりを持っていたのだと思う。
(聞き比べてもほとんど違いは分からないのだけど)
さて初ブルックナーの指揮棒はおろされた。
「今日はお手並拝見」で、一通り通すのだろうと思っていたけど、
指揮者から、今日は予定を変更して第一楽章に絞らせてくださいと宣言があった。
それはそうでしょ、ブルックナーはただ通すだけでも1時間の超ロング曲なんだから。
その後の指揮者とオケの関係は、随分いい感じになっていったと思う。
マツゲンさんの指導どおりに演奏すると、明らかに音が違ってくることが感じられてきた。
ブルックナー冒頭の弦のppのトレモロが、見違えるように良くなり、
その上に乗せてホルンが美しいソロを演奏したときは、ホルンを褒め称えていた。
その後の惜しみない指導で印象に残ることをいくつか書いておこう。
「オケにとって一番大事なことは何か?それは数えること」
ベルリンフィルやウィーンフィルの団員に聞いても必ず返ってくるそうで、
指揮者の数え方と楽団の数え方の歩調を合わせることが一番大事であること。
その数え方は2分の2であっても、パートによっては4つに数えたり、6つに数えたりしないと合わないなど
具体的な指示が出されてゆくと、その後の演奏は大きく変化していった。
「オケにとって二番目に大事なことは?それは、呼吸を合わせること」
指揮棒の速さは何を表しているかというと、これは呼吸を表現しています。
弦楽器にとって呼吸はボーイングのスピードで、指揮の速度にボーイングを合わせるように。
圧巻だったのは、1楽章での金管コラールだった。
チューバが参加しているので、今日は素晴らしい金管アンサンブルだと感じていたけど
「演奏会場の音響はどうですか?」
「良いです」
「それなら音符をはっきり切って演奏してみてください」
と指導すると、ブラスのコラールは圧倒的な迫力とまとまりで迫ってきた。
そのコラールにはブルックナーの魂が乗り移っているようで、涙が出てきて困った。
ブルックナーに感動しているからなのか、指揮者と団員のハーモニーが嬉しかったのか・・
指揮者の的確な指摘と、それに応えてゆく団員の情熱で音楽が出来上がってゆく素晴らしさ。
学食でオケ練習の音に包まれていただけで感動していた、20歳の感覚がよみがえってきた。
僕にはマツゲンさんは大変才能のある、素晴らしい指揮者だと感じられたし、
こういう指揮者に触れられることは大変幸福なことなんだと思った。
■追記:ブルックナーを聞きながら他のアドバイスをいろいろ思い出してきた・・・
1)ドイツ音楽の鉄則、付点音符は後ろにくっつけて演奏すること
2)みんな思っているよりブルックナーはゆっくりと演奏すること
3)フレーズの終わりを流すのではなく弾き切ること (1楽章51小節からのチェロ)
4)三和音では、基音はどっしりと、三音は低く、五音は高い気持ちで(眉毛を引き上げる感じで)
5)グルーブ感を大切に(Jazzのグルーブと一緒)、これが違うと合わない
6)速いフレーズは弾けないのではなく、きちんと数えられていないから
7)なぜ出だしが合わないかというと、休符の間同じグルーブで数えていないから