O's Note

いつまで続くか、この駄文

こんな人だったのか。

2007-08-05 11:35:46 | 涜書感想文
 ここのところ、幻冬舎が出版する本を何冊か読みました。
 最初、出版社の名前から、おどろおどろしい内容の本を出版する会社かと想像しておりました。(笑)
 そんなことを思いながらも、『最近、単行本でも新書でも、結構売れている本を出版してるよな』と感じてました。
 そして読んだ本がコレ。

 見城徹『編集者という病い』(太田出版、2007年2月)

 手に取った瞬間、『この水滴は何だ?』と思うような凝った装丁の本です。
 幻冬舎じゃなく太田出版じゃないかとお思いでしょうが、この著者が幻冬舎の代表取締役。つまりこの本は、幻冬舎を立ち上げた見城氏が「書いた」本です。
 あえて「書いた」とカッコ付きにしたのは、書き下ろしではないという意味です。もちろん書き下ろし部分もあるにはあるのですが、それはごく一部で、ほとんどが過去に雑誌などで発表した文章で構成されています。したがって読み進むと『あれ、これ先に出てたぞ』と思うエピソードも数多くあります。書き下ろしではない、という点でやや不満が残りましたが、別の見方をすれば、過去の文章が満載ということは、ずっと前から見城氏が売れっ子だったということがわかります。
 見城氏はもともと角川書店の編集者で、最後は常務にまでなった方でした。それが、角川コカイン密輸疑惑事件(知っている人も少なくなったでしょうが)で角川春樹社長の辞任とともに、自らも辞表を提出して幻冬舎を設立しました。
 角川書店での最初の仕事が雑誌『野生時代』といいますから、小生には非常に懐かしく思いました。
 ところで、この見城氏、どれほどインパクトの強い編集者なのかは、次のラインナップを見ればわかります。
 尾崎豊、山際淳司、坂本龍一、松任谷由実、村上龍、五木寛之、銀色夏生・・・
 本書では、尾崎豊がいかに繊細で手がかかる人物であったこと、坂本龍一がラスト・エンペラーで作曲賞を受賞したときに一緒にいたことなどが、何度か紹介されています。これは単に見城氏の自慢話ではなく、編集者として自分が惚れ込んだ人物(それは、本を書かせたいという思いが強い人物)に、直線的にアタックして築き上げた人間関係であったことを紹介しているわけで、濃密になった人間関係から文章を書いてもらうようになった証でした。
 そして幻冬舎では、『ダディ』(郷ひろみ)、『弟』(石原慎太郎)、『大河の一滴』(五木寛之)、『13歳のハローワーク』(村上龍)などを出版することになるのですが、これらもまた、見城氏が築き上げた人間関係から生み出された書物でした。

 さて、この見城氏、キャッチフレーズの天才とお見受けしました。
 たとえば本書の帯に書かれている言葉、「顰蹙(ひんしゅく)は金を出してでも買え!!」。もともとは「顰蹙を買う」。眉を顰められるようなことをするという意味ですが、それをお金を払って買うという表現に重ね合わせています。言葉遊びとして面白いですよね。また、「薄氷は自分で薄くして踏め」なんていうフレーズも使っています。
 
 見城氏は、編集者兼経営者としての将来ビジョンを問われて次のように語っています。
 「ビジョンなんてないですよ。僕が生きていくだけ。劣等感や、みっともない見栄も含めて、僕の生き様がそのまま僕の仕事になる。僕が生きていくプロセスとして、もだえ苦しみ、得意になり、『これが見城だ』と心の中で叫びながら、たった一人の愛する女に、『ステキ!』と言われることに寂しさを埋める。それが、そのまま幻冬舎なんですよ。」(p.281)
 ハードボイルドですよね。(笑)
 小生の年代は、角川書店が大枚はたいた宣伝広告で、森村誠一、大藪晴彦等の作品を読まされたので、心のどこかに、こういったハードボイルド魂にしびれるものが残っています。

 小生の仕事の一部は文章を書く仕事ですので、とくに気になった部分があります。それは、見城氏がいう売れるコンテンツの4要素。

 ①オリジナリティがあること
 ②明解であること
 ③極端であること
 ④癒着があること

 小生が書く文章は文芸書とは違っていますので、③はなかなか難しい要素ですが(極端だと相手にされない可能性があるので。苦笑)、①と②はまさにピッタリ。④は売るための要素で、買ってくれる人がいる=書物との癒着ととらえています。これも小生の条件に当てはまらないわけではありません。

 それにつけても、こんな凄腕の編集者が設立した出版社だもの、小生がそれに踊らされないわけがありません。(笑)
 さて、この本も本棚に入れておこう。