徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

BA038/17JAN PEKLHR - Initial Report Update

 時は丑三つ時、WOCL: Window Of Circadian Low (体内時計など生理的に身体的に低調となる期間:基地時間で午前2時から午前6時)で非常に辛いのでありますが、情報をお伝えすべく、目蓋に突っ支い棒をして....。

NTSB: National Transportation Safety Board (米国運輸安全委員会)経由で BAW038/17JAN PEKLHR に関して、AAIB: Air Accident Investigations Branch (英国の航空事故調査委員会)が先日発表した Initail Report の update が入電しました。

エンジンが推力を失った過程がより詳細になってきました。

先の報告の通り、当該機は EGLL Rwy 27L へ ILS Approach を行っていました。問題が発生するまでは全くもって順調で、所謂 Stabilized Approach でありました。

オートパイロットで ILS Approach を実施していましたので、エンジンはカップリングされた Auto Thrust で制御されています。

オートパイロットによる進入過程で、Auto Thrust から両エンジンに推力増加の指示が出ました。
(※素人の下種な推測:既に Final Flap はセットされていたでしょうから、おそらくは風の影響を補正し、Vref + α の速度を維持し、VNAV Path は on Glide Slope を維持すべく推力補正をしたのだと思います)

その指示( Auto Thrust から両エンジンへの推力増加指示)から約3秒後、右翼の No.2 Engine の推力が低下しました。そのおよそ8秒後、続いて左翼の No.1 Engine の推力が低下しました。

「推力が低下した」の意味するところは、エンジンが停止した訳ではなく、また、完全に IDLE Retard でもなく、Flight IDLE よりは若干(推力は)出ていました。

しかし、Auto Thrust が指示した推力には達していませんでした。

DFDR, ADAS から得られた情報では、燃料は充分あり(これで燃料切れの可能性はまずなくなった)、Autothrottle 及びエンジン制御システムは、〔推力に異変が起こる前も、その後も〕適切な指示を出していました(これで FADEC: Full Authority Digital Engine Control システムが全滅したとの可能性も薄くなった)。

AAIB では、
 ・なぜ Autothrottle からの指示に反して推力が減ってしまったのか?
 ・なぜ、その後の PF による Thrust Lever の操作にエンジンが反応しなかったのか?
について、考えられ得るシナリオを、Boeing 社,Rolls Royce 社,および英国航空との緊密な協力のもと、解明することになります。

先ずは、燃料タンクからエンジンのインジェクタまでに至る燃料経路(その制御系も含めて)を徹底調査するようです。

未だ全容解明には程遠い状態ですが、たとえ些細なことであっても確認できた情報を迅速に公表する姿勢に、AAIB が Boeing, Rolles Royce, British Airways に止まらず、世界中の 777 のオペレータや、その Flight Crew に対して気を配っていることが伺われます。


AAIB からの当該 Update 原文も入手しましたので以下に引用します。

Accident to a Boeing 777-236, G-YMMM, on 17 January 2008 - Initial Report Update

Accident to a Boeing 777-236, G-YMMM, on 17 January 2008 at 1243 hrs

Initial Report Update 23 January 2008


Since the issue of the Air Accidents Investigation Branch (AAIB) 1st Preliminary Report on Friday 18 January 2008 at 1700 hrs, work has continued on all fronts to identify why neither engine responded to throttle lever inputs during the final approach. The 150 tonne aircraft was moved from the threshold of Runway 27L to an airport apron on Sunday evening, allowing the airport to return to normal operations.

The AAIB, sensitive to the needs of the industry including Boeing, Rolls Royce, British Airways and other Boeing 777 operators and crews, is issuing this update to provide such further factual information as is now available.

As previously reported, whilst the aircraft was stabilised on an ILS approach with the autopilot engaged, the autothrust system commanded an increase in thrust from both engines. The engines both initially responded but after about 3 seconds the thrust of the right engine reduced. Some eight seconds later the thrust reduced on the left engine to a similar level. The engines did not shut down and both engines continued to produce thrust at an engine speed above flight idle, but less than the commanded thrust.

Recorded data indicates that an adequate fuel quantity was on board the aircraft and that the autothrottle and engine control commands were performing as expected prior to, and after, the reduction in thrust.

