路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【政界地獄耳・05.02】:街頭演説の紳士協定は通用しないのだろうか

2024-05-10 07:40:00 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【政界地獄耳・05.02】:街頭演説の紳士協定は通用しないのだろうか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【政界地獄耳・05.02】:街頭演説の紳士協定は通用しないのだろうか 

 ★衆院東京15区の補欠選挙。選挙中には候補者のヤジが激しく、都知事・小池百合子は先月19日、定例会見で都民ファースト副代表・乙武洋匡の街道演説に演説をかぶせてくる手法に対して「スタッフも命の危険を感じる場面があった。これまでに経験したことがない選挙妨害が発生している」と発言。政治団体「つばさの党」から出馬した根本良輔の街頭演説や同党関係者が選挙区ではない知事の自宅前でも大音量で街宣活動を行い、「選挙活動の一環ならその範囲を逸脱している」「選挙のあり方についても見直していただけないだろうか」と不快感を爆発させた。警視庁は「つばさの党」代表・黒川敦彦や根本に対して自由を妨害した「自由妨害」として警告を出した。

乙武洋匡氏の街頭演説会場に現れてマイクを握り、警備中の警察官らに囲まれる根本良輔氏(中央)=東京都江東区で2024年4月21日午後5時40分、島袋太輔撮影

乙武洋匡氏の街頭演説会場に現れてマイクを握り、警備中の警察官らに囲まれる根本良輔氏(中央)=東京都江東区で2024年4月21日午後5時40分、島袋太輔撮影

 ★これに対して黒川は「国民に与えられた権利である表現の自由の範囲内で正々堂々と批判している。それを派手にやっているだけだ」とし、警視庁の警告は権力の乱用として訴える考えを示している。「表現の自由を派手にやっている」という意味がなかなか分かりにくいが、昨今、街頭演説の紳士協定は通用しないのだろうか。だが思い出していただきたい。19年7月15日の参院選のさなか、北海道札幌市で首相・安倍晋三(当時)が街頭演説中に「安倍辞めろ」とヤジを飛ばした2人が北海道警の警察官に現場から排除されたことがあった。これは裁判になったが同選挙中、全国で同様のヤジ排除事案が確認された。

 ★問題はその当時、小池を始め、この問題の重要性を政治が無視したことに起因する。ヤジの排除は当然だと考えていたのではないか。与野党関係なく政治に関わる人たちが、自分のこととしてこの問題について立ち止まらなかったことにある。今回の15区のヤジは警告で終わるかもしれないが、小池の言うように法的に取り締まることを都は条例として考えるかもしれない。国民のヤジという表現は当初から排除の対象だが、紳士協定を無視した行為は処罰せよ、は本末転倒だ。国民や政治の場での議論を始めよ。(K)※敬称略

 政界地獄耳

 政治の世界では日々どんなことが起きているのでしょう。表面だけではわからない政界の裏の裏まで情報を集めて、問題点に切り込む文字通り「地獄耳」のコラム。けして一般紙では読むことができません。きょうも話題騒然です。(文中は敬称略)

 元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【コラム・政界地獄耳】  2024年05月02日  07:21:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.10】:川辺川のダム 住民理解得る努力続けよ

2024-05-10 06:05:50 | 【環境問題(公害・排ガス・治水・産廃・アスベスト・水俣病・イタイイタイ...

【社説・05.10】:川辺川のダム 住民理解得る努力続けよ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.10】:川辺川のダム 住民理解得る努力続けよ

 1966年に計画が発表されて以来、国策のダム計画にずっと翻弄(ほんろう)されてきた地域である。地元の理解を得ないままダムの建設を急ぎ、分断や対立を深めてはならない。

 熊本県南部を流れる球磨川の支流・川辺川に国が計画する流水型ダムについて、水没予定地がある五木村の木下丈二村長が建設を容認する考えを初めて表明した。

 先月の村民集会で「流水型ダムを前提とした村づくりに向けて新たなスタートラインに立つべきだ」と述べた。

 これで地元の理解が得られたと捉えるのは早計だ。集会では、ダムを前提としない振興策や住民投票を求める声が上がった。建設容認は村民の総意とは言い難い。

 そもそもダム本体の建設予定地がある相良村の吉松啓一村長は、流水型ダム建設への賛否を明らかにしていない。現時点では表明する予定はないとしている。

 両村は半世紀以上、ダム問題に振り回された。分断や対立をあおりたくない、として県は相良村に同意を求めない意向という。曖昧にしたまま事業を進めれば、将来にしこりを残しかねない。

 ダム建設の手続き上、地元の同意は必要ないとはいえ、大規模プロジェクトを円滑に進めるには欠かせない。国と県は住民の理解を得る努力を重ねるべきだ。

 川辺川のダム計画は曲折を経て今に至る。両村は下流域の人命を守るために当初のダム建設を受け入れたが、2008年に当時の蒲島郁夫知事が反対を表明したため、旧計画は中止された。

 状況を一変させたのは20年7月の熊本豪雨だった。球磨川の氾濫で甚大な被害が出ると、蒲島氏は川辺川に流水型ダムを造ることを容認した。国は球磨川水系河川整備計画に流水型ダムを盛り込み、建設準備を進めている。

 ダムがあれば被害を抑えられたのではないか、という思いだったのだろう。方針転換で影響を受ける地元住民の心中は察するに余りある。

 ダムによる治水効果の検証は十分とは言えない。

 国や県、流域12市町村による検証では、仮に川辺川にダムが存在した場合、熊本豪雨の洪水水位が最大で2・1メートル程度低下すると推定した。全ての被害を防ぐことはできないとの結果も出た。

 検証は国主導で、効果が過大になりがちだ。第三者を交えた検証が不可欠である。

 流水型ダムは豪雨などの増水時にだけ貯水し、流量を調節する治水専用ダムだ。環境への影響は旧計画より小さいというものの、県民の宝である清流を守るのは難しい。

 国は、流水型ダムと河川整備で熊本豪雨級でも越水による被害は防げると説明する。それでも人間の力で自然災害を防ぐには限界がある。

 流域では今なお「ダムによらない治水」を求める声が少なくない。県はこうした声にも耳を傾けるべきだ。

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月10日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.09】:水俣病発言遮断 被害者の思いなぜ聞かぬ

2024-05-10 06:05:40 | 【環境問題(公害・排ガス・治水・産廃・アスベスト・水俣病・イタイイタイ...

