【社説②】:名張再審認めず 「疑わしきは」の鉄則で
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:名張再審認めず 「疑わしきは」の鉄則で
三重県名張市で1961年、女性5人が死亡した名張毒ぶどう酒事件で、殺人罪などで死刑が確定した奥西勝元死刑囚=病死=の妹が求めた再審請求を最高裁は棄却した。だが、判事1人は「再審を認めるべきだ」との反対意見をつけた。「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則で考えるべきだ。
公民館の懇親会で出されたぶどう酒を飲んだ女性17人が中毒症状を起こし、元死刑囚の妻を含む5人が死亡した事件である。
第10次の再審請求だった。今回の最大の争点は、元死刑囚とは別の真犯人が毒物を混入したと立証するため、弁護団が行った「封かん紙」の科学鑑定である。
ぶどう酒の外ぶたに巻かれた紙で、弁護団の鑑定では、封かん紙に製造時と成分が異なるのりが重ね塗りされていた。
つまり真犯人が毒物の混入後に封かん紙を貼り直したことになる。犯行機会が奥西元死刑囚しかいないとする確定判決の根拠を揺るがすことができる。
だが、最高裁は封かん紙の採取や保管の過程で何らかの物質が付着した可能性があると指摘し、「再審認めず」と結論を出した。
この4人の多数意見とは逆に、宇賀克也判事は封かん紙の鑑定に信用性を認めた。
「のりが別途塗布された可能性が極めて高い」とし「再審を開始すべきだ」との反対意見を述べた。
「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則も用いつつ、確定判決に合理的な疑いが生じているとした。
この鉄則は再審制度でも適用されるとした「白鳥決定」を重視した点を大きく評価したい。そもそも一審は「無罪」。2005年には再審開始が決定されたが、後に取り消された経緯がある。
つまり犯人かどうか当初から疑わしかったのではないか。状況証拠と自白調書程度しかなかったからだ。誤判は決して許されず、死刑の選択にはより慎重を期さねばならないのは当然だ。
死刑は生命を奪う特別な刑罰であるゆえに、米国の死刑制度が残る州では陪審員の全員一致という特別な手続きが求められる。
本来、日本でもそのような特別な手続きが立法で用意されるべきである。今回は1人の最高裁判事が再審を認めた。これは現行法の運用でも再審開始とすべき十分な理由と考える。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年02月02日 07:37:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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