バネの風

千葉県野田市の「学習教室BANETバネ」の授業内容や、川上犬、ギャラリー輝の事、おもしろい日常を綴ります。

ギャラリー輝 春の展示替え

2022-03-28 15:23:31 | ギャラリー輝
 昨秋リニューアルオープンしたギャラリー輝、4月に展示替えします。
 大作8点、小品30点展示予定です。



 最期の作品となった「座す女」(未完) S80 2005年 73歳

 この作品は父が至極元気でスケッチ旅行だ絵画教室だのと走り回っていた時に描き始めたように記憶しています。
 久しぶりに帰省した際、「おい、写真撮るからそこに座ってくりや」
と言われ、アトリエのキャンバスの前に用意された椅子に座ると、手はこうやって膝の上に乗せろ、足は斜めに流せだのとポーズを指定され、あげくにファインダーを覗きながら。
「おいも老けたな」
と言ったのです。
だからこの作品、モデルは私です。

それから数年後。
父は脳梗塞で倒れ、おまけに癌を患い、闘病生活が始まりました。
体に麻痺が残りながらも制作を続けたものの、「絵を描くと頭がキーンと痛くなる」のでした。一番酷使してきた造形を司る脳がやられたようでした。
画家はのんびり生きているから長生きするものだと思っていました。恐らく99歳まではいけると。
父亡き後作品や資料を整理し、いかに制作と格闘してきた人生だったのかを知りました。万年受験生として、自分との戦いを続けていたのでした。
ギャラリー輝リニューアルオープンするにあたり、父の生き様を調べれば調べるほど、知らなかったもう一つの父の側面を知るようになりました。
それは教師としての父の姿です。
それはまた次の機会にまとめます。

そうして体に麻痺が残りながら、入退院を繰り返しながら画業に専念する信州の洋画家池田輝の生き様を、地元ケーブルテレビがドキュメンタリー番組にして収めることになりました。
作品を完成させるまでの道のりを追う形で。
その作品が「座す女」です。

一筆一筆じっくり考えながら色を置く姿。
筆を持ちながら画業について語る姿。
そして制作半ばで筆を置く姿。
それらがつぶさにドキュメンタリーに残され、だからこそこの作品はいつまでも記憶が薄れず、美化もされず、目の前に残り続けます。
そんな重たいものを一杯背負っているので、ギャラリー輝リニューアルオープンには展示しませんでした。

父が精魂込めた作品は倉庫に多数眠っています。
それを一つ一つ順番に外に出していくのが私の使命と思っています。
あえて最初の展示から外した最期の作品を、思うことあって2022年春は展示することにしました。

「座す女」は未完の作です。
ある夜父は電話してきました。
もうこれ以上描くことができないから、撮影を終わりにしたいと宣言するのだと。

父はそれから程なくして亡くなりました。

母が最期の一筆を目撃していました。
アトリエで絵の前に立ち、親指に赤い絵の具をべったり付けると、「これでおしまい」と言って絵の具を女の鼻にギュッと押しつけたそうです。
最期の一筆が鼻の赤です。

「逃げるな。しっかり見定めよ」と言ってる父の声が聞こえてきます。

2022年4月16日
ギャラリー輝、展示替えにて。
是非ご覧いただき、赤い絵の具の気を一緒に受け止めて下さい。




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