【社説・05.09】:水俣病発言遮断 被害者の思いなぜ聞かぬ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.09】:水俣病発言遮断 被害者の思いなぜ聞かぬ 

 水俣病の歴史において、常に幕引きを急いできた国の姿勢を、図らずも露呈したと言えないか。

 熊本県水俣市で1日に行われた水俣病の患者・被害者団体と伊藤信太郎環境相との懇談の際、予定の3分を超過したとして、被害者の発言中に環境省職員がマイクを切って制止した問題である。

 打ち切られた2人のうち、松崎重光さん(82)は水俣病に認定されないまま昨年亡くなった妻悦子さんについて語るさなかだった。

 今なお苦しめられている人や、亡くなった人たちの無念に、なぜじっくりと耳を傾けようとしないのか。被害者の尊厳を踏みにじる行為に、強い憤りを禁じ得ない。

 昨年の懇談も同じ形式だったが、マイクを切る行為はなかったという。

 伊藤氏はきのう、急きょ水俣を再訪して、発言を打ち切られた2人に直接謝罪した。当初は懇談の運営を担当した環境省幹部に、謝罪を指示したとされる。事態を軽視していたのではないか。

 懇談会場で被害者から抗議を受けた伊藤氏は、マイク音声の遮断について「認識しておりません」と述べている。発言が途中で遮られたことは分かっていたはずだ。伊藤氏自身がマイクを回収する職員を制止し、発言を続けるように促すべきであった。

 懇談の冒頭、伊藤氏は「水俣を訪れ、皆さまのお話を伺うことができる、重要な機会と感じている」とあいさつした。

 そう言いながら発言の機会を一方的に奪うようでは、被害者に寄り添って話を聞くのはポーズに過ぎないと見られても仕方あるまい。被害者の訴えを救済に生かす気があるのかも疑わしい。

 もはや水俣病を所管する環境省のトップを務める資格はないと考える。

 これは伊藤氏に限った問題ではない。水俣病に対するこれまでの国の姿勢と通底している。

 国は原因企業チッソによる汚染廃水垂れ流しを放置し、被害を拡大させた。救済の対象をできるだけ狭くし、多くの被害者を切り捨ててきた。それを償う責任がある。

 にもかかわらず、国はいまだに被害者の救済拡大に動かないままだ。

 環境省の前身である環境庁は、戦後の高度経済成長期に水俣病など四大公害病を拡大させた反省に立ち、1971年に創設された。

 72年から長官を務めた三木武夫元首相が「唯一の反権力的官庁」と語ったように、かつては水俣病問題に関係する官庁の中で最も被害者に近いといわれた。

 今やその面影はない。近年は被害者が切望する不知火海(八代海)沿岸の広域的な健康調査について「患者の掘り起こしにつながる」として拒否するほどである。

 今回の失態を猛省し原点に立ち返らなければならない。

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月09日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.08】:国体が国スポに 開催意義を見直す契機に

2024-05-10 06:05:30 | 【スポーツ全般・屋内外の競技種目・オリパラピック・国民スポーツ大会】

【社説・05.08】:国体が国スポに 開催意義を見直す契機に

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.08】:国体が国スポに 開催意義を見直す契機に

 国民体育大会(国体)から名称を変えた国民スポーツ大会(国スポ)について、全国の知事から見直しや存廃の是非を問う声が上がっている。時代に合った大会に再構築するきっかけとしたい。

 国体は終戦翌年の1946年から毎年、都道府県の持ち回りで開催された。昨年の鹿児島大会が最後で、今年は初めての国スポが10月に佐賀県で開かれる。

 見直し論議は先月、全国知事会長の村井嘉浩宮城県知事が「廃止も一つの考え方ではないか。非常に財政的な負担は大きい」と問題提起したことが発端となった。

 開催に必要な費用と人手が重荷になっており、多くの知事から村井氏に同調する発言が相次いでいる。福岡県の服部誠太郎知事は、運営や施設改修などに数百億円を費やす実態から「総合開会式や競技種目の規模縮小を検討すべきだ」と述べた。

 国スポは日本スポーツ協会と文部科学省、開催都道府県の共催で、近年は全国障害者スポーツ大会が併せて開催される。経費の大半は開催地が負担する。

 戦後間もない頃に比べ、健康とスポーツに対する国民の関心は高まり、全国各地にスポーツ施設や競技団体が整った。選手と指導者の育成、競技力向上を含め、国を挙げてスポーツを普及する国体の目的は達成したと言える。

 費用負担以外でも問題点が指摘されていた。開催県は都道府県対抗で総合優勝するために、県外から有力選手を集めていた。

 「国内最大で最高の総合スポーツ大会」の理念も現状に合っていない。国際大会を優先し、出場しないトップ選手が少なくない。各競技の日本一を争う全日本選手権、全国高校総体(インターハイ)、年代別大会も開かれており、国体は全ての選手が目標とする大会ではなくなっている。

