徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

TAC

 相変わらず度を越さぬギリギリのラインで利用者の不安を煽る記事を書く技術は衰えていないようです。

まっ、言論の自由ですから、報道なさるのは自由であります。が、当該記事を読んだ一般の方が、必要以上に不安感が増長されないことを願っております。

本投稿も「同じ穴の狢」かもしれませんが.....。

IFSD: In Flight Shut-Down (エンジンの空中停止)は稀ではありますが、エンジンが機械である以上は起こりえます。

それは JAL に限らず、Boeing 777 に限りません。

事実、海外の事例になりますが、昨年11月には、スウェーデンはストックホルムの Arlanda (ARN / ESSA) を離陸直後のマレーシア航空の Boeing 777-2H6ER (当該機が装備していたエンジンは Rolls-Royce 社製のトレント 892B-17 というエンジン、今回 IFSD した Pratt & Whitney 社の PW4000 シリーズとは異なります)が、離陸直後に金属片ばらまいて(多分、HPT: High Pressure Turbine が破断したのだと思う)一発停止。
離陸直後で燃料もたらふく積んだ状態というクリティカルな局面でだったにも関わらず、Fuel Dump して Arlanda にATBしています。

(そのときの写真を見たい方は こちら .... 自己責任で)

このように、IFSD そのものは“想定内”の事態ですし、乗員もそのような万一の事態が起こっても対応できるように厳しい訓練を嫌と言うほど積んでいることは言うまでもありません。
(訓練での一発停止は、今回よりももっとクリティカルな状況でのシナリオになっています)

今回は FL280 を巡航中、"OIL TEMP R" の EICAS Advisory Message が表示されたか、 Cockpit Crew が No.2 エンジンの EGT: Exhaust Gas Temperature 上昇に気付いての対処( No.2 Engine Shutdown )だと思われます(“オーバーヒート”だけでは解らんよ…)。
-------
【追記:2205Z 05APR2007】
 Boeing 777のFire Protection System 火災警報システムの一つとしてエンジン関連の警報があり、エンジンのオーバーヒートの注意喚起を促す
 「OVERHEAT ENG R」
という EICAS Caution Message ( Beeper も鳴る)があります。
それだったのかもしれません。
「灯台下暗し」でした(ガクッ)。
当該警報は、Engine Nacelle の Overheat が検出されたことを示しており、それに対応する処置としては;
 -Bleed Air Flow を止める( ENGINE BLEED SWITCH ... OFF )
 -Thrust Lever を手動操作できるように Auto Throttle を切る
 -Overheat しているエンジンの Thrust Lever をゆっくりと Retard し、Nacelle の温度低下を図る
といった手順をとります。
それでも、「 OVERHEAT ENG R 」の message が消えない場合 -今回はセンサ故障が原因だったので消えなかったのでしょう- には;
 -当該エンジンへの燃料供給を遮断
 -発電のためAPUをスタート
します。
引用記事にある“手動で右翼エンジンを停止した”は、この状態を指していたのだと思われます。
-------

Pratt & Whitney の PW4000 は、もう一昨年のことになりますが、かなり異常とも言える頻度で硫化腐食を原因とする HPT の破断が発生したこともあり、当該機の Crew の対応は適切であったと思います。

4発のジャンボ Boeing 747 でも、エアバス A340 でも、エンジンが一発 down すると、殆どの場合、巡航高度は下げます。

これは推力減少に伴って、巡航速度を下げねばならないことに関連します。

速度が低下するということは、翼に受ける風のスピードもダウンする訳で、翼が発生させていた揚力も減少してしまいます。

が、ちょいと下に降りれば、空気密度がいままで巡航していた高度のそれよりも上がりますので、その速度でも十分な揚力が得られるのであります。

FE: Flight Engineer 航空機関士が乗務している機種では、FE さんがパッパッパッと手際良く 1 Engine INOP の巡航高度と、スラスト設定 EPR or N1 を計算して、スラスラっとメモに書いて、スラストレバー前方にあるエンジン計器の横あたりにパッと貼ってくれるのですが、そのような機種も残り少なくなりましたねぇ。

Boeing 777 は、パイロット中央にある CDU: Control Display Unit にとあるページを表示させ、[ENG OUT] に対応するボタンをポンと押して FMS: Flight Management System に指示を出せば、FMC: Flight Management Computer がその時点の飛行状況(高度・風・外気温・機体重量など)を考慮して、一発での巡航高度を計算、 FMS とカップリングされている AUTO PILOT の VNAV: Vertical NAVigation が機をその高度まで降下させ、その後 VNAV Cruise を続けます。

もう一つ、引用記事でも述べられていますが、双発機で一発アウトになった場合、4発機や3発機に比べて顕著な推力アンバランスが生じます。

これは双発機である以上、仕方のないことです。

Boeing 777 には、本投稿のタイトルにした TAC: Thrust Asymmetry Compensation システムが装備されており、特別な理由がない限り、当該システムは“ AUTO ”で運用されています。

このシステム、エンジンの推力を監視しており、左右の推力差が 10% 以上になると、自動的に Yawing をコントロールし、推力のアンバランスを補います。

ただ、ここが Boeing の Fly By Wire の設計思想なのかも知れませんが、パイロットが気付かぬほど、スパッとコントロールするのではなく、機体の Roll および Yaw はパイロットに推力変化を察知させるようなレベルの補正に止めてあります。

勿論、あれだけの大推力エンジンですから、TAC が動作していなければ、もっと急激な Roll / Yaw の変化が現れることになります。が、TAC のおかげで、それが僅かな、でもパイロットが察知するには十分な変化に抑えられているのです。

パイロットが気が付いたであろう数秒後には、TAC は補正量を増加させ、パイロットは Rudder や Aileron の操作に、一発アウトの補正を殆ど考えなくとも良い位にまで Trim をとってくれる優れものなのです。

