たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

2018年『フェルメール展』_牛乳を注ぐ女

2018年12月19日 23時00分36秒 | 美術館めぐり
「フェルメール「牛乳を注ぐ女(あるいは台所で働く女性)
 1658-60年頃、油彩・キャンパス、45.5×41センチ、アムステルダム、国立絵画館所蔵


 台所の片隅で牛乳を注いでいる女性が描かれているが、光のトーンと色彩がまことにすばらしい。光を浴びた壁の表情から目を引き離すことができない。壁に打ちつけられた釘や釘穴が描かれている。壁の汚れや染みや傷が克明に表現されている。フロアーと接する壁の下の部分にデルフト焼きのタイルが帯状に描かれている。見落としそうなところだが、こうしたタイルにおいて体験されるオランダがある。

 壺からミルクが注がれている。描かれているのは労働の場面だ。フェルメールは動作をとらえている。卓上に姿を見せている器、かご、パン、テーブルかけ、布地や、女性の服装など、質感と量感の表現が見事である。明暗、色彩、光と影、雰囲気、生活感情、人物の気分、空間様相などの表現において、フェルメールの技法は冴えわたっている。

 オランダ・アムステルダムの国立絵画館で見たこの絵はどちらかといえば小さな絵だが、気品があふれた、また、ほっとするようなぬくもりが感じられる絵だった。原画のしっとりとした感じと輝きが、画集をみるときにもよみがえってくる。彼は空間の実在感と雰囲気をあますところなく描き出している。ゆるぎないコンポジションだ。フェルメールは、彼女の視線と手もとを明るみに出して、「行為」を描いている。

 この作品においては光ばかりではなく、深い影が体験される。目にしみるような絵だ。この絵を見るとき、私たちはフェルメールの光を浴びるのであり、フェルメールの影のなかに立つのである。彼が描いた部屋の片隅を訪れて、そこでオランダを体験するのである。」

(山岸健著『絵画を見るということ』より)



2018年12月15日(土)上野の森美術館にて



























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