 国体・国スポは2034年の沖縄県で2巡目を終える。これまでと同じ形式で3巡目に入ることは、開催地の住民の理解も得られまい。

 日本スポーツ協会は検討部会を設け、国スポの在り方を探る。全国知事会も加わる見通しだ。スポーツ関係者以外の意見を交え、存廃を含めて議論してもらいたい。

 大会を続けるのであれば大胆な改革が必要だ。

 従来のままでは、人口減少と財政難で単独開催が困難な県が増える。負担を分散させるため、インターハイのように複数の都道府県で共同開催することは検討に値する。毎年開催することの是非も論点になりそうだ。

 開催意義の再検討も求められる。人生100年時代を迎え、競技スポーツから生涯スポーツに軸足を移し、新たな理念の下で競技種目と参加資格を再編するのも一つの考え方だろう。

 出場を目指す選手、開催地の住民に歓迎される国スポ像を追求してほしい。

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月08日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.07】:縮小する市町村 地域の持続へ発想転換を

2024-05-10 06:05:20 | 【超高齢化・孤立・認知症・人口減少・消滅可能性自治体・元気老人・2040年問題】

【社説・05.07】:縮小する市町村 地域の持続へ発想転換を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.07】:縮小する市町村 地域の持続へ発想転換を 

「消滅可能性」は一つの見方である。名指しされても、うろたえることはない。

 民間の識者でつくる人口戦略会議が、将来の人口推計を基に消滅可能性がある自治体を公表した。九州は約3割に相当する76市町村、全国では744市町村が該当する。

 2020年から50年までの30年間に、子どもを産む中心年代の20~39歳の女性が半数以下になる見通しで、急速な人口減少に歯止めがかからないと分析している。

 程度の差はあれ、九州の大半の市町村は人口減少から逃れられない。それを前提に、住民が安心して暮らし続けられる手だてを考えなくてはならない。人口戦略会議の警鐘を冷静に受け止めたい。

 消滅可能性がある自治体は10年前にも公表され、大きな反響を呼んだ。歩調を合わせるように政府が始めたのが地方創生だった。

 危機感を強めた自治体もさまざまな対策に取り組んだ。特に力を入れたのは移住者を増やすことではなかったか。その努力は否定しないが、全国の人口が減る中で移住者を奪い合っても限界がある。

 自治体はこの10年の人口政策を検証すべきだ。政府から半ば強制されて作った地方創生の計画は、どれだけの効果をもたらしただろう。

 人口政策は国力と結び付けられがちだが、自治体は地域と個人の暮らしを尊重する視点を欠いてはならない。人口や出生率の数字に振り回されず、いまの暮らしを持続可能にすることに努めてほしい。

 少し先を見据え、地域のありたい姿を多世代の住民で描くことから始めたい。行政任せにするよりも、生活実感が色濃く反映されるはずだ。

 これまでとは違い、地域づくりに発想転換が必要だ。過大になった公共施設の規模を見直し、複数の施設を一つにまとめるなど、地域を上手に小さくする工夫が要る。

 子どもを育てる希望をかなえる方策は、若い世代への経済的支援ばかりではない。職場や地域で女性と男性が役割分担する環境づくりも、今日では重視される。

 水道の維持管理のように、一つの市町村で解決が困難な課題は近隣の市町村や県との連携で乗り越えたい。従来よりも機能性の高い広域行政の検討が求められる。

 政府による地方創生は芳しい成果が出なかった。東京一極集中を是正する目標を立てたものの、東京圏の人口はむしろ膨らむ一方だ。

 大規模な開発はとどまるところを知らず、企業の集積も進んでいるのだから、当然の帰結と言える。一極集中を是正するのであれば、開発を抑制し、政治と経済の中枢が過度に集中している構造にメスを入れるべきだ。

 少子化についても実効性のある対策を打ち出せないままだ。「消滅可能性」は自治体だけに突き付けた問題ではない。政府の人口政策のまずさに対する批判でもある。

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月07日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.06】:障害者への差別 合理的配慮を当たり前に

2024-05-10 06:05:10 | 【障害者を取り巻く諸問題・差別・虐待・雇用・バリアフリー・支援の輪】

【社説・05.06】:障害者への差別 合理的配慮を当たり前に

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.06】:障害者への差別 合理的配慮を当たり前に

 障害のある人は日常生活で多くの壁に直面し、不便を強いられる。誰もが尊重され自分らしく生きることができるように、社会から壁を取り除かなくてはならない。

 障害者差別解消法はこうした理念に基づき、2016年に施行された。当事者の求めに応じ壁をなくすため、国や自治体に「合理的配慮」を義務付けている。

 先月の法改正で義務付けが民間事業者に拡大した。企業や店、医療機関、教育機関、NPO、個人事業主など対象は一気に増えた。法改正の内容を早く浸透させたい。

 合理的配慮は国際的な差別禁止の核となる考え方で、日本が批准した障害者権利条約に掲げられている。

 例えば、車いすで買い物中に段差があれば店員が手助けする。耳が不自由な人には筆談でやりとりをする。筆記試験にタブレット端末の使用を認めるなど、ルールを柔軟に変更することも想定される。

 「前例がない」「何かあったら困る」と要請を一律に拒否すれば、配慮義務違反の可能性がある。

 事業者は負担が重過ぎない範囲で対応が求められる。食事の介助サービスのない飲食店が介助に応じるのは困難だろう。混雑する店で買い物の付き添いを求められたら、代わりに欲しい商品を取りに行くなどの工夫をしたい。

 障害のない人と同等の機会を保障する考え方なので、優遇ではない。特別扱いとの批判は当たらない。

 そもそも私たちの社会は、多数派である障害のない人に都合良くつくられている。少数派が不利益を被っていても気付きにくい。当事者の声に耳を傾け、状況を改善するのは当然ではないか。

