SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

ZOOT SIMS 「That Old Feeling」

2010年03月17日 | Tenor Saxophone

一昨日、仕事で山形市に行った。
山形市には年に3~4回は行くのだが、いつもはとんぼ返りをしているためにゆっくりした時間を持てなかった。
しかし一昨日は違った。
仕事を終え、夕食を済ませ、軽く一杯引っかけてから、名の通ったジャズ喫茶「オクテット」に入った。
ドアを開けると、客が3人カウンターに座っていたが、肝心のマスターがいない。
するとその客の一人であるすらりとした若い女性が、おもむろに席を立ってカウンターの中に入り、グラスに水を注いで「はい、どうぞ」と差し出してくれた。
聞けば、「マスターは今ちょっと出ているけど、5分もしたら戻るはず。注文はもうちょっと待っててね」とのこと。
どうやら彼女はこの店の常連らしい。その手慣れた雰囲気に、こちらの緊張も一気にほぐされた。

しばらくするとマスターが帰ってきた。
私を見つけると、「あれ、いらっしゃい」と山形弁でにこやかに声をかけてくれた。
噂には聞いていたが、実に気さくな方である。
私はビールを頼んで、見覚えのないCDのジャケットを見ながら、かかっていた曲を聴いていた。
するとマスターはカウンター越しにそれを見ていたのか、「ジャズ喫茶は古いのばっかりかけてっとこが多いども、うちは新譜もどんどんかけてっから」と、最近入荷したばかりのCDを何枚かみせてくれた。どれも知らないものばかりだった。
常に新しいものを取り入れることで、新陳代謝を図っているのだろう。
これが1971年にオープンしたという老舗ジャズ喫茶のこだわりである。

その後マスターは、ズート・シムズの「That Old Feeling」を手に取り、ターンテーブルに乗せた。
店内の空気が一気にスイングしながら循環し始めた。
この軽快さがズートの持ち味である。他の誰よりも揺れに揺れる。

「でもやっぱりズートが好きなんですね」というと、
「んだな」とニッコリ笑ってご満悦の表情を見せた。
「ズートもいろんなズートがいるけんど、そん時の気分で取っ替えるのさ。だからどのレコードもみーんな好きなんだべ」とのこと。
うまく伝えられないが、その一言に重みがあった。年季が入っているとはこのことだ。
ジャズ喫茶はかくあるべきである。
ついでに、こんな店のある山形市もすてきな街だと思う。