日本の総選挙、米国の大統領選挙が終了しました。
それぞれ選挙前には、さまざまな可能性や憶測が飛び交っていましたが、どちらも大勢の民意が色濃く反映する結果になりました。このあたりは、さすがデモクラシーでありました。
一方で、今回の選挙、特にアメリカの大統領選は、予備選まで含めると2年弱もかかる長期戦でしたから、いろいろ考えさせられる選挙でありました。というのは、われわれ一般市民が政治に望むことは、第1に「①国民の生命と財産を守ってくれる政権であって欲しい」、第2に「②最低限の社会生活の営みを保証する政権であって欲しい」ということ。これはすなわち、①「平和と安全を維持する力=国が成長する力を推進する」政権、そして②「所得の再配分に注力する」政権を同時に求めることになりますが、この2つは、実は対極にあるテーマなのであります。
国が成長するため、すなわち強くなっていくためには、人々に激しい競争を促しながら、他国とはケタ違いのイノベーション投資を継続していかなければなりません。
人類の生活を大きく変化させたイノベーション、例えば、自動車、飛行機、原子力、コンピューター、スマートフォン、AIなどは、それぞれトンデモナイ初期投資があってこそ実現できる技術が根底にあります。そして、そのような投資を実行したのは、これまたトンデモナイ規模の世界的資本=超絶規模の富豪一族、あるいは国家そのものと言えるような王族クラスの資本なのであります。彼らのような資本家がスポンサーとして後ろ盾に居てこそ、成り立つ世界がイノベーションの世界。3年とか5年くらいで回収を狙うようなケチな金融資本ではダメで、想像を超えるムダな資本投下も片目を瞑って許してくれる資本家が居てくれるから、世界を変えるようなイノベーションが生み出されていく。
一方で、国民一人ひとりの「最低限の社会生活を保証」を実現するためには、こちらも思い切った「所得再配分」を実行しなければなりません。「世界唯一の社会主義の成功事例」と呼ばれる日本のように、きっちり所得再分配をしていると、なかなか巨大な資本家が育たず、これが日本でイノベーション投資が発展しない原因の一つになっています。(相続税が厳し過ぎて、日本有数の富豪一族がどんどん海外へ移住してしまうのは、その象徴的な出来事なのであります)
何が言いたいかというと、成長して国力を上げることと、個々の国民の安定した生活を保証することは、長期的に両立しづらい課題だということ。前者を優先的に突き詰めていくと、「民主主義」は衰退していき「帝政」のような絶対権力の下で、超絶規模の資本を増やしてイノベーション投資を行う方が手っ取り早く成果が出る。すなわち国力がアップし戦争にも勝利して、周囲の民主的な国々を占領して傘下に収めることが出来てしまう。ただし問題もあって、そのような絶対権力国家を長く続けていくと権力構造が腐敗していき、そのうち一般市民からの支持が得られなくなる。当初は弾圧により民衆を抑えることも出来るが、そのうち民衆による革命が起こり「帝政」が崩壊してしまう。
一方、個々の国民の安定した生活保証を優先していくと、当初は国民の幸福感や満足度が高く国も政権も安定しますが、そのうち周囲の国との国力の差が歴然となって、いつか他国に支配されてしまう運命が待ち構えることになる。
この双方を実現すること、すなわち「成長」と「安定」を同時に成し遂げようとすると、平時は「リスクを許容する巨大資本」を育てつつ、時には「革命的な所得再配分」施策の実施によって、一般民衆の不満ガスを抜く作業をやらざるを得ない。そのハンドル捌きこそが「民主国家の為政者」の腕の見せ所となる。
共和党のトランプ候補は、8年前から「一般民衆に不満ガスが充満していること」を見抜いており、大統領選挙の重要なエネルギーになると読んでいた。一方のヒラリー・クリントン候補には、それが見えず、従来型のまともな施策論争に終始して敗れた。4年前のトランプ対バイデンの時は、「一般民衆の不満ガス」の一部が現職大統領であるトランプ候補にも向けられたため、バイデン候補が僅差で勝利。逆に、今回のトランプ候補は現職でないことの強みを生かして、「一般民衆の不満ガス」をフルに活用することで再び勝利したということ。
恐らくは、今回トランプ候補に投票した人々の不満ガスは、当然ながら新たなトランプ政権になっても、そう簡単には解消されません。それでも、次の大統領選にはトランプは出馬しませんから、そんなことはトランプにとって問題にはならない。
結局、資本主義と民主主義が長期的に両立しない点を突いて、大統領の地位に再び就くトランプの冷淡クールな洞察力が光る選挙戦でありました。