 合理的配慮を怠れば差別に当たる可能性がある、と認識しておきたい。22年の内閣府の意識調査では「差別に当たる場合があるとは思わない」または「どちらかといえば思わない」と答えた人が合わせて3割を超えた。

 国と自治体は啓発に力を入れなくてはならない。事業所は従業員研修を通して、障害者差別の現状と解消への理解を深めてもらいたい。

 障害のある人が困り事を伝えるのは勇気が要る。車いすの女性が、映画館で今後の入館拒否を告げられたと交流サイト(SNS)に投稿したところ、「優遇されて当たり前の考えは捨てろ」といった反発を受けた。

 合理的配慮には曖昧さがある。障害も千差万別なので、一律に判断しにくい。国は参考例を示し、関係者が建設的な対話を重ねることを求めている。

 一方で曖昧さがあるからこそ、話し合いで共通理解が得られるとも言える。映画館の例では、従業員の教育や設備の改善につながったそうだ。

 分かり合えないこともあるだろう。国や自治体は相談体制を拡充し、壁をなくす取り組みを後押ししてほしい。

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月06日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①・05.10】:中国秘密法改正 不透明な運用が心配だ

2024-05-10 05:05:55 | 【中国・共産党・香港・台湾・一帯一路、「国家の安全」、個人の権利を抑圧する統治】

【社説①・05.10】:中国秘密法改正 不透明な運用が心配だ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・05.10】:中国秘密法改正 不透明な運用が心配だ

 中国で国家機密の管理を徹底するために改正した国家秘密保護法が、今月から施行された。

 共産党による指導を強化し、海外への流出防止を徹底することが柱だ。昨年7月に施行された改正反スパイ法と合わせて、監視を強化する狙いがある。
 だが条文の内容はあいまいさが目立ち、何が国家秘密に当たるのかが判然としない。法制度の不透明な運用がいっそう懸念される。
 習近平国家主席は国家安全を重視し、外国人や外国と関わる中国人への統制を強めている。国民の愛国心を高める法律も制定した。「習1強」下で統制の強化に向けた法整備は加速する一方だ。
 中国では昨年3月にアステラス製薬の日本人男性社員が反スパイ法違反容疑で拘束された。日本の大学に在籍する中国人教授らの拘束も相次いでいる。
 拘束理由など明らかになっていないことばかりだ。中国は恣意(しい)性が疑われないように対応することが求められている。それには情報開示の徹底が不可欠だ。
 国家秘密保護法は1988年に制定され、今回の改正で何が国家機密に当たるのかを担当部門が単独で決定することが可能になった。共産党指導部の意向を反映しやすくしたのだろう。
 日本企業の駐在員らの間で警戒感が広がっているのは当然だ。中国は海外からの投資の呼び込みに力を入れているが、逆行した対応だと言うほかない。
 改革開放政策では、海外からの技術の導入があったからこそ経済発展をなし遂げたことを忘れてはならない。
 3月には神戸学院大の胡士雲教授が昨夏に中国に一時帰国した後に消息不明になり、先月には亜細亜大の范雲濤教授が昨年2月に中国に一時帰国した後、消息を絶ったことが、それぞれ判明した。
 北海道教育大札幌校の袁克勤元教授は2019年に一時帰国してスパイ容疑で拘束され、その後起訴されている。
 中国当局が、日本在住の中国人研究者を標的にしている可能性がある。これでは日中間の人的往来が阻害され、教育や文化などでの交流は停滞せざるを得ない。
 日本政府は早期解放に全力を尽くしてもらいたい。だが岸田文雄首相と習氏による首脳会談は昨年11月の開催以降、予定がない。
 今月下旬には19年末以来の日中韓首脳会談の開催が調整されている。日本はこうした場も利用して働きかけを強める必要がある。

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月10日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②・05.10】:マイナ保険証 年内一本化 混乱を懸念

2024-05-10 05:05:50 | 【社会保障施策・年金(国民、老齢、共済、障害)・医療保険・生活保護・障害者...

【社説②・05.10】:マイナ保険証 年内一本化 混乱を懸念

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・05.10】:マイナ保険証 年内一本化 混乱を懸念 

 現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに機能を持たせた「マイナ保険証」に一本化するまであと半年余りとなった。
 
 全国のマイナ保険証利用率は3月で5%台と低迷するが、政府は予定通り12月に実施する考えだ。
 
 マイナンバーと保険証のひも付けミスは判明分で9千件以上に及ぶ。政府は再発防止策を講じたというが国民の不信感は拭えない。
 河野太郎デジタル相は自民党国会議員に対し、マイナ保険証が利用できない診療所や病院について支援者に情報提供するよう呼びかける文書を配布していたという。
 強権的に映る手法は反発を招きかねず、実施時に混乱が生じる恐れがある。最長1年という現行の保険証使用の猶予では済まない。年内一本化の方針を撤回し、制度を再考するよう求めたい。
 厚生労働省の調べでは都道府県別利用率は沖縄が2.7%、鹿児島が9.5%など地域でばらつきがある。道内は5.7%である。
 また、病院の12.5%に対し規模の小さな診療所は5.2%、薬局が4.1%など身近な施設ほど利用が進んでいない。
 国は今月から7月までを促進月間として利用者が増えた施設に一時金を支給する。既に1月から217億円を計上し利用件数分の支援金を出し、来月にはデジタル化に対し診療報酬も加点する。
 無駄を排除して膨張する医療費を抑制するのがマイナ保険証導入の目的だったはずだ。やみくもに利用率を上げようと巨費を投じるのは本末転倒ではないか。
 国は医療機関同士で利用者の情報を共有できるのがメリットと強調してきた。だが現在利用できるのは薬剤情報や診察履歴、メタボ健診の結果などにとどまる。
 薬剤情報は「お薬手帳」で間に合う。血液検査やCT画像など患者と医師双方に有益な情報共有のシステム構築は検討段階という。
 マイナカード自体も各地で誤交付が相次ぎ、福島県で委託業者が個人情報を私的利用するなど不祥事も起きた。システムや情報管理に問題ありと言わざるを得ない。
 能登半島地震では被災者にJR東日本のICカード「Suica(スイカ)」が配布され、避難所の情報管理に利用された。
 河野氏自ら「本来はマイナンバーカードでやるべきだが読み取り機の準備が間に合っていない」と述べ、不備を認めている。
 デジタルに不慣れな高齢者ほど保険証の利用機会は多い。紙の保険証廃止を急ぐべきではない。

