M.シュナウザー・チェルト君のパパ、「てつんどの独り言」 

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久しぶりにトリフォーを見た

2017-11-19 | エッセイ


 皆さんは、「午前十時の映画祭」をご存じだろうか。TOHOシネマが提供している映画祭だ。

  上記HPから引用:

  一度、スクリーンで見たかった。もう一度、スクリーンで見たかった素晴らしい傑作娯楽映画を選び、1年間にわたり連続上映する
  「午前十時の映画祭」。何度見てもすごい傑作映画を、《映画館》という最高の環境で、こころゆくまでお楽しみください。

  引用終わり




 <午前十時の映画祭8のブローシャー>

 僕も名作というもののなかで、もう一度見たいというものに出会うと、出かけている。イタリア映画「鉄道員」とか、「ニューシネマパラダイス」もこの映画祭で何十年ぶりかで見た。これらの印象については、僕のHPの「イタリア映画の残照」にエッセイを残している。

 今回、上大岡まで出かけたのは、「トリフォーの思春期」を見るためだ。



 <思春期のブローシャー>

 1976年に公開されたトリフォーの監督作品。

 題名は、日本語訳では、「思春期」と作品説明になってしまっているけど、原題は「お小遣い」 こちらの方が、内容を表していると言える。主人公、小学生高学年のパトリックが、友達のママンに恋をして、バラの花束をお小遣いで買ってプレゼントするのだが、相手はその子の親父からのものと勘違いして、「よろしくと伝えて」と言われて恋ははかなく、お小遣いと一緒に消えた。

 彼の小学校は、フランスの地理的など真ん中、ティエールという田舎の学校。夏休み(フランスは9月から学年が始まるから、宿題もない全くの休暇に入る)の前の、この町を舞台に、子供たちの学校生活や家庭の日常生活を描いている。いろいろな出来事が出てくる。トリュフォー自身はパリに生まれ、両親の離婚から孤独な少年時代を過ごし、幾度も少年院に放り込まれるなど、問題の多い少年だったという背景が、この物語のモチーフになっているようだ。



 <一人>

 ここで描かれている小学校は、まだ学級編成は男女別々だった。

 もともと、フランスでは、小学校の男女共学への道は平坦なものではなかったようで、小学校で男女混合のクラス編成の実現を阻んだのは、“思春期・青年期の男女の健全 育成への配慮”にあったと言われている。男女共学が認められたのは、1975年の事だと言われている。

 つまり、フランスでは、思春期、青年期の青少年の発達段階では、かなり保守的で、厳格なものだったことがわかる。

 この小学校でも、思春期という未発達段階の生徒たちが、恋愛に興味を持ったり、性に興味をひかれたり、親の暴力を受けたり、ずるがしこく映画をタダで見たり、好奇心で、先生の生活に興味を持ったりと、その年代らしい行動を見せている。

 一人の転校生が、おふくろと祖母から虐待を受け、それが学校にばれて、一人で養護施設に引き取られて行くということになった。

 この騒ぎの最中に、生徒の混乱を抑えるために、先生が思春期の子供たちに話しだす。

 それが思春期の子供の心に、伝わってくる。

  ・子どもは常に制限されている
  ・あたらしい生活をする自由は未だない
  ・親を捨てることはできない、選べない
  ・大人に許されることが、子供には許されない
  ・大人になれば、自由が得られる
  ・大人になれば、自由な選択をすることができる
  ・大人への過渡期に、今君達はいる
  ・これから大人になって、親となり、家庭を持つことが出来る
  ・人生の大切なことは、愛し、愛されることだ

 と真剣に語り掛ける。



 <群像>

 このシーンが、トリフォーがこの映画で子供たちに語り掛けた言葉だと思う。見ている観客、僕たちの心にも響いてくる。“そういえば、僕の人生にもこんな時期が確かにあったな"と、つい確認することになる。ここにこそ、この映画の凝縮されたメッセージがある。

 この子供たちは、来年度からは、男女共学のクラス編成になる。その転換期に男女が一緒の林間学校へ、子供たちは自由を求めてはしゃいで出発する。

 僕は、見終わってすぐには席を立てなかった。すばらしい105分だった。



 <TOHOシネマ 上大岡>

 昔、大学生の頃、ヌーヴェルバーグ系のアートシアターギルドの映画館に通ったのを思いだす。「新宿文化」という新宿3丁目の映画館だった。そこでトリフォーを見た。「勝手にしやがれ」「ピアニストを撃て」「柔らかい肌」などだ。その頃感じた自分の心を、追体験したからなのかもしれない。そして、彼の基本的なテーマは、“大人はわかってくれない”だったことを思い出した。



 <ミニパト>

 外の明るい世界に出たら、鎌倉街道にかわいらしいミニ・パトカーを見つけた。現実の世界に戻った自分だった。


知的活動の活発度とハイプサイクル

2017-11-05 | エッセイ




 分かりにくいタイトルですが、お付き合いのほどを…。

 ハイプサイクルと同じ形をしたカーブを1990年頃、描いたことがある。それは、僕のTAカウンセリングや、その延長線上にあるグループデベロップメントのセミナー用に作ったものだった。



