寄贈プロジェクトの一環として、伊庭靖子さんによるトークを行いました。
作品の制作経緯や、これまでの活動についてお話いただきました。
開催日:2010年5月1日(土)
講演:伊庭靖子さん
聞き手:山本淳夫さん(滋賀県立近代美術館 学芸員)
トークの前に、学芸員の山本さんにご案内頂き、常設展示室へ。
当会の寄贈予定作品である、絵画作品『untitled』三点を鑑賞しました。
※滋賀県立近代美術館のコレクション展「レスポンス―対話と応答」は、6/27(日)までです!
今回参加できなかった方は、是非足をお運びください。
その後、展示室を移動し、『untitled』のモチーフとなった清水卯一さんの陶芸作品を鑑賞。
伊庭さんと清水さんの作品を並べて展示していないのは、伊庭さん本人のご意向です。作品同士を直接見比べて、類似や差異を確認するのではなく、記憶を介在させることが大切だといいます。同じ作品をみていても、鑑賞者それぞれで記憶の中で持っている印象が違うということが浮き彫りになるそうです。
『untitled』は、その精緻さや美しさのゆえに、一見すると、写真とほぼ見分けがつかない印象を受けます。しかし、じっくり見ると、写真を模写しているのではなく、伊庭さんが「描きたいこと」を選びとり制作されているのがわかります。伊庭さん自身、ご自分の作品を見られて「あ、やっぱり(オリジナルとは)違う」と思われるそうです。作家自身が持つ印象や抽出したいことをもって、作家の手によって「描く」ということの奥深さに、改めて気づかされる作品です。
展示期間中、当会についてのパネル展示/チラシブースを設置しています!活動趣旨や過去のプロジェクトを紹介しています。
観賞後、場所を移動し、伊庭さんにお話を伺いました。年代順に、初期のオブジェ作品(!)から現在に至るまでの作品を見せていただきながらのトークとなりました。以下に一部ご紹介します。
●制作の手法について
伊庭さんは、写真では表せない、ものの「質」を表現するために油絵という手法を選んでいます。また、モチーフを写真に撮りそれをもとに制作することで、単なる主観から一旦離れ、客観的に捉えることができ、表現したい質に近づきます。この手法は、色々探ってはみたがずっと変わらずにいます。
●制作における試行錯誤の過程について
モチーフを描くことそのものではなく、描くことで出てくる質を獲得しようとしているのですが、具体的なモチーフは印象に強く残るので、対象そのものばかり注目されてしまうことが悩みでした。「○○を描いている作家」という固定的なイメージを抱かれない為に、ランダムに様々なものを描いた時期もありました。1999年ころから、つやっぽさ/光り方に映像らしい透明感があるのではないかと思い、それをテーマに制作したところ、「きれいだ」とほめられました。美しいという印象だけを持たれてしまうことに対し、違和感を覚えました。
一旦制作のスタイルを考え直す為に、2001年にNYへ。表現方法を模索しましたが、写真を撮って描く等のスタイルは変わりませんでした。帰国後は雪景色、枕など、白いモチーフを描くからこその、光の表現を追求しました。プリンなど、ものの表面に反射するより強い光を描き分ける試みもしました。
現在は、画面の表面に張り付く模様と、モチーフとの関係に興味をもっています。陶器の下層部分/釉薬、あるいはクッションの布の表面/浮き上がった模様、といった関係です。理想的なモチーフを得るため、自分でクッションを制作することもあります。表面/表面に張り付く模様の二層構造や、質感の違いに注目し、ものの質はどこから出てきているのかという問いに対して制作をつづけています。
山本さんは作品と伊庭さんについて「描写しているというより、『視ている』という感覚に近い」「歴史や美術史の流れではなく、造形そのものに向き合っているところは、ある意味モダニスト。するどい勘で制作を進めておられる」とコメントされていました。初期作品から様々な試行錯誤を重ねながらも、非常に繊細かつ、精緻な目でものを見つめ、ご自分の表現の質をまっすぐ追い求められる姿勢は、一本筋が通っておられると感じました。
今後取り組んでみたい作品もすでにあるとのこと。(詳細はご参加の方だけのひみつです!)