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月10日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①・05.09】:新幹線延伸遅れ 地域への影響最小限に

2024-05-10 05:05:45 | 【経済・産業・企業・IT・ベンチャー・起業・インバウンド(訪日外国人客)事業】

【社説①・05.09】:新幹線延伸遅れ 地域への影響最小限に

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・05.09】:新幹線延伸遅れ 地域への影響最小限に

 北海道新幹線の新函館北斗―札幌間について、建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、2030年度末としていた開業時期が遅れると表明した。

 トンネルの難工事などで工期延長が避けられないためだ。
 
 札幌延伸の行方は、新幹線を運営するJR北海道の経営再建や並行在来線の存廃、沿線自治体のまちづくりに直結する。
 工事の遅れは以前から指摘されていた。判断を先送りしてきた機構と国土交通省の責任は重い。
 新たな開業時期は、国交省が開く有識者会議での議論などを経て決めるという。できるだけ早く示すとともに、地域社会や道内経済への影響を最小限にとどめるよう配慮すべきだ。
 延伸区間は8割をトンネルが占める。現場で巨大な岩の塊が見つかったり、軟弱地盤への追加工事が必要になったりして、工事が予定より数年単位で遅れている。
 同区間の工事現場では死亡事故がこれまで6件発生している。
 掘削でヒ素などを含む要対策土が発生し、一部で受け入れ地の選定が難航したこともあった。
 機構が現場の安全と環境への配慮を最優先に工事を進めることは当然である。
 JRは連結の純損益を黒字化して自立経営を実現する長期経営ビジョンを19年春に策定した。
 その柱は札幌延伸をてこにした運輸収入の増加や、札幌駅南口の再開発による収益改善だが、前提となる延伸の遅れで想定通りの実現は難しくなる。
 巨額赤字の解消が遠のき、国や地元自治体の負担を前提に存続を目指す赤字8区間(黄色線区)を巡る議論にも関係しよう。
 JRは長期ビジョンの見直しを急ぎ、関係自治体などへの説明に努める必要がある。
 札幌駅周辺では再開発に伴ってバス発着所が分散している。
 札幌延伸の延期でJRの再開発ビルに設けられる新たなバスターミナルの完成もずれ込めば、不便な状態は一層長期化する。
 JRは国や道、札幌市などと緊密に連携し、整備を着実に進めてもらいたい。
 札幌以外の新駅周辺の開発も再検討を迫られる可能性がある。
 見込んだ観光客の増加や企業進出が後ずれするだけでなく、開発に向けた既存施設撤去などの計画も再考を余儀なくされかねない。自治体の負担増も懸念される。
 国や道には沿線自治体に対する支援や目配りが求められる。

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月09日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②・05.09】:水俣病と環境省 被害を直視しているか

2024-05-10 05:05:40 | 【環境問題(公害・排ガス・治水・産廃・アスベスト・水俣病・イタイイタイ...

【社説②・05.09】:水俣病と環境省 被害を直視しているか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・05.09】:水俣病と環境省 被害を直視しているか

 熊本県水俣市で行われた水俣病の患者団体などと伊藤信太郎環境相の懇談で、環境省職員が団体側の発言中にマイクの音を複数回切り、発言を遮っていた。

 伊藤環境相はきのう現地を訪れ不適切な対応だったと謝罪した。
 
 環境相の帰りの新幹線に間に合わせるため、1団体3分間の発言時間を超えるとマイクの音を切る運用を決めていたという。
 折しも未救済の患者の存在を認める司法判断が続いている。
 にもかかわらず、当事者の声を拒むに等しい対応を取るようではあまりに事務的で冷たく、不誠実と言わざるを得ない。
 患者団体などは「苦しみ続ける被害者たちの言論を封殺する許されざる暴挙」と批判しており、謝罪は当然だ。
 水俣病は全面救済からほど遠い状況にある。被害の訴えに寄り添い、救済を急ぐのが国の責務だ。実態を軽視するような姿勢が解決を遅らせているのではないか。
 懇談は水俣病の公式確認から68年を迎えた1日に営まれた犠牲者慰霊式の後、伊藤環境相が当事者の声を聞く場として設けられた。
 だが、苦しんで亡くなった妻のことを話していた未認定患者団体の副会長は、職員から「話をまとめて」とせかされて音声を切られ、マイクを回収されたという。
 慰霊式は毎年恒例で、患者らが長年の苦しみを国に直接伝える貴重な場となっている。
 なのに伊藤環境相は患者らの抗議で紛糾する中、会場を去った。本来なら水俣病対策を担う行政トップとして職員を制し、患者らの話を聞くべきだった。そもそも3分間という設定自体短すぎる。
 水俣病を巡っては、2009年施行の被害者救済特別措置法などに基づく救済を受けられなかった人たちが国などに損害賠償を求めた訴訟が4件起こされ、3件で一審判決が出ている。
 除斥期間の適用などで違いはあるが、昨年9月の大阪地裁、今年3月の熊本地裁と4月の新潟地裁のいずれの判決も、国の救済の対象とならなかった人を新たに患者と認めた。
 救済策から取り残された被害者がまだ多いことを示したと言える。制度の不備はもはや明白だ。
 最高裁は04年の判決で、被害拡大の防止を怠った国の責任を認定している。
 政府と国会は、被害者を網羅的かつ恒久的に救済する制度をつくるべきだ。被害者は高齢化が進む。急がねばならない。

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月09日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.10】:規正法与党合意 資金の透明化が不十分だ

2024-05-10 05:02:50 | 【政治とカネ・政党交付金・政治資金・議員歳費・賄賂・後援会名による政治資金...

