華氏451度

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44万人の署名に厚労省答えず

2006-09-02 20:39:43 | 格差社会/分断・対立の連鎖

 リハビリテーション医療の打ち切り制度撤廃運動については、皆さんもよく御存知であろう。今年4月の診療報酬改定で、リハビリテーション医療が「原則として発症から最大180日で打ち切り」と決まったことに対し、「リハビリテーション診療報酬改定を考える会」が反対運動を起こした。同会の代表は免疫学者の多田富雄氏。多田氏は4年前に脳梗塞で倒れ、重度の右半身マヒや言語障害などで現在もリハビリテーションを受けている。リハビリを受けても急性期のように目立った回復は望めないが、止めれば機能低下して瞬く間に寝たきりになる。「今回の改定は、『障害が180日で回復しなかったら死ね』というのも同じことである」と、呼びかけの言葉の中で書いている。なお、Under the Sun でも会の署名活動の紹介がおこなわれた。

 私も自分が署名すると同時に周囲に呼びかけたが、憲法や教育基本法の問題よりはるかに反応?がよかった。誰でも1人や2人は、脳卒中や交通事故などでリハビリが必要になった人を身近に知っているだろう。ヒトゴトではないと思えるはずで、当たり前と言えば当たり前だ(本当は憲法や教育基本法も重大な問題なのだが、日々の暮らしの中で具体的に何かが見えなければつい鈍感になってしまうのはよくわかる)。職場などで積極的に署名を集めた知人も少なくない。

 そして――約44万人の署名が集まったが、署名提出後64日を経た9月2日現在、まだ厚生労働省の反応はない。つまり無視されっぱなしというわけである。会ではリハビリ打ち切り被害実例の登録を開始して、患者本人や医療者らによる被害の実態報告を集め始めた(会のサイトで閲覧できる)。リハビリ科自体がなくなったという報告もあり、被害はこれから加速度的に拡大していくはずだ。

 人間は哀しいことに、どんな悲惨な状況にでもある程度「慣れ」てしまう。だから「リハビリ医療は最大180日で打ち切り」という事態も、このまま5年、10年続けば「そんなものだ。仕方ない」と受け入れてしまうかも知れない。だから、そうなる前に――私達はもっと声を上げなければいけないだろう。 

 リハビリ医療の日数制限は、今の日本の政治の「内心」をはっきりとわからせてくれる。高齢者や病人・障害者などの存在はうっとうしいだけ。大きな声では言わないけれども「金食い虫」「お荷物」と思っているのだ。「国を守る」ために使う金はあっても、「国民すべてを守る」ために使う金は惜しい。国のために有用であってこその国民、なのだ。

 再チャレンジなどという浮ついた言葉が踊っているが、(前にも書いたような気がするが)あれは「何度でも競争しろ」ということ。何度も競争させられ、そのたびに負けて傷が深くなっていく人間が多いことなど考えてもいない(あるいは考えていないふりをしている)。要するに競争している(させられている)間は自分が負け組であると認識しにくい、その錯覚を狙っている面もあるだろう。

「あすなろ あすなろ あすはなろう」という歌があった(むかし学校で歌われた文部省唱歌、というやつだろうか)。頑張って明日はヒノキになろうという歌詞だったと記憶しているが、この歌を知ったとき、どうしてわざわざヒノキにならねばならないのかと首をひねったのを覚えている。そんなのアスナロが可哀想じゃん、と。アスナロはアスナロ、カメはカメ、スズメはスズメで結構ではないか。ヒノキになる競争をしましょうと言われた時、「やーだよ」と舌を出す。それも抵抗のひとつの形だと私は思う。

 

コメント (11)
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