和田信明 中田豊一2010「途上国の人々との話し方-国際協力メタファシリテーションの手法」みずのわ出版
この著者が行っている研修にきのうまで参加していた「お達者クラブ」Tさんが一緒にネワール料理を突っついているときに、あまりにその具体的な内容を語るので、長いこの分野の経歴を持つ彼女がそこまで言うなら日本で読もうと思ってアマゾンで調べたらとても高価なので困っていたら、貸してもらえることになった。それで滞在中のカトマンズで読み始めた。いくつもアンダーラインを引きたくなったので、この国では普通の(日本ではいけない?)、全本コピーをしたら、450ページ+簡易製本付きで400ルピー(約400円)。
まずは、「メタファシリテーション」と彼らが名づけた、具体的な質問を重ねるインタビュー方法が紹介される。建前ではなくて、具体的な答えやすい質問で質問者が得られることが多いことや、質問される方が答えることを喜びに感じ、自らの考えも整理されるという効果が示される。たとえば、「家族は何人?」ではなくて、「いま、この家にだれが住んでいますか?」などだ。
この著者たちは、1980年代からインド・ネパール・バングラデシュを振り出しに、インドネシア・ラオス・ケニアなどでのNGOとODA双方のフィールド経験があり、今日も現場(たとえば、植林・収入向上・ささやかインフラなど)と研修などで、開発支援を仕事としてかかわり続けている人たちだ。
それで、提示される事例が豊富だ。
また分野としては、村落の総合支援という特徴がある。
プロジェクト評価について、よく整理された提示があった。
1992年のブラジル「地球サミット」で採択されたアジェンダの実例集「ローカルアジェンダ21」からとして、次の5点にまとめている。
・パートナーシップの構築 partnership building
・コミュニティに基づいた課題の分析 community-based issue analysis
・行動計画作り action plan
・実施とモニタリング implementation and monitoring
・評価とフィードバック evaluation and feedback
これらの項目化はすばらしい!実施者として、また評価者として、整理して事態をとらえることができ、共有しやすいと思う。
この本で示される情報は、開発途上国の人々と実際に触れ合う人々、開発計画を立てる人々に必須なものだ。いろいろな機会で学ばれて、無駄な、あるいは誤った支援がなされないために、身に付け肉化されることが望ましいと思う。
以降、ぼくの意見。
・「途上国の人々との話し方」は、なぜ、先進工業国の人々との話し方とは違って方法化されるのだろうか?ぼくは、異文化事態に入った先進国側の人が基本的に知っておくべき情報という意味合いと思った。差別ではなく、必要な違いの認識だ。
・「HowやWhat」を使わない質問が推奨されている。ただ、Howについては、相手が自由に自分を出しやすい質問でもあり、アイスブレーキングやラポート作りに使えるという側面が指摘されてもいいと思う。「ここへはどのようにしてこられました?」のように。ただし、次に述べる「メタ」がわかっていないと失敗もありうる。
・「メタ認知とは、認知活動を行っている自分を見ている高次の自分の働き」。対人的な仕事を成功的に行っている人は自然に大方身に付けているのではないかと思う働きだ。でも自我優先社会になった今、相手の自尊感情などのことを感じることは難しくもなってしまっている現実がある。ぼくたち心理療法家は、特に重い障害を持つ人を相手にしてきたものにとっては、これこそ本務なんだけど。開発支援者に、相手と自分の間(対人間)で起こっていることを見つめよ、ということはぼくも必須と思う。これがないと、信頼関係も築づけず、愛も汗も、技法も生きない。3部の技法解説と研修は現地語の習得と共に、NGOもODAも、派遣事前研修の必修にすればいいと思う。
・貧困を含む開発途上国の事態を、近代国家化や市場経済化、そして人口増加という視点のなかで、「状態」と捉えるのは大賛成。
・こういう風に現在の開発支援の現実を見ると、著者たちは言外に、ムダな、効果のない、自己満足的なプロジェクトが多いと指摘しているということになる。必要なところに、効果的な支援が、必要な期間長期的に行われるようになってほしいと思う。
・そして関わってきた、わが足元日本の災害地の復興は、あるいは復興支援は、この視点ではいかにして進めるべきなのか、と考えている。
この著者が行っている研修にきのうまで参加していた「お達者クラブ」Tさんが一緒にネワール料理を突っついているときに、あまりにその具体的な内容を語るので、長いこの分野の経歴を持つ彼女がそこまで言うなら日本で読もうと思ってアマゾンで調べたらとても高価なので困っていたら、貸してもらえることになった。それで滞在中のカトマンズで読み始めた。いくつもアンダーラインを引きたくなったので、この国では普通の(日本ではいけない?)、全本コピーをしたら、450ページ+簡易製本付きで400ルピー(約400円)。
