【そもそも】:政治資金パーティーの何が問題? 自民党の裏金事件とは 政治は金がかかるの?
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【そもそも】:政治資金パーティーの何が問題? 自民党の裏金事件とは 政治は金がかかるの?
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、国会では岸田文雄首相(党総裁)や安倍派幹部らへの追及が続いています。
2023年11月、安倍派で派閥のパーティー収入を所属議員にキックバックしながら、政治資金収支報告書に記載していなかった疑いが表面化。東京地検特捜部による捜査のメスが入り、2024年1月に安倍派、二階派、岸田派の国会議員や会計責任者ら9人が政治資金規正法違反の罪で立件されました。
自民党の調査では、収支報告書に記載漏れや誤記載があった議員は85人(公認候補3人を含む)に上りました。
裏金事件の真相解明のため、衆院では2月29日と3月1日、完全公開で政治倫理審査会(政倫審)を開き、岸田首相のほか、安倍派や二階派の幹部5人の審査を行いました。幹部らの証言が食い違ったり、これまでの説明を繰り返したりして、裏金の実態は明らかになりませんでした。
国民の政治不信が高まる中、関連する記事をまとめました。
【目次】
▶どんな事件?
▶どのようにして裏金に?
▶裏金は何に使った?
▶政治資金パーティーとは?
▶何が問題なの?
▶緩いパーティー券の規制
▶最大派閥、安倍派の裏金は?
▶東京地検特捜部の捜査は?
▶自民党の対応は?
▶岸田首相にも飛び火
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自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件が大きな節目を迎えました。
東京地検特捜部は19日、最大派閥の安倍派の会計責任者と、二階派と岸田文雄首相が会長を務めた岸田派の元会計責任者、さらに大野泰正参院議員と谷川弥一衆院議員らを政治資金規正法違反の疑いで立件しました。
自身の出身派閥にも飛び火したことで、18日には岸田首相の口から「岸田派の解散を検討する」との発言まで飛び出しました。
どのような事件で、何が問題なのでしょうか。(デジタル編集部)
◆どんな事件?
安倍派などでは、派閥の政治資金パーティーで、パーティー券収入の一部を政治資金収支報告書に記載していなかった疑いが持たれている。
きっかけは、2022年11月の「しんぶん赤旗」の報道だった。2018年~2020年に安倍派など5派閥の政治団体が、政治資金パーティーの収入計約2500万円を政治資金収支報告書に記載していなかったと報じた。
報道を受け、神戸学院大の上脇博之教授が、2018~2021年の4年間を調べ直し、自民5派閥の政治団体において計約4000万円の不記載があったとして東京地検に告発していた。
2023年11月に入り、東京地検特捜部が派閥の担当者らを任意で事情聴取していることが明るみに出た。
◆どのようにして裏金に?
安倍派や二階派では、派閥の政治資金パーティーに関して、当選回数や閣僚経験に応じて所属議員に販売ノルマを設けているという。ある自民党関係者は「ノルマ以上の券を売ると議員個人の収入になる」(自民関係者)と証言する。
安倍派では、ノルマを越えた分のパーティー券収入を所属議員に還流(キックバック)しながら政治団体の収支報告書に記載せず、議員側が裏金化していたとされる。
所属議員側がパーティー券の販売ノルマ超過分を派閥に納めず、手元にプールしていたケースもあったとされる。
収支報告書に記載せず、裏金にしていた資金は何に使ったのか。誰もが抱く疑問について、安倍派幹部ら疑惑議員は「捜査中」を理由に、これまで説明を拒んできた。
ある自民党議員の秘書は「ノルマは50枚(100万円)で、ノルマを超えた分が振り込まれました。後援会活動費として使っています」と明かす。
自民党のベテラン衆院議員の元秘書は「秘書の人件費や地元の会合の会費などお金がかかるのは確か。当選回数が少ないほど広報にも費用がかかる」と話す。