【社説・05.10】:規正法与党合意 資金の透明化が不十分だ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.10】:規正法与党合意 資金の透明化が不十分だ 

 自民党派閥の裏金事件後、衆院3補選で全敗した岸田文雄首相にとって、今国会での政治資金規正法改正は最重要課題だ。自民、公明両党はようやく改正に向けた与党案に大筋合意したが、この案のままでは政治資金の透明化は不十分だ。改革の本気度が疑われても仕方がない。

 与党案は、パーティー券購入者名の公開基準額で、現行の「20万円超」から引き下げることで合意した。しかし、具体的な額は先送りされた。政策活動費については、支払いを受けた政治家が使途を報告し、党が政治資金収支報告書に記載するとした。企業・団体献金の是非には言及しなかった。

 より踏み込んだ改革案を示していた公明党に対し、自民党が歩み寄った形だ。だが派閥の裏金事件で露呈した金権政治が、これで変わるとは思えない。

 野党各党は、さらに厳格な内容の改正案を示している。岸田首相の使命は、政治への信頼を取り戻すことにある。野党の提案を真摯[しんし]に受け止め、実効性の高い規正法改正が実現するよう与野党で議論を尽くしてもらいたい。

 政党から政治家個人に支給される政策活動費は、受け取った政治家に使途を報告する義務がなく、「ブラックボックス」と批判されてきた。野党各党は改正案で、制度そのものの廃止を打ち出している。

 自民では長年、幹事長ら党幹部が党から政策活動費を受け取ってきた。二階俊博元幹事長は、在任中の5年余りで約47億8千万円を受領していた。これほど巨額の政治資金を、受け取った幹部は領収書提出の義務もなく自由に使える。その差配が「権力の源」となってきたのは想像に難くない。使途を非公開のままにしておきたいというのが本音だろう。党内では公開に後ろ向きな声が根強い。

 自公の合意では「使途を報告する」としたものの、どこまでの細目を、どんな範囲で公開するのかはっきりしていない。「公開」という表現に本当に見合う中身になるのか、今後の成り行きを注視していく必要がある。

 企業・団体献金にも何らかの歯止めが必要ではないか。2022年分の自民の収支報告書によると、自動車、鉄鋼業界や防衛産業などを中心に献金の総額は24億5千万円に上っている。

 自民は政治活動の自由やプライバシー保護などを理由に情報公開を拒んできた。しかし仮に、国民の目の届かないところで買収や癒着などの不正行為が行われ、政治活動の公平性が損なわれるような事態を招けば、本末転倒ではないか。規正法は、政治活動が「国民の不断の監視と批判の下に行われるようにする」ことを目的としている。その理念を忘れてはならない。

 国会では、与野党ともに真剣な議論を望みたい。衆院解散をにらみ、改革の実績づくりや政権攻撃としての議論に終始するようでは、国民の政治不信は深まるばかりだ。

 元稿:熊本日日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月10日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.09】:環境省が発言遮断 水俣の思い踏みにじった

2024-05-10 05:02:40 | 【環境問題(公害・排ガス・治水・産廃・アスベスト・水俣病・イタイイタイ...

【社説・05.09】:環境省が発言遮断 水俣の思い踏みにじった

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.09】:環境省が発言遮断 水俣の思い踏みにじった 

 真摯[しんし]に耳を傾ける気持ちすらない。そんな環境省の姿勢が露呈した瞬間だった。水俣病の症状に苦しみながら、昨年亡くなった妻への思いを切々と語っていた患者団体の男性の発言が突然遮られた。

 1日、水俣市であった水俣病犠牲者慰霊式の後に開かれた伊藤信太郎環境相と患者団体との懇談の場で、環境省の職員が取った対応に批判が噴出している。発言時間に1団体3分という制限を設けた上で「時間なのでまとめてください」とせかし、発言者の男性が持つマイクの音を一方的に切った。

 同様の仕打ちを受けた参加者はほかにもいた。患者団体の関係者によると、これまでの懇談の場では発言中に制止されることはあっても、マイクを切られることはなかったという。

 慰霊式に参列した環境相と患者団体との懇談は恒例化している。2020~22年は新型コロナ禍で式そのものが中止や規模縮小を余儀なくされたが、23年からは現地での懇談も再開されている。

 伊藤氏は昨年9月に環境相に就任しており、水俣を訪れるのは今回が初めてだった。訪問を目前に控えた4月下旬の記者会見では、「地域の声を拝聴し、政府としてできる限りのことをしたい」と語っていた。

 多忙な身で時間に限りがあることは分かる。しかし、職員の対応が被害者の思いを踏みにじる愚行なのだと、その場ですぐに認識するべきではなかったか。

 対応を問題視した患者団体側は「苦しみ続ける被害者たちの言論を封殺する許されざる暴挙」と抗議する文書を伊藤氏宛てに送付したという。当然の訴えだ。

 これに対し環境省側は「例年、発言が長引くことがあり、昨年は大臣が返答する時間が短く、不十分との指摘があったため事前に持ち時間は3分と伝えた」などと釈明した。昨年もマイクを切る準備をしていたことも明らかにした。

