名取里美
春の川光余して海に入る
色紙大
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たった17文字のなかに、壮大な自然が広がっています。
「春の川」「海に入る」は、ごく普通の言葉ですが、
その間に「光余して」が入ることで、
まるで気球が膨らむように、なにかが膨張していく感じがします。
「春の川」が光を運んで来た、けれども、運ばれてきた光は水とともに
海には入りきれないで、海岸に「余った」。
そう言い換えてしまっては説明的にすぎるけれど、表面上はそういう「意味」が受け取れます。
けれども、この句は、そういう「現象」ではなくて、
自然そのものの「動き」と「広がり」を表現しているように思えるのです。
圧倒的な「量」としてそこにあるのは
光であり、空気です。
あるいは、宇宙であり、世界です。
その中を貫く光り輝く「春の川」、そして、その川が流れ込んでいく無限大の「海」。
俳句というのは、
世界の一点を穿つことで、世界全体を描き出すものなのかもしれません。