ミラノで3泊して時差ボケを解消(?)し、4度目のヴェネチアを訪れた。特にヴェネチアに想いがあるとはいえないが、ミラノの時間だけではもったいないと小旅をしたわけだ。
<ヴェネチア 玄関>
ヴェネチアはミラノから300㎞。車で3時間。過去はすべて車だったけれど、今回は安全第一と特急列車、フレッチアロッサ(赤い矢)を利用しての気楽な旅にした。車だとあまり周りを見ていられなくて、日本が高速道路建設の参考にしたアウトストラーダを黙々と走るだけだが、今回は列車の窓から周りの風景を見ながら、ウエルカムドリンクのシャンパンを飲みながらの気楽な旅になった。
<Freccia Rossa>
6月末に5泊したのだが、最初の日は恒例のスーパー探し、つまり夜の食事の準備。定番の生ハム、チーズ、パン、草、そしてワインの仕入れで半日が終わった。
翌日、サンタルチア駅まで一駅、電車に乗って、ヴァポレット(乗り合い水上バス)の7日間パスを手に入れた。おなじみの大運河を各停でつなぐ1号線に乗船したが、あまりの人の多さに圧倒された。30℃を超す暑さの中で、船の係員は、風の通らないキャビンへと乗客を押し込めようとする。それに逆らって、中ほどの風の通るデッキで頑張る。それにしても、とんでもない人の多さだ。圧倒された。お客が多く、乗り降りに時間がかかって、ヴァポレットは4kmを1時間以上かけて、やっとサンマルコ広場に付いた。
サンマルコ広場には、長い、長い行列ができていた。みんな、サンマルコ寺院に入るために、30分以上、炎天下で待っているのだ。心臓君の問題もあるので、僕は敬遠。デゥカーレ宮の入り口には、比較的短い列が見えた。
僕のサンマルコの目的は、高い鐘楼のてっぺんからヴェネチアを見ることだったから、心配しながら鐘楼のエレベーター乗り場に行くと、ガラガラ。トリップアドバイザーには、鐘楼に上るには30分以上も待つとあったので心配していたが、待つことはなかった。幸い、2台目のエレベーターに乗れた。ここからの眺めは、格別。ヴェネチアを360度、見渡せる塔の上は風もあり。快適だ。見下ろすと、サンマルコ寺院への人の列が異常に見える。
<鐘楼からの眺め>
鐘楼を一巡りして、ふっと上を見上げたら、今も現役の鐘がすぐ頭の上にぶら下がっていた。
<鐘楼の鐘>
鐘楼を降りてみると、さっきと違って、鐘楼のエレベーターにも長い列ができていた。ラッキーとしか言いようがないタイミングだったのだ。足は、サンマルコ広場へ向かう。ここで、一休みだ。
<フローリアン>
午前中は陽が当たるクアドリを避けて、日陰のフローリアンに入る。ピアノやヴァイオリンの音がしたから、高いテーブルチャージを取られるなと覚悟してテーブルに着いた。白ワインを注文して、おつまみをつまみながら対面のクワドリを見ると、朝の日がガンガンに照っていた。もちろん人は誰もいなかった。こうやって、この二つの有名な店は、午前と午後で昼間の営業を分け、夜は競い合って客を呼ぶのだと納得した。やはりカバーチャージとして、10ユーロも取られた。
そこからが難業だった。
お決まりのサンマルコ広場からリアルト橋までの狭い通路を、人が流れている。団体さんのようで、割り込む隙間もないように、人が一方通行で流れている。こんなのは異常だと思いながら流れに流されていたが、一本細い路地に入ったら、涼しく、喧騒から逃れられた。これが本当のヴェネチアだ。
暑さと、人いきれにバテテいた僕は、リアルト橋を登って降りての往復をしたら、息が切れた。発作でも起こしたら大変だと、エアコンのきいた店を探してリアルト橋の近くのリストランテに座り、やっとの思いで昼飯を食った。それにしても、すごい人の流れだとびっくりした。
<リアルト橋>
帰りのヴぁポレットも混んでいたが、幸い、船首のデッキの椅子に座れて、サンタルチア駅まで帰ってきた。運河の水は、昔のまま汚い色で、匂いも立ち上っていたようだ。やはり100%人工の町、ヴェネチアは開放的とは言えない。
<クルーズ船 7隻>
帰りに、メストレへの電車から、大きなクルーズ船がヴェネチア港に入港しているのが見えた。数えてみると、7隻。一隻のクルーズ船の客を2000人とすると、1万4千人もの人が、一度に、ヴェネチア本島に降りたことになる。本島の人口は5万6千人とあるから、突然、25%もの人口が増えたわけだ。あのキチガイじみた混雑が納得できた。
<巨大な船の一隻>
水の中に、松の木を打ち込んで浮島を固定しているヴェネチアにとっては、とても大きな負担だろうと思う。そのうち、ヴェネチア本島が、観光客の重みと地響きで沈み始めてもおかしくない人の流れだった。ヴェネチア港にクルーズ船を入れまいと、メストレ港に桟橋を建設中だとか。
翌日、アカデミアからジュデッカ運河に面した、ザッテレの河岸を歩いていたら、海の香りがした。大運河とは違って、そこは海だった。気持ちが広がった。昔、読んだ、須賀敦子さんのザッテレの描写を思い出した。気持ちが晴れてきた。