All possible scenarios that could explain the thrust reduction and continued lack of response of the engines to throttle lever inputs are being examined, in close cooperation with Boeing, Rolls Royce and British Airways. This work includes a detailed analysis and examination of the complete fuel flow path from the aircraft tanks to the engine fuel nozzles.

Further factual information will be released as and when available.



また、BBC UK 版にも記事が出されていましたので、参考までに以下に引用します。

BBC NEWS | England | London | 'Engines running' in crash plane
'Engines running' in crash plane
Plane on Heathrow runwayBoth engines of the British Airways jet that crash-landed at Heathrow Airport were still running when it came down, investigators have said.

But the engines did not respond sufficiently to a thrust request as it came into land, the Air Accident Investigation Branch (AAIB) said.

The AAIB said it was now focusing on the Boeing 777's fuel supply system.

US investigators have noted six previous engine failures in the same type of aircraft, it also emerged.

All 136 passengers and 16 crew on the flight from Beijing survived the crash-landing on 17 January.

The AAIB's investigation update comes as the US National Transportation Safety Board's website listed the previous engine failures.

The most recent was in September 2006, when a Malaysia Airlines' Boeing 777's right engine shut down near Brisbane, Australia.

A UK aviation industry source told the Press Association seven engine failures was "not a large figure" given the aircraft's long flight history.

About 1,000 Boeing 777 jetplanes have been sold since the model's first commercial flight in 1995.

In its update, the AAIB said the Boeing's twin Rolls-Royce engines initially responded to the request for thrust, but after three seconds the thrust of the right engine reduced and after eight seconds there was a thrust reduction in the left one.

Recorded data shows the aircraft had enough fuel and its automatic throttle and engine control systems had worked as expected, the AAIB said.

The AAIB said it was now carrying out a "detailed analysis and examination of the complete fuel flow path from the aircraft tanks to the engine fuel nozzles".

Last Updated: Thursday, 24 January 2008, 16:08 GMT

Comment ( 6 ) | Trackback ( 0 )
« BA038/17JAN P...燃料のおはなし »
 
コメント
 
 
 
情報公開 (speedbird)
2008-01-26 20:11:26
今晩はPAX様。
>丑三つ時
私は毎夜"晩酌時"であります(核爆)
BA機、最後までエンジンは動いていたんですね。となるとなぜオートスロットルの指示に従わなかったかということになります。FADECはEECっていうやつでコマンドを受け取って指示を出してるようですが、これ2チャンネルが同時に作動して何かおかしなことになったらすぐにバックアップをとるようになっているようですね(三菱のMH2000のエンジンですが)。
世の中、何が起こるかわからない、原因が分かったら、「何でそんな理由で・・・」ってことも。
気長に事故調査報告を待ちましょう。
>たとえ些細なことであっても確認できた情報を迅速に公表する姿勢
いや~、この姿勢ですよね。これ。どうも世の中、なんかあったら物事を隠す方に動いているように(特に政治の世界)思えてならないんですが。
さてさて、ぶろ愚の準備を・・・(核爆)

 
 
 
想定外 (PAX)
2008-01-27 18:16:33
「speedbird」さん、こんばんは。
コメントありがとうございました。

AAIBやNTSBなどは自分達が調べている事の重大さを正しく認識しているでしょうからね。当たり前のことなのすが、組織として実行しようとすると易しそうでもなかなか難しいことです。

最近は世の移り変わりが激しいので、流行(はやり)の言葉が忘れ去られるのも早いようですが、777 の FLT Crew にしてみたら、ETOPS 180, 204 を取得するまでのエンジンが二つとも同時にアウトになるなんて、正に「想定外」でしょうから。
 
 
 
EEC (Aibusマニア)
2008-02-03 23:02:09
今晩は、PAXさま
BA038便で検索していたら、PAXさんの興味深い書き物に遭遇し、過去の2005年まで、いろいろと読まさせて頂きました。私の知らないことばかり大変勉強になります。最近のハイテクEngineはいろいろなSensor類、またはFMSからのシグナルでControlされている訳ですが
EEC内のChannel A/Bの切り替えが今回スムーズに行われたのかどうかがひっかかります。今回RR社のEngineが当該B777に装着されEPR ThrustでのControlだったようですがN1 Modeに強制的に切り替える機会はなかったのでしょうか?もしくはThrustを失ったEngineに見切りをつけてEngine Master SwitchをOFFにしてまたONにし、EEC Resetをかけてみるのも策としてはあったように思います(飛ばない人からの意見)。
 
