M.シュナウザー・チェルト君のパパ、「てつんどの独り言」 

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会社の昼食でワインを飲む

2018-05-06 | エッセイ


 先日、珍しくNHKのTVを見ていたら、「福沢諭吉は、ビールは酒ではない」と言っていたとの話が出た。フッとそれで思い出したことを書いてみる。

 あれは僕が30歳の時、イタリア・ミラノに駐在したときのことだ。初めての外国だったから、いろいろ、新しいことに出会って面食らったことがたくさんある。

 ミラノのオフイスが手狭になって、僕の担当部署だった製品開発製造の仕事は、ミラノから北東に20キロくらいのヴィメルカーテという郊外に新築されたサイトに移転した。僕は、ミラノのガロファロ通りのマンションから、車で通勤していた。



<ミラノ・ヴィーメルカーテ>

 驚いたのは、昼食のカフェテリアで、ワインの小瓶を出していたことだ。みんな平然として、会社のカフェテリアでワインボトルを開けて飲んでいた。ちょっと日本では考えられない光景だった。そのうち、それがイタリア流だと知って、僕も小瓶一本を飲むようになった。中には、豪快に2本以上飲んでいる人たちもいた。午後3時くらいまで、赤い顔をして仕事をしているのを見かけた。でも、それは普通だった。



 子供の頃から、家庭でワインを水で薄めて飲んで育ったわけだから、彼らにしては、当たり前だったのだ。それに、イタリアの聖餐は昼食という伝統があったから、みんなしっかり食べていた。日本のように、ラーメンとかうどん一杯で終わりとはいかない。例えば、プリモはパスタ。メインはビステッカ(牛ステーキ)、ホウレンソウのバター炒め添え。サラダやフルーツ、チーズもちゃんと取る食事だったから、ミネラルウオーターだけではもったいないと、ワインは必要だった。



<ドイツ・ジンデルフインゲン>

 ドイツでは、ワインの変わりはビールだ。やはり、スュトゥッガルトの南西18キロくらいにあるジンデルフィンゲンでも、昼間、カフェテリアでビールを出していた。大体、彼らは朝6:30くらいから働き始めるから、朝食の小休憩があった。さすがに、朝は飲んではいないけれど、昼飯にはビールをでかいグラスで、深沢諭吉の言ではないが、水のように飲み干していた。あっけにとられた。同じドイツのマインツの事業所でも、同じ光景が見られた。あまり赤い顔をした人は見たことがない。彼らは大体4時半に仕事を終える。



<ドイツのビール>

 イギリス。ロンドンから南西100キロくらいにあるハンプシャー州ハバントでは、カフェテリアにはビールは置いていなかったが、食事が終わると近くのパブに出かけて、みんなビールを飲んでいた。もう、不思議な感じはなくなっていた。



<イギリス・ハバント>


 フランスでは、言うまでもなくワインだ。南仏モンペリエでは、カフェテリアでワインを飲んでいた。ワインの無い食事は、彼らには考えられない。逆に言えば、ワインと、パンとチーズがあれば、もう立派な食事だと言えるのだ。会社にいるとはいえ、ワインなしの食事はとらない。そのころから、ラングドック・ルッションで、うまいワインが作られ始めたから、それを逃すはずもない。



<南仏・モンペリエ>

 同じく、コートダジュールのニースの近くにあったラ・ゴードでも、ワイン付きの食事を終えて、研究所長をはじめ、お偉いさんも一緒になってペタングをやって楽しんでいる昼休みが思い出される。



<パリ、ラ・デファンス>

 パリのラ・デファンスのヨーロッパ・ヘッドコーターでも、カフェテリアでワインは自由だった。かなりのフランス人が飲んでいた。僕は、ここでは遠慮しておいた。ここに来たのは、EMEA(ヨーロッパ・ミドルイースト・アフリカ)の一週間ほどの会議があって、慣れないフランス語なまりの英語での会議に参加するためだった。で、酔った状況では、会議についていけないなと自戒したからだ。しかし一度、会議の無い日、EMEA本社ビルから、みんなとIBMフランスのカフェテリアに空中歩道を渡って行ったことがある。さすがフランス。ワインの種類も選べて、僕もワインを飲んだ覚えがある。



 アメリカでは、たくさんのサイトを訪れたが、もちろんワインどころか、ビールにすらお目にかかったことはない。やはりピューリタンの国なのだ。オーストラリアでも、昼に飲んだ記憶はない。

 日本においては、昼飯にアルコールが許されるなんてことはない。大和研究所のカフェテリアが最先端のデザインでも、ビールもワインも出なかった。

 逆に、昼飯のビールを羨ましいと思った思い出は結構ある。

 あれは、藤沢のアプリケーションをやっていたころのことだ。土日、休日にはカフェテリアは当然閉まっている。仕方がないので、湘南台駅近くの中華料理屋から出前を大量に、カットオーバーに参加したグループの分を取ったことがある。でも、餃子は、べったりとなり、タンメンは伸びに伸び切ってしまったまずいものだった経験がある。

 仕方がないので、数台の車に分乗して、最寄り駅の中華屋さんに昼飯に出かけるのが常だった。そこで目にしたものは、同じ部の顔見知りが、餃子とビールをうまそうに飲んでいるのに出くわした。気持ちでは咎めそうになったけれど、待てよと考えたら、コンピューターのオペレータの部下たちが、夜勤明けに緊張から解放されて、ビールを飲んでいたのだ。この時ほど、昼間のビールと餃子に惹かれたことはない。

 やはり福沢諭吉は間違っていた。日本では、残念ながらビールは酒なのだ。



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