萩原朔太郎「殺人事件」全文
全紙二枚(136×140cm)
第54回現日書展に出品している作品です。
この作品で「同人格推挙」となりました。
展示の様子はこんな感じです。
出入り口の脇の壁面に、ぼくの作品だけが飾られています。
目立つ所で、まったくお恥ずかしい次第。
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原文は以下のとおり。
殺人事件
とほい空でぴすとるが鳴る。
またぴすとるが鳴る。
ああ私の探偵は玻璃(はり)の衣装をきて、
こひびとの窓からしのびこむ、
床は晶玉、
ゆびとゆびとのあひだから、
まつさをの血がながれてゐる、
かなしい女の屍体のうへで、
つめたいきりぎりすが鳴いてゐる。
しもつき上旬(はじめ)のある朝、
探偵は玻璃の衣装をきて、
街の十字巷路(よつつじ)を曲つた。
十字巷路に秋のふんすゐ、
はやひとり探偵はうれひをかんず。
みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、
曲者はいつさんにすべつてゆく。
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なんで「殺人事件」なのか? と聞かれても困りますが
とにかく、高校生の頃から好きだった詩です
としか答えようがありません。
どこをとっても、透明感のある、夢のような
それでいて硬質なイメージに溢れている詩。
「とほい空でぴすとるが鳴る」の衝撃。
殺人事件で、血が流れているのに、生臭さがまったくない世界。
これほど見事な詩はぼくは他に知りません。
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全紙二枚は、ぼくにとっては初めての大きさだったのですが
こうして展示されてみると、やっぱり小さい。
今度は、もっと大きなものに挑戦することになりそうです。
■本日の蔵出しエッセイ うちひしがれた(9/39)
去年の現日書展では、こんなことを思っていたのでした。
今年は、こんなことはなかったのですが
やっぱり、まだまだの感でした。
「細くて今にもちぎれてそうな糸」に必死にしがみついてきたことは
確かなようですが
何よりも、よき師に恵まれた幸せを感じています。
書道を始めたころのエッセイをいくつか蔵出し。
57の手習い(5/96)
きっかけは友のひとこと(5/99)
愛の水中花(6/27)