M.シュナウザー・チェルト君のパパ、「てつんどの独り言」 

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海外の空港たち–8 ジョン. F. ケネディ

2019-09-01 | エッセイ・シリース

 

<J.F.KからJFKへの飛行図> 

  日本からのJFK(ジョン・F・ケネディ空港)への着陸は、大西洋に面したロングアイランドの沖まで迂回してから、陸に向かってアプローチするのが普通だ。しかし僕たちは、マンハッタンの高層ビル群をかすめながら、北のほうから直接、JFKに近づいたことがある。しかもふらつききながら。 

 僕はその日、東京への直行便をゲートで4時間以上も待っていた。メカニカル・トラブルというやつで、鼻先のあたりのペンキがはがれた、疲れたような搭乗機DC-8を恨めしそうに見ながら、ボーディングのアナウンスを待っていた。

 

<JFK 上空から by Joe Mobel>*1 

 やっと離陸して水平飛行に移り、カナダ上空に入ったなと思った時、急に大きく機体が揺れた。別に音はしない。しかし機体の揺れは落ち着かない。主翼の上についている機体を安定させる小さな板が、小刻みに動いて機体の左右への揺れを防いでいる。しかし、いつもと安定度が違う。ちょっと変だなと思った。 

 そんな状態がしばらく続いたあと、機長のアナウンスがあった。この飛行機は、オイル圧力コントロールの機能が正常に働いていないので、機体の安定をうまく保てない状態にある。手動で機体の安定を保って飛んでいる、とのこと。乗客の間にざわめきが起こった。一方の翼が反対側の翼より上に行ったり、逆に下に行ったりして水平が保たれていない。 

 さらに機長からアナウンスがあった。安全のためJFKに引き返すとのことだった。太平洋を横断するのだから、安全は重要だ。 

 ここから異常な経験が始まった。大きく片方の翼を上げてUターン。着陸時の安全のために満タンの燃料を空中放出するという。主翼の先から霧になって燃料が空中にばら撒かれていく。もちろん禁煙のサインは出ている。空は曇りだ。燃料が白く流れ出て行くのを見ていた。その間も機体は小刻みに左右にゆれている。しかし直接的な危険を感じてはいなかった。カナダの、どこかの飛行場でもいいじゃないかとも考えた。  

 とても長く感じられた時間が過ぎて、飛行機はニューヨークに近づいた。JFKに着陸するのに、その飛行機はマンハッタンの上空を超低空で低速で飛行しているのを知った。機体はいぜんとして、左右に揺れて安定しない。高層ビルが、すぐ目の下にある。こんなところは、普通は飛べないなあと思った。ロングアイランドの姿はない。太西洋に出るようなそぶりはない。ああ、真っすぐ入っていくんだなと思った。

 

<すぐ足の下に、マンハッタンが見える>*2 

 着陸用のフラップが、ゴリゴリと音を立てて主翼から出て行く。アナウンスがあって、僕たちは、眼鏡、時計、腕輪とか、身につけた金属をすべてはずし、皆自分のひざの上に上半身を突っ伏し、緊急着陸に備えた。エンジン音が大きく聞こえる。突っ伏しているのだから外の様子は見えない。音と振動だけが僕たちへのフィードバックだ。高度を下げエンジン音が急に小さくなる。ゴゴゴオーンと足元から振動がきた。着地だ。エンジンの逆噴射が異常に大きく響く。滑走しているのが、とても長い時間に感じた。止まった!突然、皆が拍手した。よかったなーと、やっと顔をあげた。 

 窓の外を見ると、消防車が何台も僕たちを取り囲んでいる。化学消防車やアンビュランスも何台もやって来ている。消防車たちは、放水銃を僕たちの方に向けて、何時でも放水するぞ、と待ち構えているのが見える。すべての車両が赤と青のランプを回転させている。非常事態なのだ。僕たちはすっかり取り囲まれていた。

 

<消防車>*3 

 その時、僕は始めて恐怖を感じた。僕たちは本当に危険なのだ!エンジンは滑走路の真ん中で、シャットダウンされたままだ。飛行機はタクシーをして、ターミナルには行けない。空港は閉鎖されているようだ。 

 タグの車が来るのが見える。曇り空のJFKは、僕たちの飛行機を取り囲んで静かなように見える。静まり返っているように見える、何かが起こることを予想してか?

 恐怖だ。やっとタグがやって来て、僕たちは彼に引かれてターミナルに向う。

 

<タグ> 

 ゆっくりと機体が動いた。ほっとする。ところが、僕たちの機体がゆっくりとターミナルに向かう間も、緊急自動車たちは、僕たちに放水銃の銃口を向けたまま、そのままの陣形で、僕たちを取り囲んだまま、飛行機について来るのだ。機体が発火する危険はまだ消えてはいないのだ。ゆっくりゆっくり飛行機は、タグに引かれてターミナルに近づいて行った。 

 僕たちは、それからさらに待たされた。すぐに変わりの飛行機が準備され、それに乗り換えて日本へ飛び立てると思っていたのだが、航空会社は代替の機体は準備できないので、同じ機体を修理して日本まで飛ぶというのだ。「ちょっと待ってくれ!」ってことになる。何人かはキャンセルしたり、他の航空会社に便を変更したりしていた。僕たちはそれもできず、ロビーでぐったり疲れて、修理が終わるのを待っていた。おいおい、またこんなボロ飛行機で13時間も太平洋を越えるのかよと思いながら僕たちは待ちつづけた。 

 僕たちが、その同じ機体に乗って東京に到着したのは予定の20時間遅れ。最悪のフライトだった。

  

P.S.

クレジット情報:

*1:Joe Mobel さんのJFKを借用。Creative Commons Alike 3.0

* 2::Audlrey Julienneさんのマンハッタンを借用。Creative Commons 2.0

* 3:Kathleen MaherさんのFire Enginを借用。Creative Commons 2.0

 注:このエッセイは、単行本、「父さんは足の短いミラネーゼ」にあるものを、再校したものです。読んでいた方がいらしたら、ゴメンナサイです。