 しかし、林芳正官房長官は環境省側の対応が不適切だったとの認識を示し、8日の国会で「政府としておわび申し上げたい」と表明した。伊藤環境相も同日、水俣市を急きょ訪れ、被害者側に直接謝罪した。

 水俣病を巡っては、公式確認から68年を経ても解決していない問題が山積している。もとより1団体3分という短時間では、団体側の話を十分に聞く気などない、と受け止められても仕方あるまい。懇談の「場を設ける」ことのみが省内で目的化していなかったか。環境行政の原点である公害問題への認識が希薄になっていないか。反省すべき点は多々ある。

 懇談には熊本県の木村敬知事ら県幹部も同席していた。だが、環境省の対応に異は唱えなかったという。国はもちろん、熊本県も水俣病問題の当事者だ。適切な対応だったとはとても言い難い。

 大臣の謝罪によって早期の幕引きを図ろうとする意図も透ける。その場しのぎの対応など誰も望んでいない。問題解決への覚悟を示し、直ちに実行してほしい。

 元稿:熊本日日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説・環境省・熊本県水俣市で開かれた伊藤信太郎環境相と水俣病の被害者団体などとの懇談】  2024年05月09日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.08】:コロナ「5類」1年 感染症への備え平時から

2024-05-10 05:02:30 | 【感染症(1類~5類)・新型コロナ・エボラ・食中毒・鳥インフル・豚コレラ】

【社説・05.08】:コロナ「5類」1年 感染症への備え平時から

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.08】:コロナ「5類」1年 感染症への備え平時から 

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に引き下げられて8日で1年となった。コロナ医療は一部で残っていた公費負担が終了し、4月から通常の医療体制に移行した。大型連休中の熊本県内はインバウンド(訪日客)を含む観光客でにぎわい、日常を取り戻したように見える。

 だが、変異を繰り返すコロナウイルスへの警戒が続く状況に変わりはなく、気候変動によって新たな感染症が広まるリスクも高まっているとされる。いつ再びコロナ禍と同様の、もしくはより深刻な危機に直面するか分からない。

 新型コロナでは医療が逼迫[ひっぱく]し、重症化しても入院できずに自宅や施設で亡くなるケースが頻発した。このような事態を再び生じさせてはならない。全ての関係機関がそれぞれの役割と、連携して対応すべき事柄を確認し、平時から備えておくことが肝要だ。

 コロナ対応の教訓を踏まえ、政府は深刻な感染症への対応をまとめた「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を近く改定する。6月に閣議決定する方針で、2013年の策定以来、初の抜本改定となる。

 4月に公表した改定案では、対策項目を6から13に拡充。「水際対策」「ワクチン」「検査」などの項目を独立させ、それぞれ「準備期」「初動期」「対応期」の各段階での対応を整理している。

 「医療」に関しては、4月に施行された改正感染症法に基づき、都道府県と医療機関があらかじめ協定を結び、流行時に医療を提供できる体制を整えるとしている。熊本県は確保病床や発熱外来、検査数などの目標値を盛り込んだ感染症予防計画を3月に改定し、医療機関との協定締結に向けた協議を進めている。

 ただ、病床確保の義務付け対象となった地域の中核病院は、医師の残業規制を強化する「2024年問題」への対応も加わり人手不足が深刻さを増している。一般の病院や診療所の協力を取り付け、人員派遣や後方支援などの形でマンパワーを活用できる体制を、県が調整を尽くし築いてほしい。

 コロナ医療やワクチン接種の変更について、国民への周知が十分になされているかも気がかりだ。

 医療費の公費負担は3月末で終了した。高額な治療薬にも1~3割の自己負担が発生し、入院費の補助もなくなった。医療機関にコロナの病床確保料を交付する制度も廃止され、一般病床での受け入れに変わった。一連の変更によって必要な医療を受けられない人が出ていないか、行政は現場を注視してほしい。

 これまで無料だったワクチン接種は原則有料の「定期接種」となり、今秋から65歳以上の高齢者と60~64歳で基礎疾患のある人を対象に年1回の接種が始まる。国は費用の一部を助成し、自己負担を7千円程度にするという。それでも費用を理由に接種をためらう人は多いだろう。公費負担のあり方についても検討を深めるべきだ。

 元稿:熊本日日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月08日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.07】:米大学反戦デモ 一刻も早い停戦求めたい

2024-05-10 05:02:20 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【社説・05.07】:米大学反戦デモ 一刻も早い停戦求めたい

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.07】:米大学反戦デモ 一刻も早い停戦求めたい 

 全米の大学で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃に反対するデモが続いている。各地でデモ参加者が強制排除され、逮捕・拘束者は約50校で2300人を超えた。一部の大学ではデモ隊とイスラエル支持派とみられるグループが衝突して負傷者が出る事態になっており、収束の見通しは不透明だ。

 若者らはイスラエル擁護を続けるバイデン大統領に批判を強めている。11月5日の大統領選の投開票まで半年を切り、再選を目指す民主党のバイデン氏と、返り咲きを狙うトランプ前大統領の対決にデモの行方が影響を及ぼす可能性がある。日本も事態の推移を注視していくべきだ。同時に一刻も早いガザでの戦闘停止を求めたい。

 米大学の反戦デモは、昨年10月以降のガザ戦闘激化に伴って断続的に発生。4月18日にニューヨークのコロンビア大で100人以上の逮捕者が出たのをきっかけに注目が集まり、全米に拡大した。同大は1960年代後半にベトナム反戦デモが大々的に行われた歴史があり、米国では当時との類似を指摘する見方もある。

 バイデン氏は、今回のデモについて「抗議する権利はあるが混乱を引き起こす権利はない」と大学敷地の一部占拠などを非難。イスラエルの自衛権を支える外交方針に変更はないとしている。だが、米CNNテレビの世論調査では18~34歳の若年層の81%がバイデン氏のガザ対応を「支持しない」と回答。支持離れが深刻となっている。

