俺はワルポンだっ!

ちょいワルおやじを卒業したワルポンの斜め下から見た現代社会

『ふくろうはワルポンの幼なじみ』

2007-08-02 22:39:07 | Weblog
高く低く、尖って丸く、平べったく、それぞれの形をして連なる山々に囲まれて「杉と清流の里」とよばれる山あいの緑豊かな自然に恵まれた小さな村がありました。
あちこちから夕餉の支度の煙が立ちのぼり、山寺のつく鐘の音が山の谷間に響いて・・・。
いつもの夕暮れ時がやってきました。

夕焼けで真っ赤に燃えた空に、からすがそれぞれの家族を連れ立って2羽3羽、7羽と羽音を鳴らしながら、里の杉林から向こうの山の森のねぐらへと、次から次と飛んで帰って行くのです。

黄金色にまぶしく輝くびっくりするような大きさの真ん円い太陽が徐々に形を変えながら次第に押し潰されて平べったい楕円形となり、ついには「す~っ」と西の山に沈むと、空は「ふーっ」と暮れてゆきました。
今度はこうもりが薄明かりの中で大群をなして乱舞するのです。

西の空も赤紫色から灰紫色に変化して、やがて夜のとばりに包まれて、杉木立や山々は墨絵のような影絵となりました。
ふっと空を見上げれば数えきれない満天の星、手を伸ばせばまるで届くようなすぐそこで、今にも降って来そうにきらきら輝いています。

       ☆       ☆       ☆       ☆      

「ノリツケホウセー、ノリツケホウセー、ホー、ホー」と、突然に頭上から、びっくりするような大きなちょっとくぐもった鳴き声が浴びせられました。
ふくろうです。
すぐ近くの木立の上で、あの双の大きな目をめ一杯見開いて、きらめく星屑をつぶらな瞳に受けながら。
「ノリツケホウセー」、「糊付け干せ!」と聞こえるのです。「明日は晴れますから、洗濯をして糊を付けて干しなさい」と教えてくれるのです。明日の天気を告げるのです。
ふくろうが鳴いた翌朝は必ず良いお天気になるのです。

天気が良くなる事は人間本能的に好きですよね。
ふくろうの天気予報を聞きながら、「あしたは晴れるんだぁ」と思いながら床につくと幸せな気分でぐっすり休めたのです。
ふくろうは、ほんのりした幸せを呼ぶ、安らぎを与えてくれる生まれながらの仲間であり、何か福を呼んでくれそうで幼心に親しみを持っていたものでした。

       ☆       ☆       ☆       ☆      

山寺の境内は参道からすっぽり周りを杉の大木と竹林に取り囲まれて、お堂はうっそうとした森の中に佇んでいました。
その裏山の中腹に、まれに見る欅の大木がありました。幹周りは大人6人がかりで両手を広げて手をつなぐ太さ、目通し直径3mくらいもあって、木の下に立つと枝先は天を被いつくしておりました。

その太い幹には落雷によって真っ黒に焦げた、大人も楽々入れる大きな空洞があり、其の上の方にも横穴の空洞があって、そこがふくろうの住処になっていました。
毎年巣作りをして、子供を生んで育て続けて、何十年何百年の間、ふくろう一族代々の安らぎの住処だったのでしょう。

根元には小さな泉がこんこんと湧き出ていて、小さなせせらぎとなって山の斜面を流れ下っておりました。

       ☆       ☆       ☆       ☆      

春のある日、泉の上に張り出した欅の根の上に、真っ白で小さなふくろうが小首を少し傾けて、目をぱちくりとして少し不安げに、ちょこんとじっと立っていたのです。
おそらく巣から転げ落ち、戻れなくて途方にくれていたのです。
このままではカラスや鷹にやられるかも、大きな青大将や狐にやられるかも・・・・。

そっと両手で捕まえて、かかえて家まで連れ帰り、鳩小屋へ取り合えず避難させました。
水を与えて肉をやり、2ヶ月ほどするとこげ茶の羽に生えかわり、羽ばたく羽音もたくましく、すっかり大人になりました。

小屋の扉を開け放し、さあ、お山へお帰りなさい。小首をかしげて丸い目をぱちくりぱちくりと、少ししてから、ぴょこん、ぴょこんと跳ねながら、次の瞬間飛び上がり一目散に古巣の山へ飛び去りました。あっという間の巣立ちです。

       ☆       ☆       ☆       ☆      

村の家々の屋根は皆かやぶき屋根でしたが、しかしながら、かやぶき屋根を葺く葺きしが老齢化していなくなり、葺く材料の萱場も植林や開墾で少なくなって、時代の流れは瓦屋根へと代わって往きました。

山寺も重厚なかやぶき屋根に覆われて、りっぱな佇まいでしたが、時代の流れには逆らえず瓦屋根への転換を余儀なくされたのです。
改修費用の捻出のために境内の杉木立は山師に売られることになりました。山師は「周りの杉木立を切り倒したら、空洞のある大欅は大風を直接受けて倒木してしまう、今のうちなら、高くお金になりますよ」と一緒に伐って売ってしまったのです。

       ☆       ☆       ☆       ☆      

ほんのりした幸せを与えてくれた幼なじみのふくろうは、代々住みなれた安らぎの住処を、こうして無理やり追い立てられて、山の奥深くへと引越して行ってしまったのです・・・。


ワルポンも故郷を遠く離れて流れ来て、ようやく辿りついたのが、緑豊かな森に囲まれた、夜などちょっと淋しくなるようなひっそりとした新しく切り開かれた郊外の新興住宅地です。自然も残るここに移り住んで20年・・・だが、しかし…。

その街の周りの森を切り開き、デベロッパーが再び開発の建設を始めたのです。

誰も反対運動などありませんでした。


そんな中、突然に
「ノリツケホウセー」と50年ぶりに、あのふくろうの大きな鳴き声を聞いたのです。
思わず外へ飛び出すと暗い大きな影が「さーっ」と夜陰に消えました。
後には宵の明星だけがひときわ大きく輝いていました。

うちの前の電柱の上に一人ぼっちで佇んで、あのつぶらで大きな双の目に涙をいっぱいためながら途方にくれて泣いていたのです。故郷の古巣を追われる寂しさにこらえ切れずに耐えかねて心の底から泣いていたのです。
切り倒された近くの森に住んでいた彼の悲痛な抗議の叫びに聞こえました。

今度は、何処に移り住むのでしょうか・・・。


・・・でも、翌朝は昔と同じく、やはり雲一つ無い快晴の青空でした。


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