M.シュナウザー・チェルト君のパパ、「てつんどの独り言」 

「チェルト君のひとりごと」は電子ブックへ移りましたhttp://forkn.jp/book/4496

ティラーノ、雨の半日

2016-10-09 | 2016 イタリア

 今回も天候には恵まれた。6月下旬から7月中旬を、旅の期間に選んでいる訳は、ここにある。日本の梅雨のいやな時期を、スカッと晴れ上がったイタリアで過ごすのが目的。ジュン・ブライドという言葉が日本に入ってきているが、その意味は、正確には理解されていない。ヨーロッパでは、晴れたこの季節に結婚式を挙げようという願いがこもっている。



 <ティラーノの地図>

 イタリアと南部スイス・アルプスを楽しむために選んだ拠点、ティラーノの町について書いておこう。一言でいえば、小さな田舎町だけれど、とてもいい感じの町だった。

 位置的には、ロンバルディア州(ミラノが州都)の一番北の貧しい谷、ヴァルテリーナ谷の入り口だ。ミラノからの鉄道の終点、そこがティラーノだ。



 <Valtellina>

 基本的には貧しい土地。北国の寒さもあるし、急峻な岩山のすそ野を流れるアッダ川にそっている狭い谷で、平な豊かな土地はないから小麦粉は作れない。昔から、日本の信州のように、山の畑で作ることが出来るソバが小麦の代わりに使われていた。だから、蕎麦粉でうったパスタがある。あとは、岩を組んで作った段々畑でワインの製造をして生きている。だから、ヴァルテリーナという品種の葡萄もある。



 <ブドウ畑と教会>

 もちろんティラーノは、ベルニーナ急行の発着駅で、ベルニーナ山塊やサンモリッツに繋がったから、今は観光の町。ただベルニーナ急行への乗り換えという短期の滞在客が多くて、駅の周り以外は観光客は見えない。僕のような4泊もする客は珍しいようだ。今は、駅のある川の北側が町の経済的な中心でもある。ミラノからの列車、サンモリッツからのベルニーナ線が着くからだ。



 <アッダ川>

 町は、アッダ川で南北に分断されている。僕のホテルは、Hotel Centrale。つまりセントラルホテル。実はアッダ川の南のほうが古くからの町で、昔の町=チェントロ・ストリコは川の南側に残っている。町の中心の大きな教会、サン・マルティーノ教会は宿のすぐそばにある。朝、夕、鐘楼からの鐘が鳴る。教会は、イタリアでは町の中心という意味合いがある。駅から10分は歩くが、それが幸いしたと思っている。観光客の町ではなく、土地の人ばかりの町に入りこんだ感じがしたからだ。



 <サン・マルティーノ教会>

 今回の3週間の北イタリアの滞在のうち、唯一、雨が降ったのが、このティラーノの午前中の半日。高い山に囲まれた、山ならではの変わりやすい天気のせいだ。半日、無駄にしたような気もしたが、しかし、ぼんやりと空を眺めて、早く天気にならないかなぁと願っている、ゆっくりした時間も捨てたものではない。

 午後には、雨が上がったから、町を歩いてみることにした。ホテルの女将さんに書いてもらった地図を頼りに、細い道、建物の中をトンネルで通り抜ける道、川沿いの道、車の通れない道、山の見える橋を渡り、広い公園の木陰で、たむろして穏やかな時間を過ごしている老人たちと時間を共有することが出来る。見上げると高い山が、高いカラマツの梢の上にそびえる。駅の周りには、観光客のざわめきが感じられるが、一本、道を渡れば、そこにはゆっくりとした時間が流れている。



 <魚屋>

 山の中の谷の町にも、魚屋があった。びっくりした。金曜日には肉を避けて、魚を食べる習慣が、今も残っているのだろう。大きなタコもガラスケースの中に見え、山の人も、海の魚を食べるんだと感心したりする。アッダ川に近くを歩いていると、面白いものを見つけた。それは、昔の洗濯場。手で洗濯ができるように、縁が広く斜めになった、水場があり、こんなところでおしゃべりしながら、女性たちがゴシゴシやっていた昔の姿が目に浮かぶ。



 <洗濯場>

 旧市街の中心の広場、ピアッツア・カヴールまで戻ってきたら、週末だけの市場、骨董市が開かれている。町の人たちが懐かしそうに眺め、品定めをして値段交渉をしていた。なんだか、デジャヴの世界を見たような気分。



 <骨董市>

 ホテルには、フェラーリの客が来ていた。しかし、ホテルの駐車場には、フェラーリの幅広の車体は入れない。女将は残念そうに、フェラーリを見送っていた。僕には一生、触ることだってできないフェラーリの写真を撮らせてもらって、ホテルに帰ってきた。



 <フェラーリと僕>

 ホテルのレセプションにいた若い女の人と話していたら、ホテルは、3年前まで、彼女のおばあちゃんの持ち物の薬局だったとのこと。今の女将が買い取って、完全に自分の好みでデザインし、リノベートしたものだと説明してくれた。どおりで、窓を開けたら部屋のエアコンが自動的に止まったり、部屋の天井の明り取りをリモコン操作で開閉できたり、部屋のグラスが美しいオーヴァルの形をしていたのだと納得。若い女の子は、おばあちゃんのやっていた薬局だったけれど、ホテルとしてリノベートされて客もつき、今は従業員として満足して働いていると、明るく話してくれた。それがホテルの歴史だった。



 <明日天気になーれ>

 ティラーノの町は、心が落ち着くいい町だし、いいホテルだったと思っている。せかせかしないで、ゆっくりと過ごしてみてはどうだろう。