バネの風

千葉県野田市の「学習教室BANETバネ」の授業内容や、川上犬、ギャラリー輝の事、おもしろい日常を綴ります。

共感しユトリストとなれ

2023-08-16 18:46:58 | 感動
鳥取に住む娘夫婦がその娘を伴って野田に里帰りし、その翌日は長野の私の実家に行った。
遠路はるばる赤ちゃん連れで移動するその第一目的は、ひいばあちゃんに会うため。
コロナで会えないを体験した我々は、「今できることを今やろう」と思うし、ゆとり世代と言われる娘の世代は、より人のつながりを大切にする感がある。
そんなわけで今年のお盆は家族、親族が集い日本の正しい「お盆」を過ごし、さておいとまする時間となった。

折しも近畿地方に台風7号が上陸しコースが逸れて山陰に向かっているが、東京方面までは台風の影響なく戻ることができそうなので、予定を変更せず帰路、まず上田駅を目指す。

玄関先まで母が見送りに出る。「またね」と皆で手を振り合う我々一行を、道ゆく主婦が微笑ましそうに見ていた。
こういうシーンはお盆の風物詩で夕方のニュースで出会いや別れのシーンが映し出されるが、その当事者になった。

別所温泉駅には上田行きの電車が既に停車していた。先に乗車していた親子連れを見送るおじいさんがホームに立っていた。母、娘、そして孫。それを真似するかのように我々を見送ろうとおじいさんの隣に立つ兄。
おじいさんは満面の笑みで、美しい均等の笑顔で臆することなく電車の戸口でずっと手を振る。それにつられたように兄も真横で手を振る。そして車内の我々二組が姿が見えなくなるまで手を振り返す。あー、こういうシーンってこれまであっただろうか。ここまで純粋に手を振り合うって周りの目や、あまりにもスタンダードな振る舞いに照れてこれまでやってこなかった。私の父に言わせると芸術家は子煩悩ではいけないそうで、またそう思われたくないらしく、人前でこんな風に別れを惜しむことはしていないと思う。30年前に娘を連れて帰省した時、父とこんな風に手を振り合っていない気がする。

電車はガタンゴトンと坂を下り田園風景を走る。別所温泉駅から上田まで車で行けば20分とかからないが、実家の車にはチャイルドシートがないので電車で帰ることにした。電車は車道とは違い中塩田から東塩田地区を迂回するから時間がかかる。下之郷駅から大学前駅にに向かう時電車は、田んぼの中を大きくカーブする。車窓には山々と田園のパノラマが繰り広げられる。進行方向に背を向けて景色を眺める。別所温泉の象徴岳の山を起点に田園を貼り付けた山並みがグルリと回る。もし私が車掌なら、もし私にマイクを渡してくれたなら、このパノラマを紹介するのにといつも残念に思う。スマホを見るのを少しやめて顔上げて見て! とこの景色を教えたい。しかし皆が同様にふるさとへの郷愁を共有するわけではないと思い直し、ギリギリ余計なお世話をしないで済んでいる。今のところ。
岳の山に別れを告げ電車が街に近づく頃、郷愁は霧散ししばらく留守にしている自宅が気になるのが常であるから。
それからしばらくすると少しずつ上田の街が近づき、終点上田駅まであと2駅というところ三好町駅で向かいの親子が声を上げた。

「えー、うっそー」
それは三好町駅から見下ろす脇道に先ほどのおじいさんが立ち、電車に向かって手を振っていた。あの満面の笑みで。
その姿に思わず我々一行も加わり皆で手を振り返した。車窓からはおじいさんの姿が小さくなっていった。
もしかしたらあのおじいさんは途中の神畑駅あたりでも先回りして同様に電車に向かって手を振り続けていたかも知れない。そこならホーム近くまで来られる絶好の手振りポイントだ。おしゃべりしていた娘さん達はおじいさんに気づかず、それで4駅先の三好町駅、次の手振りポイントを目指したのだ!と読んだ。このシーンは人目をはばからず笑っていい。事情を知る我々も一緒に大笑いした。
娘さんが「上田駅にもいたりして」と言っていたが、次は上田駅というとところで千曲川を渡る。その先に上田橋が見える。
橋で信号待ちしているおじいさんの車があったらしい。

三人連れは我々より1本先の新幹線だった。
上田駅改札でおじいさんが手を振っていた。
待合室のポスターのすき間からさっきと同じ満面の笑みが見えた。見送った後のおじいさんの顔を確認することができなかったが。

お盆の帰省列車に乗ったのはこれが人生初だったと思う。いつもはタイミングずらすか車だった。こうしてTHE OBONの帰省列車をスタンダードに体験した。
上田駅では長野駅からの混み具合をアナウンスしていた。自由席前寄り1.2号車が比較的空いていると長野駅からの情報だと伝えていた。こういうアナウンスは人の情にタッチしていいね。「見送りの方はドアの外側でお待ちください!」って。そうか、入場券買ってギリギリまで見送るおじいさん、おばあさんっていう景色もあったんだ。そうか!!さっきのおじいさん、改札駅で手を振っていた後姿見えなかったから結局ホームまで行ったのかな?
「鳥取空港でもこうやってギリギリ見えるところに移動して手を振る人がいるよ」って娘が言う。

うーん、共感オンパレード。

大宮で娘一家と別れ一人降り、正確にはケージに入れた犬と降り、ずっしり重いケージを転がして帰路につく。最寄り駅からタクシーに乗っても良かったが、調度バスが来たから乗り込んだ。
バスのタラップが思いのほか高く、犬ケージをやっと持ち上げて乗った。前方の席は埋まっていて、後方席は更にもう一段上がらないといけないし、すぐ降りるから前方に立つことにした。「おつかまりください。出発します」って、立っているの私だけだから私に言ったのでしょう。オレンジの太いバーに捕まると、脇のおじさんが席を譲ろうとしてくれた。さっきの犬ケージ持ち上げで苦戦したからか、なんだか皆私に気をつかっている感じがする。
席を立ちかけたおじさんに「大丈夫です」というと、斜め後ろの青年が後方の席に移った。犬ケージをズリズリ引きずってその開けてもらった席に着くと「ありがとうございます」と運転手さんがマイクを通して言った。
やはりそのバスでは最初に降りる客となり、大きなケージは出口を通らず乗り口を開けてもらいヨタヨタして降りた。「大丈夫かな、あの人」という、車内灯が目立ち始める薄暗くなった車道に降り立つ私に、車内の視線が寄せられている感じがした。

バス停から自宅までゴロゴロ犬ケージを引きずりようやく家の前につくと、時間指定したいつもの宅急便のお兄さんが荷物持って待ったいた。