 
 
Re: EEC (PAX)
2008-02-07 01:48:51
「Aibusマニア」さん、こんばんは。はじめまして。
コメントありがとうございました。
Aibusマニアさんは業界のご専門の方ですか?エンジンまわりにお詳しいようで、ここは一つご意見番としてよろしくお願いいたします。

小生も飛べない(as PAXでは飛びますが)部類ですが、飛んでる方の状況を察するに、今回の事例においては、EEC Reset 操作は無理だったように思います。FL3X0 で巡航中の出来事だったなら、滑空中に種々のトライアルが可能だったかもしれませんが、Final の 600 ft AGL では機体の姿勢を制御し、空港敷地内にまでもっていくことが精一杯でしょう。仮に、Extra Crew の Cruise F/O がアシストしてエンジン推力が吹き上がったとしても、高度は 200 ft AGL 前後だったでしょうし、回復したのが片側だけだったりしたら、いくら TAC が補正してくれたとしても、高度を勘案するに Missed Approach は無理でしょうし、Bank が大きくなり接地が余計に難しくなったかもしれません。
非常にひねくれた(且つ不謹慎な)見方をすれば、両エンジンが同時にアウトになってくれたために、推力アンバランスが生じず、姿勢制御に専念できたとも言えましょう。

ところで Trent も EPR control なのですか、初めて知りました。PW も EPR 固執です。そのため、PW エンジンの 777 では左右エンジンのN1に僅かな回転差が生じ、エンジンからうなり音が聞こえることがあります。GE は N1 制御なので左右の N1 に差が無く、PW に比べると実に静かで快適です。
PW でうなりを軽減するには、一晩かけて Engine Run Up すれば少々マシになるそうですが、この燃料費高騰の折、100万円近くの燃料代をそのためだけに使うのは割りにあわないのでしょう。
# 釈迦に説法でしたでしょうか...失礼いたしました。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 
 
EPR vs N1 (Airbusマニア)
2008-02-11 23:11:00
PAX様

名前間違えてしまいました、Airbusマニアに訂正させていただきます。

私の知っているPW4056、RRはPrimaryのThrust SettingにIEPR(Integrated EPR)もしくはEPRを使用しています。GEはCF6-50EからGE90までN1を使用しています。双方良い点、悪い点がありますがPW4090がうなり音がする話はそれだったんですね。RRも少しうなり音するかもしれません。

ところで、G-YMMMのAPUのDoorが空いていたのお気付気になりましたか?AutoStart?もしくはCrewがAPUをFinal Approachで始動したのでしょうか?
もしAutoStartならEngineのApproach中に2つのAC BusがFailした可能性も考えられますか?

私のMACのKeyboardにハ二ィーレモンが、Keyboard交換が必要のようです。悲しい限りです。
 
 
 
結果、APUがAutoStartした? (PAX)
2008-02-13 07:48:08
「Airbusマニア」さん、こんにちは。
コメントをありがとうございました。

流石、AAIBの方ではないかと思ってしまうくらい観察力が鋭いですね。
ご指摘いただき、当該機の写真を眺めたところ、確かにRudder後ろを良く見るとAPU Air Inlet doorが開いていますね。
BAWのAOM(LHRでのAirport OPZを含む)を知らぬのでなんとも言えませんが、一般的には、APUをstartさせるのは着陸後、Spot-Inまでの間に行い、Approach途中で始動させることは無いと思われます。また、Both Engine Outで、CrewがとっさにStartさせたとも考えにくいです。
異常が発生するまでは、エンジンが回って上空にあった訳ですから、APUの動作モードとしてはattended modeである筈です。Airbusマニアさんが書かれているように、
> 2つのAC BusがFailした可能性
があるとすると、777では、APUはIn-Flight Auto Startします(APU selector SWのポジションに関係なく)。
ですから、2つ両方のAC Transfer BusがPower lossした結果として、APUがAuto Startし、APU Air Inlet doorが開いたことはあり得ますね。

AAIBが調査し報告してくれるまでは何とも言えませんが、
> APUのDoorが空いていた
ということは、
> 2つのAC BusがFailし
> AutoStart
とのシナリオは考えられ得ることだと思います。

P.S.
Keyboard交換、心中お察しいたします。
 
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