たんぽぽの心の旅のアルバム

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第1章性別職務分離の状況_④労働市場の性的な職種分離(1)

2016年03月06日 22時15分27秒 | 卒業論文
 M字型雇用でみたように、女性の多くは生産労働と無償の再生産労働をともに担っている。とりわけ産業構造の転換期である1970年代に女性就業者は第一次産業から第三次産業 1)へとその主要部分を転じている。このサービス経済化といわれる産業構造の転換と、石油危機等に加速される資本制経済の再編成は、女性雇用労働者の増加を伴った。

 しかもその主流は、若年未婚者ではなく、既婚女性のパートタイム労働者なのである。このような変化のなかで、女性は、家庭と市場での労働という二つの労働を担う存在として位置づけ直される。 産業構造の再編成の過程で登場したパートタイムジョブが女性、とりわけ有配偶女性に吸収されていったということは、女性の労働を物質の生産と労働力の再生産の両面から考えていかなければならない。

 女性の無償労働への注目は、第4章において、「OL」の会社における役割と、家庭における主婦の役割の類似という観点からも述べてみたい。ここでは、労働市場において性的な職務分離が形成されている様子を縦と横の関係から探ることにする。

 横の分離すなわち「水平的職務分離」は、女性の就業が特定の職種に偏り、「男の仕事」と「女の仕事」が作り出されていることに見られる。そして、「女の仕事」には、おおむね
低い賃金、劣悪な労働条件、昇進の機会の欠如、また不安定な雇用といった特徴がみられる。

 しかも注目されるのは、典型的な「女の仕事」は、家事労働者である「主婦」の仕事に類似したものであることが多い。女性は、労働市場でも、掃除をし、調理し、裁縫をし、教え、そして物を売る。また子どもや高齢者、病人の世話をし、看護をする。言い換えるなら、賃金をもらって女性がしている仕事とは、「主婦」がすべきとされている仕事と同じ種類のものがまことに多い。

 そして、このようなかたちの性別役割分業は最も根強いものとなっている。横の関係ばかりでなく、縦の関係では、同じ職種のなかでも、専門的知識や技能資格をもち、管理的能力を有する分野には男性が、一方あまり判断力を必要としない定型的業務には女性というふうに、同一職種のなかで、上位職域と下位職域とを性によって固定的に配分されている。「男の仕事」は上位職域、「女の仕事」は下位職域である。この縦の分離を「垂直的職務分離」と呼ぶ 2)ならば、「水平的職務分離」は経営の論理によって意識的に、あるいは慣行・イメージによって無意識的に、「垂直的職務分離」に転化させられるのである。3)

 OLを擁する事務部門に注目してみると、キャリア展開が期待されている「総合職」は圧倒的に男性、女性はいつになっても比較的簡単な様々の仕事を適宜わりあてられる「一般職」に緊縛されているのは、②の女性労働者の分布で見たとおりである。1986年の男女雇用機会均等法施行に伴い、相当数の企業で総合職と一般職(あるいは事務職)というコース別人事制度が導入され、女性の総合職社員が誕生した。このような企業では、公式文書の中の表現としては、総合職、一般職という言葉が用いられている。

 しかし、現実には、「男性」と「女性」という性による二分化が相変わらず根強く人々の意識と行動を規定している。総合職は「男の仕事」、一般職は高卒や短大卒の「女の仕事」という慣行が企業の中に暗黙のうちにあるのである。その具体的な様子を小笠原有祐子の『OLたちのレジスタンス』の記述から知ることができる。4)

 あるとき、私がある会社の人事部に尋ねたいことがあって電話をかけると、女性が応対に出た。そしてこちらの質問に対し、てきぱきと応答してくれた。ところがさらに突っ込んで質問をすると、相手の女性が突然に言った。

「ただいま男性と代わりますので」
 この女性の言い方から、彼女が言う「男性」とは「あなたの質問に責任をもって答えられる人」であり、反対に「女性」は「そのように責任をもって答えられない人」と解釈すべきなのが明瞭であった。つまり、総合職と一般職の区分は一見、性に中立的であるものの、多くの人々が総合職=男性、一般職=女性と見なし続けていることが想像される。

 現代日本の企業社会においては性こそが量的にも質的にもはるかに他の基準にまさる安定的な職務分離の基準とみなされ、その基準が執拗に生き続けているのである。人間がもつ属性の中で、なぜ性別が突出して企業において意識されるのか。その理由を、熊沢は産業社会における労働力の需要と管理のニーズが果たす役割を出発点とする、分業と配置に関する経営の論理から説明している。少し引用が長くなるが見てみよう。(続きます)

語句説明及び引用文献

1) 第一次産業:農業・林業・漁業
 第二次産業:鉱業・建設業・製造業
 第三次産業:電気/ガス/熱供給/水道業・運輸/通信業・卸売/小売業/飲食店・金融/保険業・不動産業・サービス業・公務(他に分類されないもの)

2)竹中恵美子編『新・女子労働論』16頁、有斐閣選書、1994年。
3)竹中、前掲書、16頁。
4)小笠原祐子『OLたちのレジスタンス』12頁、中央公論社、1998年


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