10年ぶりに、フェルメールを「上野の森の美術館」で見てきた。
<フェルメール展の大看板>
前回は、2008年月の東京都美術館で「光の天才画家とデルフトの巨匠たち」で、フェルメールを見ている。今回とダブった作品もあった。「リュートを調弦する女」とか、「手紙を書く夫人と召使」などだ。全世界で確認されている作品は35点しかないから、フェルメールの絵を見られるのは、本当に稀有なことなのだ。
僕のフェルメールとの最初の出会いは、1984年の東京西洋美術館での「真珠の耳飾り」(ターバン)を見たのが始まりだ。印象深く、決して忘れない。。フェルメールの名を聞くと、彼女の顔が頭に浮かんで出てくる。2012年にも来たらしいが、大混雑と聞いて、見に行かなかった。
<真珠の首飾りの少女:P.D>
今回のフェルメール展は、日本では画期的な運営がされていた。日時ごとに、切符が売られ、館内に入る人をコントロールしていたことだ。こうした経験があるのは、ミラノのカナーコロの「最後の晩餐」くらいだ。ここでは、ワングループ、最大15分で追い出しだから、もっとシビア。今回は、入場者の数のコントロールだけだったから、館内の入場者数は管理できていない。やはり、ごった返していた。
日本の展覧会のまずいことは、音声ガイドを耳にした見る人の質だ。そんなに近くにへばり付いて見ることもないと思われる大作でも、へばりついてガイドが終わるまでその絵の前に陣取る。後ろの人など、全く気にもかけていない。欧米の美術館では、近くで見る人は、後ろの人の邪魔しないように、気配りしながら見ている。少し斜めから見るとか、どうぞと、自分のところを開けてくれたりする。日本の要改善点だと思う。
<赤い帽子の娘>
今回の目玉は、日本で初めての「赤い帽子の娘」だろう。ちょっと見ると、男の子だと思わせるが、少女だった。透明なヴィヴィッドな色彩が美しい。もう一つの目玉は、修復で昔の汚れが消えた本来の姿の「牛乳を注ぐ女」だろう。窓からの光と、黄色の上着とブルーのスカートのコントラストが、この絵を美しくしていた。フェルメールの作品が持つ、思わせぶりのない作品には好感が持てた。確かに名作だろう。9点を揃って見られるのも、これが最後かもしれないと思わせるくらい、ヨーロッパと、アメリカの美術館から、作品を集めてきたのには敬服する。
<牛乳を注ぐ女>
フェルメールの窓からの光を見ると、どうしても同時期、17世紀のオランダの画家、レンブラント光線を思い出してしまう。40年以上前にアムステルダムで、レンブラントの「夜警」を見た時のショックが頭に残っているからだ。対比して、「光の画家フェルメール」と、「闇の画家、レンブラント」とも言われている。お互いに、相手を意識しながら、制作したのは間違いではないだろう。そのほかのオランダの絵は、あまり好きなものはない。
<レンブラントの夜警 P.D.>
展覧会を見るのは疲れることだ。しかし、久しぶりに上野まで出てきて、このまま横浜に帰るのはもったいないと、大塚に行ってみようと思った。この時期、紅葉の、鬼子母神を訪れて、昔からの駄菓子屋や、親父のくたばった病院を、チンチン電車で尋ねてみようと思ったわけだ。
大塚は久しぶり。JRの駅は新しくなって、近くには複合施設やホテルも建って、がらりと雰囲気が変わっていた。しかし、都電は相変わらずで、懐かしく、路面をゴットンゴウゴウ、チンチンと風景を眺めながら、雑司が谷に向かう。
<ケヤキの巨木>
雑司が谷の鬼子母神通は、相変わらず。今は本当に関東全体で珍しくなったケヤキの巨木が、参道を覆っている。でも、古い木が少なくなったような気がする。300年以上のケヤキが先のほうを切られて、何とか生きているという感じだ。
<600年のイチョウ>
鬼子母神のイチョウは、ちょっと紅葉には早く、600年の歳月を生き抜いて立派。立派に生き残っているものはもう一つある。境内にある、懐かしい駄菓子屋、上川口屋。80歳を過ぎたと思われる白髪のおばあちゃんが、今も店番をしながら、子供たちと接している。結構、店に客も来ている。
<上川口屋>
僕にとって、何故、鬼子母神が懐かしい場所かというと、親父が息を引き取った元鬼子母神病院があるからだ。親父の病室からも、鬼子母神が見えていた。今は、音大の寮になっているようだ。
<元鬼子母神病院>
帰りに疲れたから、ケヤキの参道にあるドリップコーヒー屋に入って休んでいると、なんだか、外の景色が歪んで見える。
おかしいなと思って見てみると、昔の手作りのガラスが懐かしい引き戸にはまっていて、見える景色を部分的にゆがめて見せていた。歪んで見えるのはケヤキの巨木だけではなくて、その後ろのブロック塀は人工的な直線のために、歪んで見えるのがよりハッキリしてる。
<歪んだケヤキの巨木とブロック塀>
もう、ここに来ることはないだろうと思いながら、三ノ輪橋行きの電車に乗った。チンチン。