(これも Boeing の設計思想でしょうが、パイロットによる Rudder ペダル操作によって、TAC による補正はオーバーライドされます。あくまでも、パイロットの操作(常識範囲内での操作)が優先されます)

が、ちょっと気になったのは、調査の結果、センサ不具合で誤った EICAS Message なり計器表示による IFSD であったということです。

高度に自動化されたシステムにおいては、センサからの入力値は極めて重要な意味を持ちます。

極論してしまうと、“センサ”からの入力値を信じてシステムは作動しているとも言えます。

無論、“センサ”が故障したとき(=通常はセンサからの入力信号はあり得ない値をとる)には、どのようなロジックでシステムが作動するかは考えに考えた上でシステムが設計されています。

“センサ”の故障、実際にエンジン温度の上昇は無かった、と言うと「なぁ~んだ」で済ませてしまいがちですが、逆説的な見方をすれば、センサは正常で本当にエンジンには温度上昇の痕跡があった方が、システム設計屋さんは安心できたのかもしれません。

例えば、件の TAC: Thrust Asymmetry Compensation 、推力データが得られなくなると、いくらスイッチを“ AUTO ”にしていても TAC は作動しません。自動的に disengage されます。

〔蛇足〕

双発機で一発アウトで降りるのですから、管制上の優先権を得るのは至極当たり前のこと。

消防を要請したのは、一発アウトですから、Thrust Reverser は使わず、Auto Brake のみでの停止を行うと決めた筈です。Auto Brake のみで安全な減速が出来るのですが、例えば、接地点がやや伸びて、着陸滑走路長が減少したような場合、最大油圧でブレーキングすることになるので、タイヤ -殊に主脚- の温度はかなり上昇する可能性もゼロではありません。
万一、IFSD させた No.2 Engine から Oil Leak があった場合、漏れたオイルがその加熱した主脚タイヤやそのディスク部分にかかったら…。
あるいは、加熱自体でタイヤがパンク、出火したら…。
といった、万全の備えをしたのだと思われます。


JAL機、エンジントラブルで福岡空港に緊急着陸(朝日新聞) - goo ニュース
3日午後4時10分ごろ、羽田から福岡へ向かっていた日本航空329便ボーイング777型機から「エンジントラブルで緊急着陸したい」と国土交通省東京航空交通管制部に連絡が入った。両翼にあるエンジンのうち、オーバーヒートを知らせる警告表示が点灯した右翼側を停止して飛行を続け、午後5時9分、福岡空港へ無事に着陸した。乗員乗客259人にけがはなかった。

 同機は午後3時26分に羽田を離陸。午後4時7分、兵庫県付近の上空約8500メートルで警告表示が点灯した。緊急着陸の連絡を受けた福岡空港は消防車両を滑走路に待機させ、同機を優先的に着陸させる態勢を取った。着陸後、滑走路の安全確認のため空港は4分間閉鎖された。

 日航によると、すべての操縦士は片側エンジンだけで飛行する訓練を積んでいるという。国交省は、今回のトラブルは航空法上の事故にはあたらず、イレギュラー運航の範囲内とみている。

2007年4月3日(火)22:32
日航機 エンジントラブルで福岡空港に緊急着陸(毎日新聞) - Yahoo! ニュース
3日午後4時7分ごろ、羽田発福岡行き日本航空329便ボーイング777-200型旅客機の計器が右翼エンジンの異常発生を示した。同機は左翼エンジンだけの飛行に切り替え同5時10分すぎ、福岡空港に緊急着陸した。幼児4人を含む乗客249人と乗員10人が乗っていたが、けが人はなかった。
 日航によると、兵庫県姫路市付近の上空高度8500メートルを飛行中に突然、右翼エンジンのオーバーヒートを知らせる計器ランプが点灯、機長が手動で右翼エンジンを停止した。同機は左右の主翼に一つずつエンジンを設置した双発タイプ。航空機は通常、片方のエンジンが停止した状態でも飛行は可能で、同機は高度をやや下げて引き続き飛行し、定刻より27分遅れで無事着陸した。
 日航は、福岡空港で機体の点検を行ったが、目視ではエンジンに出火などの形跡は見られなかったという。【井上俊樹】
 ◇半年間で7件報告
 国土交通省が定める航空機の安全基準は、一つのエンジンが止まっても他のエンジンによって安全に飛行できるよう求めている。
 同省によると、飛行中に一部のエンジンが停止したトラブル(イレギュラー運航)は、今年2月までの半年間で、国内外の航空会社から少なくとも7件が報告されている。
 日航では昨年1月、那覇発羽田行き日航1922便(ボーイング777)が離陸直後に右エンジンのオイルがなくなったことを知らせるアラームが鳴動したため、右エンジンを停止して引き返し、緊急着陸した。
 今回と同型機は、エンジンが左右二つしかないため、片側が止まった場合は機体バランスを保つ「非対称推力自動調整装置」が作動し、方向舵(だ)などを調整する仕組みになっている。【長谷川豊】

4月4日10時26分配信 毎日新聞

エンジンのセンサー故障し警告誤表示 日航機の福岡緊急着陸(共同通信) - goo ニュース
飛行中の日航機が、右エンジンの高温異常を示す警告が点灯したため、福岡空港に片側エンジンで緊急着陸したトラブルは、センサーの故障による警告の誤表示だったことが4日、分かった。エンジンには全く異常はなかった。日航によると、エンジンの温度センサーの電線に雨水のしずくが付着し、接続不良を起こしていた。エンジンそのものに熱による損傷はなく、実際に温度も上昇していなかったとみられる。

2007年4月4日(水)13:41
Comment ( 11 ) | Trackback ( 0 )