これに対し、立正大の金子勝名誉教授(憲法)は「自民党の論理で『政治には金がかかる』『選挙には金がかかる』という言葉を無条件に信じていいのか。私設秘書を雇ったり、買収で金を配る選挙をやったりするからではないか」と批判している。
裏金の使途について、各議員が口を開き始めたのは、19日に東京地検が一連の裏金事件の刑事処分を発表してから。裏金額が最も多い安倍派では、複数の所属議員が口々に「政治活動費に使っており、不正な支出はない」と明かした。
それでも派閥のパーティー収入のキックバックを誰が、いつから、何のために始めたのかは謎のままだ。
安倍派では19日に総会を開き、塩谷立座長ら派閥幹部が事件の経緯を所属議員に初めて説明した。幹部は「われわれも知らなかった」と語り、具体的な説明はなかったという。
政治家や政治団体が、パーティー券を売って政治資金を集めるのが主な目的。自民党では政治家や派閥の大きな収入源になっている。政治資金規正法は収入から経費を差し引いた残額を政治活動に充てることを認めている。
自民党の各派閥は、年1回政治資金パーティーを開くのが通例で、1枚2万円が相場とされるパーティー券を団体や企業などに販売することが最大の収入源だ。
自民党派閥の場合、1回で1億円以上を集めるケースもある。
◆裏金事件、何が問題なの?
政治資金のルールを定めた政治資金規制法は、派閥も政治家個人の団体と同じく政治団体で、秘書や党職員が務めることの多い会計責任者に収支報告書の提出義務を課している。
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金疑惑で、安倍派の事務所に家宅捜索に入る東京地検特捜部の係官=昨年12月19日、東京都千代田区で
議員本人も不記載や虚偽記入について指示するなど具体的に把握していれば、会計責任者と共謀したとして罪に問われる。
パーティー券の場合は、20万円を超えて購入した個人や団体の名前や金額を収支報告書に記載するよう義務付けている。
虚偽記入や不記載には、5年以下の禁錮または100万円以下の罰金が科せられる。刑が確定すれば原則5年間、公民権が停止され選挙に立候補できなくなる。
◆緩いパーティー券の規制
一連の裏金事件で、「ザル法」と指摘される政治資金規正法の問題があぶり出された。
寄付の場合、5万円を超えると収支報告書に記載義務がある。寄付に比べて氏名等の公開基準が緩いパーティー券収入は政治資金集めの抜け道になると指摘されてきた。
安倍派の場合、2022年分の収支報告書で見ると、パーティー収入9480万円のうち、購入者の名前が記載されたのは、41の企業・団体で、購入額全体の23%(2218万円)にとどまる。ある自民議員秘書は「ブラックボックスどころかブラックホール。誰にどれだけパーティー券を売ったか分からない」と実情を語る。
2023年1月には、薗浦健太郎元自民党衆院議員が、自身の政治団体でパーティーの収入を実際より少なく記載していたとして政治規制法違反に問われ、罰金刑が確定している。
◆最大派閥、安倍派の裏金は?
派閥の中でも、収支報告書への不記載の額が多いとされているのが、最大派閥の安倍派だ。
所属議員98人の大半が還流を受けていたとされる。
2023年11月に入って、安倍派の座長を務める元文部科学相の塩谷立氏と、安部派の有力者「5人組」にも裏金疑惑が持ち上がった。
安倍派「5人組」といわれる松野博一氏、西村康稔氏、萩生田光一氏、高木毅氏、世耕弘成氏
5人組は、当時、松野博一氏が官房長官、西村康稔氏が経済産業相、高木毅氏が党国対委員長、世耕弘成氏が党参院幹事長、萩生田光一氏が政調会長と、いずれも内閣や党の要職にあっただけに、自民党内に激震が走った。
岸田首相は12月14日、安倍派の松野博一官房長官、西村康稔経済産業相ら4閣僚を交代させた。萩生田光一政調会長、高木毅国対委員長、世耕弘成参院幹事長も党役員の辞表を出。安倍派の有力者「5人組」を政権の要職から一掃した格好となった。
安部派の正式名称は「清和政策研究会」。「清廉な政治は人民を穏やかにする」という意味の「政清人和」が由来だという。
◆東京地検特捜部の捜査は?
