〈死刑存置は圧倒的多数意見ではない〉
先日、「死刑存置は本当に多数意見か」という記事を書いた。これはその、いわば補足である。
一般によく「死刑については存続を望む声が圧倒的に多い」と言われるが、記事の中で私は2004年に内閣府がおこなった世論調査に触れ、「必ずしもそうは言えないのでは」と疑問を呈した。詳しいことは前記のエントリを見ていただけばよいが――
「存続か廃止か」という二者択一の質問に対する答えだけ見れば、廃止は6.0%、存置は81.4%(残りは「わからない」または「一概に言えない」)。つまり圧倒的多数なのだが、私が注目したのは二者択一の後の、「将来的には死刑を廃止しても良いか」という質問に対する回答である。「将来も廃止しない」つまり「絶対に死刑は存続させるべき」という人は50.2%だった。そして、「すぐさま廃止」「将来的には廃止」の人は合計5.6%。「将来的に廃止してもよい」という人は25.9%(残りの18.3%は「わからない」「一概に言えない」)。
何らの先入観も偏見も疑いも持たずに数字だけ見れば、誰でもこういうふうに読み取れるだろう。
○「死刑は絶対に無くしちゃダメ」という人は2人に1人。
○「将来的には廃止してもいいな」と思っている人は4人に1人。
○積極的な廃止論の人と消極的な廃止論の人を合わせると、「廃止の方向で考えている人」は3人に1人ということになる。
同じことを繰り返すのは気が引けるが、「絶対存置が圧倒的多数意見」というのは明らかに間違いだし、廃止論が特異な意見でもないことがわかるだろう。残りの人は判断を保留しているわけだが、「まだ意見が固まっていない」人は、それぞれの意見をよく聞いてじっくり考えようという場合が多い(むろん中には、さまざまな事情や思想信条上の理由から、今この問題は論じたくないという人もいる)。死刑廃止は一部の人間のヘンな意見でも何でもなく、充分に話し合い考えていくことのできる課題なのである。
〈誘導的な質問というもの〉
前出の記事の中で、私は「世論調査には質問自体に誘導性がある」という辻本衣佐氏の指摘を紹介した。その部分をもう1度掲載しておこう。
質問4.借金の返済についてどう思いますか
A.どんな場合であっても、借りた金は必ず返すべきである B.事情や状況によって、返せなくてもやむを得ない
いかがですか。私はすべて「B」です。たとえば質問1.私は病気に関してすべて本人に知らせるのが当然だと思うが、それは言ってみれば「原則」。本人が認知症の場合はどうするんだとか、5歳の子供だったらとか考えると「必ず、すべて……」とは言えないよなあと思ってしまう。それに、世の中には「(自分の病気を)知らされない権利」を主張する人もいるのだ。
質問2。嘘をつくのは悪いに決まっている。しかし、人に心配させないために嘘をつくっていうこともあるし、商店の人がお客に嘘に近いお世辞も言うなんてことはよくあるだろうし……なあ。ヤクザの兄ちゃんに「てめえ、オレのことを笑っただろう」とスゴまれた時、正直に「はい、笑いました」と言うのは怖いしなあ。
質問3。私はむろん、人に暴力をふるうのはよくないことだと思ってる。しかし夜道でひったくりに遭ったら、殴り倒して奪い返すかも知れない。
質問4。念のため言って置くが、私は借金を踏み倒したことはない(大金を貸してくれる人間はいないので、せいぜい財布落としたから1000円貸してくれ~という程度だが……)。でも、返そうと思って必死になっても、どうしても返せないこともあるだろうな、というぐらいはわかる。
何だか妙な話になったが、言いたいのは人間にとって「どんな場合でも、必ず」と確信を持って言い切れる問題は少ない、ということである。特に普段あまり深く考えていない問題や、あまり身近でない問題の場合は、責任を持って「どんな場合でも必ず」と断言するのに躊躇する(もちろん、身近な問題として深く考えているがゆえに、言い切れないというものもあるが)。
死刑についてであれば、私は「どんな場合でも廃止すべきである」と答える。しかし、そこまで強い言い方をされると迷ってしまう人が多いと思う。「死刑は廃止したほうがいい」と思っている人でも、「……やはり……例外もあるかも……」と、つい考えてしまうのではあるまいか。だから「場合によってはやむを得ない」になるのだ。その人達が81.4%。「死刑存置」は積極的な存置論者以外に、多くの「場合によってはやむを得ないかも派」を含んでいるのだ。
以前、何度か「世論調査(の危険性)」について書いた覚えがある。調査というものは、常に答えを一定方向に誘導することが可能である。もっとも、私は「だから信用できない」と決めつけはしない。「結果」の読み方、数字に表れている以外のものの読み取り方で、私達は多くの情報を得ることも出来るのだから。
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