 米国の有権者2億4千万人超のうち、若年層の有権者は約3割を占める。大統領選で若者票は伝統的に民主党に有利に作用してきたとされる。今回の大統領選は、各種世論調査でバイデン氏やや劣勢という結果が出ており、デモへの対応などで若者の支持をさらに失えば、バイデン氏の再選戦略に影を落とすことになりかねない。

 一方のトランプ氏は、バイデン政権が大学の治安を維持できていないと批判し、デモを攻撃材料にした。不倫口止め疑惑に絡む事件など4事件で起訴されているトランプ氏だが、バイデン氏と初対決した2020年の前回大統領選と比べ、若者からの人気が高まっているという調査結果が出ている。

 接戦が予想される大統領選で若者票が勝敗の鍵を握ることも考えられる中、日本はデモの状況を注意深く見守る必要がある。トランプ氏が復権を果たせば、安全保障や経済政策が転換する可能性があり、日本にも大きな影響がある。4月には岸田文雄首相が訪米しバイデン氏と会談した一方、自民党の麻生太郎副総裁はトランプ氏と面会した。大統領選をにらみ、双方と関係強化を図りながら対米方針を練っておくことは重要だ。

 デモはフランスやオーストラリア、イタリアなどにも広がっている。ベトナム反戦運動のように国際的なうねりとなり、ガザ情勢に変化をもたらすきっかけになるかもしれない。日本は国際社会とともに即時停戦の道を探るべきだ。

 元稿:熊本日日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月07日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説・05.06】:国スポ見直し論 財政負担減へ抜本改革を

2024-05-10 05:02:10 | 【スポーツ全般・屋内外の競技種目・オリパラピック・国民スポーツ大会】

【社説・05.06】:国スポ見直し論 財政負担減へ抜本改革を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.06】:国スポ見直し論 財政負担減へ抜本改革を 

 都道府県の持ち回りで毎年開かれる国民スポーツ大会(旧国民体育大会)を巡り、多くの知事から在り方の見直しを求める意見が相次いでいる。開催経費の負担が重く、このまま続けるべきなのかという疑問、懸念はもっともだ。

 ただ、すぐに廃止すればいいとは思えない。近年は国民的関心が薄れているとはいえ、アスリートは大きな目標を奪われてしまう。2034年に2巡目の開催が終わる。3巡目を転機とすべきだ。財政負担とスポーツ活性化にどう折り合いをつけるか。時代に合った大会への改革が求められる。

 ■知事意見は割れる

 「廃止も一つの考え方ではないか」。全国知事会長の村井嘉浩宮城県知事の先月の記者会見での発言が、国スポ見直し論の口火を切った。これに呼応し、各地の知事が積極的に発言。危機感と改革意欲の高まりをうかがわせている。

 負担軽減を望む意見は「経費は何百億円の単位。それは県民の税金だ。抜本から議論を」(鳥取)や「国が予算を確保しなければ、今まで通りの開催は難しい」(岩手)など。2022年に開催した栃木県の経費総額は800億円超で、国の補助金は約4億5千万円だった。人口の少ない県ほど競技施設の整備費用、運営に携わる人的負担は重くのしかかる。

 一方で「廃止論」にくみしない意見がある。熊本県の木村敬知事は「安易に否定的に捉えるのは、スポーツを頑張る若者のためにも良くないのでは」と述べた。「多くの選手が目標にしている」(神奈川)という実情もある。国スポで頂点を目指す選手、競技団体の意向を軽んじてはならない。

 ■広域開催を視野に

 国体は日本スポーツ協会、文部科学省、開催地が共催し、1946年に始まった。スポーツに親しむ環境を全国に広げるとともに、競技の普及や強化につなげる狙いがある。今年の佐賀大会から「国スポ」に改称した。

 熊本県は60年に1巡目、99年に2巡目を開いた。会場として県民総合運動公園、アクアドーム熊本(いずれも熊本市)などの施設が県内各地に造られ、通称「国体道路」などインフラ整備も進んだ。国体後は県民のスポーツ拠点となり、競技人口の増加やレベルアップにつながった。

 熊本に限らず、持ち回り開催は一定の成果を上げたと言えるものの、今後は巨費を投じる妥当性が厳しく問われよう。全国高校総体のような複数県にまたがる「地域ブロック開催」に変えれば、既存の施設を有効活用できる。財政負担も当然減るはずだ。

 開催地が有力選手や指導者を集め、総合優勝を目指す慣例も改めていいのではないか。競技や選手によっては、国スポの位置付けが相対的に下がっている現状もあるようだ。実施競技、種目数を絞り込み、肥大化した大会をスリム化する視点が欠かせない。

 知事会は近く、都道府県アンケートを踏まえた提言をまとめ、スポーツ協会と見直し協議に入る。毎年開催の是非も含め、多角的に検討してもらいたい。

 ■大会の原点忘れず

 国スポはマイナス面ばかりではない。選手や役員のほか、応援などを含めると延べ数十万人規模が開催地を訪れ、一定の経済効果が見込める。住民がボランティアで運営を手伝ったり、選手を応援したり、地域でもてなしたりして交流を深める機会となる。スポーツを「する」「見る」「支える」それぞれの立場で、喜びを分かち合う貴重な大会である。

 その原点に立ち返るときだ。開催地の自治体と住民、選手を派遣する側を含め、みんなに望まれる国スポの「かたち」とは何か。存続か廃止かの二者択一ではなく、改革へ知恵を絞り、議論した先に理想の大会像が見えるだろう。

 元稿:熊本日日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2024年05月06日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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