東京地検特捜部は2023年12月19日、自民党安倍派と二階派を家宅捜索した。
安倍派では、派閥から4000万円を超えるキックバックを受けていた高額受領議員もおり、同じく特捜部の捜索を受けた。
池田佳隆衆院議員の事務所を家宅捜索し、押収物を運び出す東京地検特捜部の係官=昨年12月27日、名古屋市天白区で
12月27日には4000万円超の還流を受けたとされる池田佳隆衆院議員の関係先を捜索。28、29日には還流分が5000万円超とされる大野泰正参院議員を捜索した。
今年に入ると、一連の事件は現職の衆院議員の逮捕に発展した。
特捜部は1月7日、4800万円を裏金にしたとして、池田氏を逮捕した。一連の事件で初の逮捕者だった。
政治資金規正法では、会計責任者に収支報告書の提出義務を課している。ただし、派閥幹部や議員本人も不記載や虚偽記入について指示するなど具体的に把握していれば、会計責任者と共謀したとして罪に問われる。
一連の裏金事件において、収支報告書に記載しないことについて、派閥幹部から会計責任者に指示があったのか。あったとしたら、どのような指示だったのか。こうした点も捜査の重要なポイントだった。
特捜部は1月19日、安倍派と二階派、岸田派の会計責任者や元会計責任者、大野氏と谷川弥一衆院議員ら計8人を立件した。
特捜部の捜査の結果、2018年以降の5年間で各派閥が収支報告書に記載していなかった金額は、安倍派が13億5000万円、二階派が3億8000万円、岸田派が3000万円に上った。
しかし、関与が疑われていた安倍派幹部の議員7人については、共謀を示す証拠が見つからなかったとして立件を免れた。
◆自民党の対応は?
自民党は、派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、岸田首相を本部長とする政治刷新本部を設置。再発防止や派閥のあり方を見直すため、1月中にも中間とりまとめを行うとしている。
自民党「政治刷新本部」の会合であいさつする岸田首相(中央)=1月16日、東京・永田町の自民党本部で
刷新本部設置に当たり、岸田首相は「国民の信頼回復のために火の玉となって自民党の先頭に立ち、取り組む」との決意を語っていた。
しかし、刷新本部のメンバーに入った複数の安倍派議員にも裏金疑惑が浮上。岸田首相の本気度に疑念の目が向けられている。
1月16日の第2回会合では、出席議員から「派閥を全廃すべきだ」という厳しい意見も出ていた。
◆岸田首相にも飛び火
裏金疑惑が表面化してから、「国民への信頼回復」をたびたび口にしてきた岸田首相だったが、自身が会長を務めていた岸田派にも飛び火した。
1月18日になって、東京地検特捜部が政治資金規正法違反の疑いで、岸田首相が会長を務めていた岸田派の元会計責任者を立件する方針を固めたとの報道が流れた。
岸田派は同日、2020~22年分の3年間で、計3000万円の不記載があったとして収支報告書を訂正。岸田首相は、不記載について「事務的なミスの積み重ね」と釈明していたが、夜になって突然、岸田派の「解散検討」を表明した。
東京地検の刑事処分が出た19日、立件された二階派、安倍派でも派閥解散の方針の流れとなった。
しかし、派閥解消といっても、どこまで実効性があるのかは不透明だ。雪崩を打ったような各派閥の解散の動きに対して、「単なる批判かわし」という指摘もある。
二階派を率いる二階俊博元自民党幹事長は19日の記者会見で、派閥解散を表明したものの、「別に派閥が悪かったわけでも何でもない」とも発言。「人は自然に集まってくるものだから。マスコミに文句言われるからあっち行け、とは言えない」と持論を展開した。
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元稿:東京新聞社 主要ニュース 社会 【話題・自民党・政治資金パーティー】 2024年01月19日 16:19:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。