作品と、作家自身についてより深く知る機会となりました。
伊庭靖子さん、山本淳夫さん、ありがとうございました!(事務局 松本)
作品の制作経緯や、これまでの活動についてお話いただきました。
開催日:2010年5月1日(土)
講演:伊庭靖子さん
聞き手:山本淳夫さん(滋賀県立近代美術館 学芸員)
トークの前に、学芸員の山本さんにご案内頂き、常設展示室へ。
当会の寄贈予定作品である、絵画作品『untitled』三点を鑑賞しました。
※滋賀県立近代美術館のコレクション展「レスポンス―対話と応答」は、6/27(日)までです!
今回参加できなかった方は、是非足をお運びください。
その後、展示室を移動し、『untitled』のモチーフとなった清水卯一さんの陶芸作品を鑑賞。
伊庭さんと清水さんの作品を並べて展示していないのは、伊庭さん本人のご意向です。作品同士を直接見比べて、類似や差異を確認するのではなく、記憶を介在させることが大切だといいます。同じ作品をみていても、鑑賞者それぞれで記憶の中で持っている印象が違うということが浮き彫りになるそうです。
『untitled』は、その精緻さや美しさのゆえに、一見すると、写真とほぼ見分けがつかない印象を受けます。しかし、じっくり見ると、写真を模写しているのではなく、伊庭さんが「描きたいこと」を選びとり制作されているのがわかります。伊庭さん自身、ご自分の作品を見られて「あ、やっぱり(オリジナルとは)違う」と思われるそうです。作家自身が持つ印象や抽出したいことをもって、作家の手によって「描く」ということの奥深さに、改めて気づかされる作品です。
展示期間中、当会についてのパネル展示/チラシブースを設置しています!活動趣旨や過去のプロジェクトを紹介しています。
観賞後、場所を移動し、伊庭さんにお話を伺いました。年代順に、初期のオブジェ作品(!)から現在に至るまでの作品を見せていただきながらのトークとなりました。以下に一部ご紹介します。
●制作の手法について
伊庭さんは、写真では表せない、ものの「質」を表現するために油絵という手法を選んでいます。また、モチーフを写真に撮りそれをもとに制作することで、単なる主観から一旦離れ、客観的に捉えることができ、表現したい質に近づきます。この手法は、色々探ってはみたがずっと変わらずにいます。
●制作における試行錯誤の過程について
モチーフを描くことそのものではなく、描くことで出てくる質を獲得しようとしているのですが、具体的なモチーフは印象に強く残るので、対象そのものばかり注目されてしまうことが悩みでした。「○○を描いている作家」という固定的なイメージを抱かれない為に、ランダムに様々なものを描いた時期もありました。1999年ころから、つやっぽさ/光り方に映像らしい透明感があるのではないかと思い、それをテーマに制作したところ、「きれいだ」とほめられました。美しいという印象だけを持たれてしまうことに対し、違和感を覚えました。
一旦制作のスタイルを考え直す為に、2001年にNYへ。表現方法を模索しましたが、写真を撮って描く等のスタイルは変わりませんでした。帰国後は雪景色、枕など、白いモチーフを描くからこその、光の表現を追求しました。プリンなど、ものの表面に反射するより強い光を描き分ける試みもしました。
現在は、画面の表面に張り付く模様と、モチーフとの関係に興味をもっています。陶器の下層部分/釉薬、あるいはクッションの布の表面/浮き上がった模様、といった関係です。理想的なモチーフを得るため、自分でクッションを制作することもあります。表面/表面に張り付く模様の二層構造や、質感の違いに注目し、ものの質はどこから出てきているのかという問いに対して制作をつづけています。
山本さんは作品と伊庭さんについて「描写しているというより、『視ている』という感覚に近い」「歴史や美術史の流れではなく、造形そのものに向き合っているところは、ある意味モダニスト。するどい勘で制作を進めておられる」とコメントされていました。初期作品から様々な試行錯誤を重ねながらも、非常に繊細かつ、精緻な目でものを見つめ、ご自分の表現の質をまっすぐ追い求められる姿勢は、一本筋が通っておられると感じました。
今後取り組んでみたい作品もすでにあるとのこと。(詳細はご参加の方だけのひみつです!)
作品と、作家自身についてより深く知る機会となりました。
伊庭靖子さん、山本淳夫さん、ありがとうございました!(事務局 松本)