ぶらっとJAPAN

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満つる月の如し 仏師・定朝【澤田瞳子】

2017-09-03 11:28:21 | 奈良

 

法隆寺とその近くの寺を回った時に、仏像の見方を教えてもらったことがあります。

詳しいことは忘れましたが^^; 飛鳥時代などの昔の仏像は平べったくてその後の仏像は丸い。そんな区別でした。

定朝作と唯一確定されている平等院の阿弥陀如来坐像は、本作のタイトルが示すように、『満月の如く』丸い。学校の試験にも出てきた、美術史上重要な「定朝様式」はその後唐の影響を受けない日本独自の様式として定着していきます。

現代の私たちが仏像を見るとき、その美しい造形にのみ目が行きがちですが、仏像建立のそもそもの動機は人民救済の「祈り」です。でも果たして、木で作った動かぬ仏像で本当に人々を救うことができるのか。本作ではこの根源的な問いに葛藤する人間・定朝が描かれています。

冒頭、まだ少年のあどけなさが残る定朝が、傷ついた仏像の面を直すシーンがあるのですが、はしごを軽やかに駆け上がってあっという間に新しい面を削りだす定朝の腕の冴えが鮮やかに活写されていて、まるでその場にいるように興奮しました。奈良仏教史を専門とする著者が描き出す当時の都の世相はとてもリアルです。

作中では、ある悲劇的な出来事を通して定朝はあるべき「真の仏の姿」を見出し、それが阿弥陀如来坐像のあの慈愛に満ちたお顔へと繋がっていきます。

平等院というと10円玉のイメージしかありませんが、額に汗をたらし、無心に削りだす定朝の姿を思い浮かべながら見上げれば、また違う景色が見えてくるかもしれません

【読んだら行ってみよう!】

平等院鳳凰堂(京都府)

コメント (2)
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