まずは、「メタファシリテーション」と彼らが名づけた、具体的な質問を重ねるインタビュー方法が紹介される。建前ではなくて、具体的な答えやすい質問で質問者が得られることが多いことや、質問される方が答えることを喜びに感じ、自らの考えも整理されるという効果が示される。たとえば、「家族は何人?」ではなくて、「いま、この家にだれが住んでいますか?」などだ。
この著者たちは、1980年代からインド・ネパール・バングラデシュを振り出しに、インドネシア・ラオス・ケニアなどでのNGOとODA双方のフィールド経験があり、今日も現場(たとえば、植林・収入向上・ささやかインフラなど)と研修などで、開発支援を仕事としてかかわり続けている人たちだ。
それで、提示される事例が豊富だ。
また分野としては、村落の総合支援という特徴がある。
プロジェクト評価について、よく整理された提示があった。
1992年のブラジル「地球サミット」で採択されたアジェンダの実例集「ローカルアジェンダ21」からとして、次の5点にまとめている。
・パートナーシップの構築 partnership building
・コミュニティに基づいた課題の分析 community-based issue analysis
・行動計画作り action plan
・実施とモニタリング implementation and monitoring
・評価とフィードバック evaluation and feedback
これらの項目化はすばらしい!実施者として、また評価者として、整理して事態をとらえることができ、共有しやすいと思う。
この本で示される情報は、開発途上国の人々と実際に触れ合う人々、開発計画を立てる人々に必須なものだ。いろいろな機会で学ばれて、無駄な、あるいは誤った支援がなされないために、身に付け肉化されることが望ましいと思う。
以降、ぼくの意見。
・「途上国の人々との話し方」は、なぜ、先進工業国の人々との話し方とは違って方法化されるのだろうか?ぼくは、異文化事態に入った先進国側の人が基本的に知っておくべき情報という意味合いと思った。差別ではなく、必要な違いの認識だ。
・「HowやWhat」を使わない質問が推奨されている。ただ、Howについては、相手が自由に自分を出しやすい質問でもあり、アイスブレーキングやラポート作りに使えるという側面が指摘されてもいいと思う。「ここへはどのようにしてこられました?」のように。ただし、次に述べる「メタ」がわかっていないと失敗もありうる。
・「メタ認知とは、認知活動を行っている自分を見ている高次の自分の働き」。対人的な仕事を成功的に行っている人は自然に大方身に付けているのではないかと思う働きだ。でも自我優先社会になった今、相手の自尊感情などのことを感じることは難しくもなってしまっている現実がある。ぼくたち心理療法家は、特に重い障害を持つ人を相手にしてきたものにとっては、これこそ本務なんだけど。開発支援者に、相手と自分の間(対人間)で起こっていることを見つめよ、ということはぼくも必須と思う。これがないと、信頼関係も築づけず、愛も汗も、技法も生きない。3部の技法解説と研修は現地語の習得と共に、NGOもODAも、派遣事前研修の必修にすればいいと思う。
・貧困を含む開発途上国の事態を、近代国家化や市場経済化、そして人口増加という視点のなかで、「状態」と捉えるのは大賛成。
・こういう風に現在の開発支援の現実を見ると、著者たちは言外に、ムダな、効果のない、自己満足的なプロジェクトが多いと指摘しているということになる。必要なところに、効果的な支援が、必要な期間長期的に行われるようになってほしいと思う。
・そして関わってきた、わが足元日本の災害地の復興は、あるいは復興支援は、この視点ではいかにして進めるべきなのか、と考えている。
一点だけ気になる点が。「ここまでどうやって来られましたか」でのhowは、事実確認質問のhowですね。でも、「ネパールへの出張はどうだった how was the trip to nepal」という質問(相手の気持ちを聞く質問)を、事実確認質問だと勘違いしてしまうと、相手の現実realityは見えてこない、ということを著者は言いたかったと思います。
研修では、最後から二番目の項目「こういう風に、、、」に言及されていました。
ぼくの主眼は精神保健支援という枠組みがあるので、ぼくのHowの例は、答えやすい質問であり話し出す機会を提供するという意味だけです。
つまり人間関係を作る入り口としてです。
情報を得るとか、相手に気づいてもらう機会となる、という意味で、事実の質問をするというのは確かに効果的ですよね。
ただ相手が「しっかりした人」、つまり「記憶も知能も対人関係も通常範囲」という限定はあるとは思うけど。
いづれにしろ、貴重な文献を紹介していただいて感謝です。
そう遠くないうちにまたお会いできることを望んでいます。
ムリはほどほどにして、お元気で!
ソムニード職員の宮下と申します。
過去に1年間カトマンズに暮らしていたことがあり、ネパールは第二の故郷と思っています。
ネパールでもまた研修を開催する機会があれば・・・と思いますし、日本では随時研修を開催しておりますので、ご参加いただくことがあれば、うれしいですね。
今後とも、同じネパールで活動する仲間としても、どうぞよろしくお願いいたします。