 <I社ヨークタウンハイツ研究所>

 データのもとは、I社の本社人事担当取締役、T氏から、管理職セミナーで聞いたものだ。彼は、絵は使わずに言葉でしゃべっていた。非常に興味深かったから、社内外の教育に使ってもいいかと訊いて了承を得た。その後、部下のSE研修や、社外秘というものでもないから、退職後の外部セミナーでも使ってきた。

 使い方は、セミナーの最初に、参加者に課題を出す。

 課題:人間の知的活動の活発度をグラフに書いてください。各自で考えること。
    フォーマットは、縦軸、高い方が上。横軸、年齢

 彼らが考え、答えを書く時間として10~15分を用意する。彼らは悩む、考える。そして、各自のカーブが出来上がる。それを皆の前で発表してもらう。ちなみに、セミナー参加者は1回、15名以下としている。

 皆の発表が終わって、皆が落ち着いたころを見計らって、僕がブランクのフォイルをプロジェクターの上に広げて、エイヤと描く。それが、僕の命名した、「知的活動の活発度」のグラフだ。

 ネタ元は、I社のニューヨーク、ヨークタウンハイツ(I社の中央研究所)の3、000人ほどの研究者が、30年間にわたって達成した特許(パテント)と、外部論文として発表し、外部の学会に評価されたものの絶対値を、そのまま年齢スケールにプロットしたものだ。



 <知的活動の活発度>

 これでわかることは、

  10代:貪欲に知識を吸収し、自分を作る・仕事を達成する。急上昇の線になる。
  20代:自分の課題、強みを絞り込み、その領域の中で、それ深める。
  30代:自分のアイデンティティとも言えるレベルで実践し、達成感と自信を得る。ピークは39歳
  40代:峠を越えて、レベルがガクンと下がる。その後の目的、自己目標をすぐには見出せない。
     試行錯誤の時期か。厄年42歳が谷底。
  50代~:従来の隣接領域、自分の過去を見直し、新しい領域を見つけて、勉強を再開。緩やかに上昇を始める。
     しかしピークの39歳は越えられない。

 正確に言うと、このプロットは、アウトプット(出力)ベースだから、活動期は
その3~5年前だということもできよう。

 こう説明すると、多くの参加者が、このチャートの意味を納得…という反応を示してくれる。


さて、ハイプサイクルについて説明しよう。



 <ハイプサイクルカーブ2017>*

 まずは、ウエキペディアの記載の「ハイプサイクル」の定義を引用する。

 引用

  ハイプサイクルの目的は、現実から誇張(ハイプ)を切り離す
  ガートナー社によると、ハイプサイクルは次の5つの段階から構成される。
  (ガートナー社が1995年に定義した)

  1.黎明期 ブレークスルー(飛躍的前進)新製品発表やその他のイベントが
    報道され、関心が高まる。
  2.流行期(過剰期待の頂) 次の段階では、世間の注目が大きくなり、
    過度の興奮と非現実的な期待が生じることが多い。多くは失敗に終わる。
  3.幻滅期(幻滅のくぼ地) 技術は過度な期待に応えられず、
    急速に関心が失しなわれる。
  4.回復期(啓蒙の坂) メディアでその技術が取り上げられなくなる。
    坂を登りながら継続し、利点と適用方法が理解される。
  5.安定期(生産性の台地) 広く宣伝され受け入れられる。徐々に安定し、
    第二世代、第三世代へと進化する。

 引用終わり

 それにしても、知的活動の発達度とハイプサイクルとの類似性は驚きだった。

 僕はハイプサイルを最近まで知らなかったし、ガートナーグループが、I社のパテントや論文数を知っていたとは思えない。ただただ、驚いた。

 でも考えてみれば、人間のアウトプットが技術のトレンドであり、知的活動の証でもあるのだから、近似性は納得できる。

 私事で恐縮だが、僕は38歳の時に生涯で一番の仕事を完了した。これが僕のピーク。しかし、すぐに自損事故を起こして課長を首になり、3年間のマイナーペナルティ(アイスホッケーのペナルティは3分に似たもの)を食らって、意気消沈して40歳を迎えた。これが、僕の厄年だったかもしれない。

 僕の息子も含めて、若いエンジニアに言っていることを書いておこう。

 「40歳までに、何でもいいから、自信を持てる成功体験(客観的にも認められたもの)を持つために全力でぶつかること。マズローの言う、自己実現に近いレベルを、やりつくしておくこと」

 その後は、セカンドライフとして、自己が集中できることに時間を使えばいいと思っている。隣接領域など、勉強し続ければ、ピークには達しないものの、かなりの上昇は期待できるからだ。

 ここまでお読みいただいた読者の皆さんには、自分の今の知的活動の活発度は、このカーブのどのあたりにいるだろうかと、考えて見てください。


 最後に興味で、ノーベル賞受賞者の出現年齢とカーブを見てみた。これも、実によく似ていると思う。



 <Nobel prize & Great Inventor>



 P.S.
 クレジット情報*
 “Hype Cycle 2017”By Gartner’
 ライセンス:Creative Commons BY-SA 3.0