私の友人で、日本の「スナック」文化を研究している男がいます。スナックといっても「かっぱえびせん」とかではありません。小手指とか越谷とかの駅から3分くらい歩いた路地にヒッソリ存在する、あのお店のスナックです。その友人の本業は、世界でも有数のヘッジファンドを提供しているアセマネ会社に勤務するサラリーマンですが、彼は機会があれば日本国中のスナックに通い、その本質を探究することにエネルギーを注いでいる求道者であります。
スナックは、世界でも他に例を見ない我が国独特の文化です。ボトルさえ入っていれば、いくら長居しようが、水割りを何杯飲もうが、一人3000円くらい(山手線の内側だと5000円くらい)の相場。風情はどこも似ていて、60~70歳前後のママ(顔はかなりのシワくちゃ、声は酒焼けでカスれているのが定番)が切り盛りをしていて、50歳台の女性が1~2名(だいだい地味な感じ)がいる程度。そんな場所に、なぜわざわざお金を払ってまで通う人が後を絶たないのか?
皆さん、安らぎを求めにいくのです。家に帰っても、一人寂しいだけ、あるいは奥様や娘との会話がない境遇で、立ち飲み屋で日本酒をあおるだけよりも、傷んだハートには遥かに効果的です。「お疲れ様だったわねぇ」「辛いところだわねぇ、男って‥」という言葉がどれだけオジサンの心を救ってきたか。「飲み過ぎては駄目よ」「またおいでね」と言われれば、週に1回くらいは顔を出すか‥となる訳です。
このビジネスモデル、そろそろアメリカやイギリスの地方都市では有効ではないかと私の友人は考えています。ドナルド・トランプやボリス・ジョンソンの主たる支持者は、ハートを傷つけられた白人のオジサンたち。スナックでの優しい会話は嬉しいはずですよ。(続く)